第2話

 1929年2月14日

 その日、アレッサンドロはマイアミのビーチにいた。アレッサンドロは、他の組員たちとは離れ、マイアミの海を眺めていた。

 ボスであるアル・カポネはその時、フロリダで事情聴取を受けていた。

 カポネはニューヨークからシカゴに進出後、最初はストリップクラブの用心棒や売春宿でポン引きなどをしていく一方で不正なビジネスを組織化して着々と裏社会での実績を挙げ、1年とたたないうちにシカゴ暗黒街を出世した。賭博場兼売春宿の支配人にもなり、育ての親であるジョニー・トーリオの右腕になると、客引きなどをする必要はなくなり、この頃すでに2万5千ドル近い年収を稼ぐ実業家となり、さらにシカゴに自分名義で家を購入しブルックリンから家族を呼んだ。妻子だけではなく母や兄弟たちも呼んだという。

 その後、ウィリアム・E・ディヴヴァーという人物がシカゴ市長になると政治改革が続くと考え、事業の本部をイリノイ州のシセロへ移した。

 しかし、サウスサイド・ギャングのボスになった頃から、自分も暗殺されるのではないかという恐怖から警備が厳重になった。

 カポネのボスであるトーリオはある日、醸造所の所有容疑で懲役9ヶ月と罰金5千ドルの刑を宣告され、カポネは手入れの夜に醸造所にいなかったので逮捕を免れたがこの逮捕がダイオン・オバニオンの裏切りによるものと知ったトーリオは激怒し、この後、「恐怖のジェンナ」とおそれられたジェンナ兄弟がトーリオとカポネに協力してオバニオン暗殺を計画し、暗殺したのだった。カポネは、どこに行くにも必ず両脇に2人のボディーガードを連れて行き、外出には車を使った。また、シカゴ市警や市長を買収するといったやり方を厭わなずにあらゆる方法で自分の命を守ろうとしていた。この時期、自宅以外1人でいることは無かったという。

「おお、きたか」

アレッサンドロは声がした方に振り返るとサウスサイド・ギャングの幹部、チャーリー・ウォレスが立っていた。

「兄貴、何のご用で」

「何...大したことじゃないが、まぁ聞け。俺たちは、近いうちにサツに捕まるかもしれん」

「はぁ...」

「いつだったか、マクガーンが言ってただろ?モランの連中を始末しろって。その事でお前に言っておかなくちゃならん」

モランの連中とはカポネと敵対するギャング、ジョージ・モラン率いるギャング達で、頻繁にカポネの命を狙っていた。トーリオはモラン一味に暗殺されかけ、ギャングを引退したのだった。危機を感じたカポネはモラン一味を抹殺するべく、密造酒の偽取引を持ち掛けて殺害する計画を立てていた。アレッサンドロもまた、その計画を実行すること、そしてその実行日が今日であるという噂を聞いていた。

「歩きながら話そう」

 そう言うと、二人は砂浜を歩きながら

「これからの時代、拳だけでは生き残れない。訳の分からん伝統やしきたりもいらん。合理的なビジネスが必要だと私は思う」

 ウォレスがアレッサンドロの方に振り向き、

「そこでだ、アレッサンドロ。私はホテルや酒場をいくつか経営している。いつかお前にそれを全部任せたいと思っているわけだ」

「なぜでしょうか?」

アレッサンドロはウォレスに聞いた。

「俺ももう年だし、守るべき家族がいる。平和な暮らしをしたいと思うようになったんだ。いつも仕事ばかりで家庭は二の次だったからな。今まで疎かにしていた分、きっちりしなくてはな」

アレッサンドロは言葉を濁しながら

「俺には守るべき家族もいないし、立派な人生を歩んだ試しもないです。俺にもいつかできるでしょうか?立派な人生を歩めるでしょうか?」

「できるとも。俺が育てたんだ。自信を持て」

ウォレスはふと思い出したようにこう言った。

「そうだ。お前にもう一つ教えなければならないことがある。ちょっと見ててくれ」

ウォレスは自分の指に精神を集中した。すると指の先が炎で燃え、それを使ってタバコに火を着けた。

「これは魔術というものだ。昔は悪魔の力だとかなんとか言われていたようだがね。20世紀は科学の時代と俗にいうが、これを使えば相手との喧嘩でも無傷で済んだり、相手を圧倒することができる」

「こんなことが...すごいですね」

「昔、いつだったか東洋の連中に習ったことがあるんだ。何でもそいつらが言うには、この魔術というものは誰でも使えるものだが悪しきやつらに悪用されるのを防ぐために習得させる人間を選ぶらしい。そんなものが俺たちに使われるとは何とも皮肉だと思うがね」

「俺にできるでしょうか」

「やってみるんだ」

アレッサンドロは精神を集中させてみた。すると電気が全身に走り、バチバチという大きな音を立てながら電撃が飛び散り、後ろに倒れた。アレッサンドロは自分自身の力に驚いた。

「なるほど...お前は電気の力があるようだな。俺は炎の力をもっているわけだ。今はまだ力を上手くコントロールができないようだな。これから少しずつ体を慣らしていけばいい」 

「分かりました」

「話は終わりだ。頑張れよ」

 話が終わり、ウォレスが砂浜を歩いていくとアレッサンドロは敬礼した。

 アレッサンドロは夜になると電気をコントロールする練習をして眠った。

 その次の日、世にいう聖バレンタインデーの虐殺をアレッサンドロは新聞の一面で知ることになる。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

マシンガンシティ ジャック @Anderson

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る