第七十話 ニーハイの境界線に生まれる太ももの(以下自主規制)
「……ということで、早速なんだけど〜」
妙に嬉しそうな様子の堂庭が志賀郷に詰め寄った。
「ふふ〜ん。咲月ちゃんって良い身体してるよねぇ。スタイルも抜群だし」
「そ、そんな事はありませんわ。身長も低いですし……」
「そこが良いんだよ! あたしみたいなガチロリじゃなくて適度なロリ体型って男ウケ良いんだよ〜。しかも胸も大きいロリ巨乳ときた。悔しいけどあたしの完封負けだね」
堂庭は頭の先から足下まで舐め回すように見ながら早口でまくし立てた。良い子だけど救いようの無い変態なのは間違いなさそうだ。
「適度って言われても……反応に困ります」
「誇って良いんだよ! 咲月ちゃんは万人が最終的に行き着くロリそのものなんだから! ほら、例えばけ○おんのあずにゃんとか、らき○すたのこなたちゃんとか柊姉妹とか、NEWG○ME!の青葉ちゃんとか。如何にもロリコンが好みそうなロリじゃないけど、よくよく考えれば割とロリだよねっていう子はみんな人気あるでしょ? もちろん現実でも小柄な女の子を好む男は多いんだよ。……ね、狭山君?」
「えぇ!?」
めっちゃ饒舌になるじゃん、とロリを語る
「ぶっちゃけ咲月ちゃんみたいなほど良いロリ体型の子って好きでしょ?」
「ま、まぁ……嫌いな人は居ないだろ」
世間一般的に可愛い女の子と言えば比較的小柄な子を思い浮かべる事は多いだろう。そういう意味で言えば志賀郷は完璧なのかもしれない。
まあ、そんな理屈をこねなくても志賀郷の美少女っぷりは遺憾なく発揮されている訳だが。
……って恥ずかしいな。一人で考えるのも。
「ほらね、やっぱり世の男――いえ、全ての人間は無意識のうちにロリを求めているのよ。だから咲月ちゃんはもっと自信を持って!」
「……喜んで良いのかしら?」
「もっちろーん! ……あ、急に話変わるけどさ、制服可愛いね。どこの学校?」
「え……。京星学園、ですけど……」
「うわ、名門じゃん! 流石お嬢様だね」
いや君もお嬢様だろ、と内心ツッコミを入れつつ、堂庭にある既視感を覚えた。
変態なのは間違い無いけど、この呆れるような気持ち悪さは何だろうと思ったらあれだ。言動がおじさんだ。しかもこのご時世なら即セクハラで訴えられるタイプのハードなおじさんである。
「更に更にー? 極めつけはこのニーハイだぁー! うひぃー! このアングル最高!」
堂庭のおじさん度合いは更に加速し、志賀郷の前で膝を畳んでしゃがみ込んだ。そのまま見上げたらスカートの中も見えるんじゃないか、と思う程の距離感だ。
「ちょっ、どこ見てるんですかっ!?」
志賀郷の反応は速かった。すぐさま両手でスカートの裾を押さえつけ、真っ赤な顔で堂庭を睨む。なんというか、リアクションが完璧な気がした。本気で恥ずかしがっている志賀郷には申し訳ないけれど男の真髄に刺さるものがある。一言で表すなら、かわいい。
「ニーハイの境界線に生まれる太ももの膨らみって良いわよね」
「ただの変態ですわ……」
「咲月ちゃん、これからもよろしくね!」
「このタイミングで言われると素直に頷きたくないですわね……」
志賀郷の瞳は輝きを失っていた。小学生レベルの小柄で愛らしい美少女なのに、変態なロリコンが付加されたお陰で好感度が帳消しどころかマイナスに振り切っているようだ。でもきっと堂庭は悪い子では無いはず。……多分。
「そういえば咲月ちゃん達はどうして家に来てくれたの?」
「えっと……。私の身辺警護を堂庭家の方にお願いしていたのですが、志賀郷側から一方的に契約を打ち切ったので、それに怒ったメアリーさんが私を人質にしようと拉致してきて……」
「なにそれ!? メアちゃん、そんな酷い事してたの!?」
「いえ、これはあくまで建前ですわ。強制はされませんでしたし、私の意思で拉致されたので問題ありません」
「え……。もしかして咲月ちゃん相当なMだったりする? 監禁とかそっち系の……」
「ち、違いますわっ!」
あらぬ勘違いをされて今度は堂庭がドン引きしてしまった。誤解するのは無理もないが聞かせた相手が悪かっただろう。堂庭の変態思考によって誤解で誤解を生んでしまいそうだ。
