5.イン・ザ・シュレッダー



 顔という顔が僕を見ている。先生など、黒板に書く手を止めて、首を百度回して僕を見つめていた。

 無数の顔が、無表情に僕という物体を見ている。

 教室は、時が止まったような静けさだ。

 汗が吹き出して、一滴ノートの上に落ちた。

 僕は今、不適合者と認定された。



 不適合者と認定された僕ら家族は、一週間の内に出頭した。

 僕たちは、第八ポットに割り当てられた。第八ポットはドーム状の広大な敷地を持った工場で、首都郊外の樹海の中にある。


 老若男女問わず、約一キロの行列が林道を埋めている。

 怯える女の子、はしゃぐ男の子、厳しい顔つきで密談する大人たち、様々な人間がいた。

 彼らはみな、不適合者だった。



 一時間で行列は半分まですすんだ。この辺りから、コンクリートの壁が木々の間から見え隠れしていた。



 工場からは、機械の、けたたましい騒音がずっと鳴り響いている。


 ガガギギギギガがががが


 耳にこびりつく様な、不快な音だ。

 小学四年になる妹が泣き出した。


「あそこに行きたくない」


 母がそっと妹を抱きしめる。

「何も心配はいらないわ。ママがいる限りあなたは安全よ」

「ママは安全?」


 母は気丈に笑って、そっと妹を抱きしめた。「あなたがいればね」


「なぁ、一昨年ここへキャンプに来たのを覚えているか?」


 父が、目を合わさずに話しかけてきた。


「中学、入った次の日だよね」

「道は覚えているな?」


 父は僕の目を見ながら言った。険しい表情だけど、深いシワの一本一本から、僕への信頼が伝わる。父は昔、第八ポットの従業員をしていた。僕は頷いた。

 家族をこんな目に合わせた自分が、憎くい。父は僕の肩を軽く叩いた。


「何も言うな」



「Aの皆さん、一番ゲートへ進んで下さい。危険ですから、順番にお越し下さい。駆け込みはおやめください」


 無表情な中年男が、良く通る声で呼びかけている。

 体育館ほどの白い空間に、百人が待機していた。

 左右に二つずつ、ステンレス製の大きな扉がある。その上に一番から四番までの数字がふってあった。



「Bの皆さん、二番ゲートへお越しください」


 僕は妹の手を握った。僕たち家族はBだった。二十五人は、重い足取りで二番ゲートに吸い込まれた。


 また白い空間。真ん中を、排水溝が壁に向かって走っている。


 天井に、部屋を覆い尽くす様な巨大なプロペラが付いていて、ゲートが閉まるとゆっくり稼働した。

 轟音の中、父はみんなに呼びかけて、子供を集めさせた。


 排水溝に身体の収まる子供は、僕と妹を含めて六人しか居なかった。

 鼻や口に赤い液体が入るのを我慢して、子供たちは一人ずつ排水溝に入った。

 僕は一番最後に溝に入った。母は僕の額に口付けをしてくれた。


「キャンプ。覚えてるな?」


父は確認してから、排水溝の蓋を閉じた。




 冷たい、汚れた水の中を、ひたすら泳ぐ。途中、溺れた子供にぶつかったけど、妹ではなかった。


 耳にこびりつく様な、不快な音が、身体の芯まで轟いている。



 ガガギギギギガががががガガガが


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