第2話 キミは幸せだった
朝、起きるとキミはぼくの袖を噛み、引っ張る。
今ではそれが朝ごはんのキミからの要求であることがわかる。
絶対にぼくの手からは食べないキミ。
差し出しても、顔をこれでもかと避けるキミ。
目と目が合うふたり。
無言の言葉と、静寂のルール。
お皿を床に置くコトンの合図。
キミはしっぽを大きくふりながら、顔をお皿に夢中で突っ込む。
ぼくはそれを無言で見続ける。
その時の顔は、絶対に他人に見られたくない。
見られたのならば、ぼくはきっとご飯係の降任を懇願するだろう。
お皿を舐め終わったキミはぼくを見つめる。
食欲と情愛とのたたかい。
目を合わせたら負ける……マルマルと太ったカラダから決して目を離してはいけない。
お皿をくわえて目の前に持ってくるキミ。
命令のない自主的な伏せポージング。
これに勝てたのならば、ぼくはきっと悪魔の仕事場でもやっていけるであろう。
うれしそうに、キミはシッポをふる。
お仕事。だと、部屋からでようとする。
キミは、ぼくのズボンのはじをちからいっぱいにひっぱる。
あと、1分くらいなら仕事に間に合うかなと、キミのあたまを優しくなでる。
キミは、シッポをふって笑う。
ドアの隙間が閉まる最後の刹那まで、キミは ぼくを見ていてくれる。
帰って来るまでひとりで
家の中で待ち続け
ご飯を食べて
ねむるだけ。
そんな毎日でも
キミは幸せだった?
「ペットロスの休暇」 いとり @tobenaitori
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