これから何を語ろうか

蘭 紅葉

卒業

思い出すのは遠い昔の事。いや、思っているほど遠くはないのかもしれない。

…またあの時に戻れたらと何度願っただろうか。

思いは届かず、ひびの入ったガラスに反射して淡く消えた。

揺れる髪に想いを馳せ、ただ眺めているだけでニヤつくような日常がそこにはあった。不特定多数と共にあり、無意味では決してない日々を意気揚々と淘汰した。


水の音が聞こえる。笑い声が聞こえる。

脳の奥の方で何かが歌いだす。


頬を伝った感情は、いったい誰が望んでいたのだろうか。

少なくとも私はそんなもの必要ないと言うだろう。

雑音のみが混じる沈黙の中で一人思う。


目は口ほどに物を言う。或いは、口よりも。

だからこそ寡黙な彼は、彼女は、宣戦布告をするように語りかけてくるのだ。

些細な事で馬鹿にし合って、貶し合って、裏切り合って、それでも共にあった。

思い出すという表現が間違っていたと気づいたのはこの時だった。


そもそも忘れるなんて概念が存在していないのだから、思い出しようがない。

そしていつかまた出会えて、沈黙が訪れる時こそ転機だと、今なら言える。


目を合わせ、表情が綻んだら合図だろう。


…これから何を語ろうか。

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