魔女の虚石
@sencho1971
第1話プロローグ
「悪い魔法使いがね、この世の全てを吸い込む黒い穴を作ったの。あなたのお父さんはそれに吸い込まれてしまったの。」
「吸い込まれてどうなったの?」
私は率直に聞いた。
母は悲しそうな顔をして、自分の胸に手を当てた。
「今はここにいるの。」
そう言った母は微かに微笑んでいた。私はそれを何かの例え話かおとぎ話なのだろうと、ぼんやりと思った。
あなたが18になったら、私はお父さんを助けに行くつもりなの。
18歳の誕生日の前日にお祝いをしてもらって、朝目が覚めると母は消えていた。忽然と。
部屋には母の服だけが残っていた。その服を震える手で抱き上げると、中から黒く光る宝石が転がり落ちた。
私は確信した。
父と母は、この石の中に閉じ込められているのだと。
死に物狂いで勉強した私には、聖も邪も関係がなかった。全ての学位を貪るように取り尽くし、国に並ぶものなしと言われる魔法の権威となったのは弱冠28のことだった。手段を選ばす手を尽くした研究の結果、私はその石をこう呼ばざるを得なくなっていた。
「暗黒の虚石」と。
石は通常の物質ではなかった。たやすく表現すればそれは、空間を凝固させた上で形をなした結晶。要するにブラックホールを石のような形に封じ込めたものだった。
推論とはいえその結論に至るには苦労した。なぜならこの石を生み出した張本人が、地上にブラックホールを召喚した大罪人、私の父である睦戸康貴その人だとされていたから。
そう言うわけで私はひどく歪んだ人生を歩む羽目になったわけだ。親の財産で戸籍を買い、名を偽って勉学に励み、仇敵を3人作り、今や通りを歩くこともままならない生活が続いている。
欲と、魔法と不思議な石にまつわる話を聞きたければ、私の代わりに買い物をしてくることだ。お使いは何人いても困らない。
さあ、契約の準備はいいかい?
魔女の虚石 @sencho1971
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。魔女の虚石の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます