3 青い空間

 康太郎とフュゼルは青い空間にいた。


「こっちに逃げてきたのかい?」

 フュゼルが康太郎に話しかけた。

「ダメなのか?」

 康太郎が答えた。

 フュゼルは微笑んだ。


 その空間には上や下、左や右が存在しなかった。二人は方向感覚を失い、ぼやけた互いの輪郭をかろうじてとらえ、言葉を交わした。揺らめく青い立方体が、二人の間をうろついていた。


「でも逃げてばかりはいられない。現実逃避ばかりでは戻れなくなるし、自分が何者なのかも忘れてしまう。すべて忘れてしまう前に、早々に現実に戻ったほうがいい」

 フュゼルの声が青い空間にこだました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る