「ごめんね……。残念だけど、うちには陵辱系が好きな人はいないから首輪とかムチは置いていないの。……狭山君もお楽しみができなくてごめんね」
「普段からやってる風に言わないでくれる!?」
いちいち俺に飛び火を食らわせるの確信犯だろ。
「んじゃそういう事で。あたしメアちゃんに呼ばれてるからそろそろ行くね。お二人ともごゆっくり〜」
「あの! 私は監禁とか変な趣味は――」
志賀郷が訴える間もなく堂庭は部屋を後にした。言うだけ言って逃げたなあのロリ……。
「……嵐みたいな子だったな」
「はぁ、疲れましたわぁ……」
脱力しきった志賀郷はそのまま革張りのソファに飛び込んだ。完全なオフモードである。
「スカートめくれてるぞ」
「え……。……見えてないですよね?」
「大丈夫だ。見えてない」
「ならいいですけど……」
もごもごとソファに顔を埋めたまま答えた志賀郷は片手でスカートの裾を雑に直す。白くて艶やかな肌が少し隠れた。
「夕食までまだ時間ありますわよね?」
「ああ。もう少しゆっくりできそうだな」
「じゃあ時間になったら起こひてくだしゃい。私は寝まふわ……」
既に意識が飛び始めているのか、欠伸混じりの声は寝言のように聞き取りづらい。俺は近くの椅子に腰掛けて頬杖をつきながらその姿を眺めてみた。
とても他所様には見せられない無防備過ぎる格好だ。疲れているのは理解できるけど……。なんせ学校が終わってそのままトラックの荷台に詰められて鎌倉まで移動した挙句、変態ロリ堂庭の洗礼を受けたのだからね。
とはいえ、東京の華とまで呼ばれている美少女が男の前で無抵抗で突っ伏しているのを見ると気が気でない。きっと俺を信用してくれているからなのだろうけれど、どうか他の人の前ではしないでほしい、といった独占欲に近い何かがふつふつと湧いてきた。
やがて志賀郷は微かに寝息を立てて本格的に眠り始めた。寝返りを打ってようやくソファから顔を出した彼女の表情はとても気持ち良さそうだ。
しかし季節は既に秋。このままでは風邪を引くかもしれないと思い、自分が着ていたブレザーを脱いで志賀郷にかける。すると志賀郷はブレザーの襟を掴んで首元まで運ぶと、大事そうにぎゅっと抱え込んでしまった。思わず息を飲んでしまうくらい可愛い仕草だが俺としては少々――いや、かなり気恥ずかしい。汗臭かったり……してないよな?
横長のソファにはまだスペースが残っていたので、俺は志賀郷の頭のすぐ隣に腰を下ろす。近くで見る寝顔は吸い込まれそうなほど魅力的で美しい。おとぎ話に出てくるシンデレラと呼んでも過言では無いだろう。そばに居る俺は王子様ではなく村人Eくらいのモブキャラだけど。
それにしても、こうも綺麗な寝姿を見るとつい悪戯をしたくなってしまう。少しくらいなら身体に触れても怒られないんじゃないか、寧ろ触れない方が失礼だろう、なんて利己的な考えが頭をよぎる。
ゴクリと生唾を飲む。大丈夫だ、少しだけならバレない。
伸ばした人差し指を志賀郷の頬に向ける。そっと近付けて……。
むにっ。
程よい弾力と柔らかさに指先が包まれる。これが女の子のほっぺたなのか。癖になる触り心地だ。
むにむにっ。
何回か押し返したところで戦略的撤退。これ以上触ったら絶対に止まらなくなる。そして志賀郷が目を覚ましてこっぴどく怒られるか嫌われてしまう。
「やれやれ……」
ソファにもたれかかり、天井を見上げる。シャンデリアの灯りが眩しくて落ち着かない。
しかしそれ以上に肉体的、精神的な疲れがどっと押し寄せてきた。目を閉じれば間もなく意識が遠のき始める。志賀郷の迎えが来たらまた忙しくなるだろう。それまでの間はゆっくり休ませてもらって……。
それから夕食の直前。頬を赤らめながら俺のブレザーを持つ志賀郷に起こされるまで、ぐっすり眠り続けていた。
学園一のお嬢様が風呂無しボロアパートに引越してきたんだが きり抹茶 @kirimattya
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