17 探索Ⅱ

生い茂る草むらの中にアザセルはいた。

背丈よりも長い草だ。


翼が邪魔だな。


アザゼルは、背中に生えた翼を光の粒子に変え消した。


草むらを抜けると、夕闇の中に小さな灯りがぽつぽつと見えた。

しばらく歩くと、その灯りは人間の集落の家々から、漏れているものだと分かった。


藁でできた家が密集している。それらの家の一つ一つは、まるで大きな家の屋根だけを地面に置いたように見える。


「すまない。旅の者だが、一晩泊めてもらえぬか」

アザゼルは、藁の家の入口で佇んでいる男に話しかけた。

男はアザゼルを見た。口を開けて何も言い返しては来ない。


男はアザゼルに背を向けて走り去ったが、しばらくすると数人の男を連れて戻ってきた。

「オモド、ブサンナ、キア」

男たちの中の一人が言った。


古代に滅んだオブシュヌト人種の言語に似ている。

「サパラ、ベ、オーモキア、ロロ、ユア、リシュカ」

「ソソキラ、カ、アーラキア、ママノ、コラセタ」

「この、サシュラ、イビ、きたのか」

「ムンド、オペラ、オタガノ、さがしに」

「よほど、ムム、とおいところから、ヤシュビヌス、きたのだろう」


自分の頭の中にある、古代言語と現代言語の特徴を照らし合わせながら、目の前の男たちが話している言葉の文法的特徴を、解析していくと、少しづつ言葉が通じるようになってきた。


「あんた何処から来たのかね?」

初老の男が聞いてきた。

「覚えていない」

アザゼルは答えた。

「ほほ、覚えていないと?」

初老の男を中心にして、5人の男がアザゼルを取り囲んだ。

「ああ、ああ、手荒な真似はよさぬか。それにお主たちが100人束になってもこの者には敵わんよ」

「じいじ。何を寝ぼけたこと言ってんだ。背は高えが、こんなひょろっとした奴に俺たちが、負けるわけねえだろうが!やっちまえ!」

そう言うと、若い男が他の者たちにも合図して、アザゼルに飛び掛かった。


アザゼルは男たちの殴打と蹴りをかわすと、みぞおちや首の付け根などの急所に、的確な一撃を加え彼らを気絶させた。

「言わんこっちゃない」

老人は両手で顔を覆った。

「まあ、言いたくないなら構わんよ。何か目的があってこの地を踏んだのじゃろう。何を探しておる?人か?」

アザゼルは何も言わず老人を見つめた。

「それも言いたくないのか。好きにするがええ。泊りたけりゃ、うちへ来るがいい」

老人はアザゼルに背を向け歩き出した。

「何をしておる。ボケッとして、はよ来んかい」

ついてこない、アザゼルの方に向き直って、老人が手招きした。

「この人たちは、このままにして大丈夫なのですか」

「構わんよ。そんじょそこらの荒くれ者じゃあない。ここいら一帯を仕切っている強者じゃ。ちょいとすりゃあ、またむっくり起き上がって、ケロッとしとるじゃろ」

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