第15話

 マンションに戻ってからも、樋口からは連絡もない、タバコを一本吸いコーヒーを飲んだ、そろそろ縛った手足も壊死する頃だろうが、俺にはもう興味はない。


 由香里は心配していたが、問題ないとだけ答えた。


 晩飯の時間になり、そろそろあの三人を病院に運ばないとヤバいかな? と思い始めた頃に、安藤の携帯が鳴った、樋口からだ。


「何だ? 樋口」

『俺の手下三人が、お前を襲いに行かなかったか?』

「部下の管理も出来ていないのか? あいつらなら港で瀕死の状態だ、早く病院に連れて行かないと死ぬぞ」

『あの三人を殺ったのか?』

「退屈過ぎてあくびが出たぜ」


 電話が切れた。


 晩飯が終わりコーヒーと豆乳を飲んでいると、樋口から電話がかかって来た。


「うるさい奴だな」

『三人は再起不能だ、よくあんな酷い事が出来るな』

「襲って来たのはあの三人だ、ごちゃごちゃ言われる筋合いはない」

『三人とも手足の壊死と健の切断で、両手足の切断を余儀なくされた』

「知ったこっちゃない」

『今から出てこい、俺が決着を付けてやる』

「いいぞ、港でいいか?」

『ああ、待っている』


 電話を切って、由香里に話す。


「最後の決着を付けてくる」

「こんな時間から?」

「ああ、ラスボスだが一人だ」

「死なないで戻って来て」

「大丈夫だ数時間で戻る」


 車で港に行った、車が一台こちらに向いて停まっている、ヘッドライトは付けたままなので、十メートル以上前で車を停めた、こちらもヘッドライトを付けたままで降りる、樋口も降りてきた、お互いの顔がよく見える。


「左目はもういいのか?」

「右目だけで十分だ」


 お互いに近寄る、間合いに入った瞬間パンチが飛んで来る、軽く躱しボディにパンチを打ち込む、肋が折れた感触があったが樋口は怯まない、パンチが繰り出されるのを躱し、アッパーを叩き込む、樋口の体が浮き地面に倒れた。


 ナイフが出てくるかと思えば、拳銃を出して来た、俺は近付いた。


「撃てるなら撃ってみろ」

「殺してやる」


 ボンッと大きな音がして、拳銃と共に樋口の右手首が破裂した、骨がむき出しになり血が飛び散る。


「ぐわぁ、何でだ? いてぇ」

「上野に拳銃に小細工をさせた」

「貴様らつるんでいやがったのか?」

「ああ、竜児もな」

「組長まで?」

「そうだ、お前は島村組のお荷物だとよ」

「くそう、全員ぶっ殺してやる」

「その前に俺がお前を廃人にするがな」


 思い切り顎を蹴り飛ばした、樋口が気絶する、樋口のポケットからナイフを取り出し、手足の健を素早く切る。


 コンテナまで引きずり、背中をもたれかかせる、軽く顎にパンチを打ち付ける、途中で意識を取り戻した。


「止めてくれ、気分が悪い」


 無視してパンチを打ち続ける、一時間で悲鳴を挙げたがパンチは止めない、更に一時間で血涙と鼻血を吹き出した、心が壊れた証拠だ、全身を痙攣させながら、ヘラヘラ笑っている、目を見たが瞳孔は開いたままだ、ナイフで目を潰し、ナイフと安藤の携帯を海に投げ捨てる。


 そのままマンションに帰った。


 竜児に電話をかけた。


「俺だ」

『俊輔どうした?』

「樋口を倒した、これで終わりか?」

『俊輔がうちを潰さないなら終わりだな』

「潰すつもりはない、これで終わりだ」

『ありがとよ』

「人殺しにはなりたくないから、港の樋口を病院に運んでやってくれ」

『わかった』

「上野に助かったと言っておいてくれ、じゃあな竜児」

『ああ、じゃあな俊輔』


 奇妙な友情が芽生えた気がした、電話を切った。


 由香里にも電話をした。


『どうしました?』

「全て終わった、もう由香里も裕一も安全になった」

『ありがとうございます』

「またジムで会おう」


 電話を切った。


「あなた、全て終わったのね?」

「ああ、島村組は潰してないが、これで全部終わりだ」

「よかったわ、けど小さいけど何箇所か怪我をしてるみたい」

「拳銃が暴発した時の破片が当たったんだろう、痛くはない」

「消毒しなきゃ」


 服を脱がされ絆創膏を三ヶ所に貼られた。


 これでしばらくは事件も起きないだろう、またジムに行って長井と試合をすればいい、タバコを一本吸ってそう思った。

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闘争 椎名千尋 @takebayashi_kagetora

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