秘密の日記

雨世界

1 ……私たちは、弱さを愛します。

 秘密の日記


 本編


 ……私たちは、弱さを愛します。


 あるところに、一人の男の子に恋をする三人の姉妹が住んでいた。


 長女は、積極的な性格をした長い黒髪をした少女で、年齢は一九歳。

 次女は、元気な性格をした髪をポニーテールにした少女で、年齢は十七歳。

 三女は、おとなしい性格をした少し柔らかい癖をした長い髪を持つ少女で、年齢は十五歳。


 そんな三人の姉妹が恋をしているのが、三姉妹の弟であり、家族の長男である『丘乃上みなも』と呼ばれる、少し歳の離れた十歳の男の子だった。

 三人の姉妹はことあるごとに、いつも「みなも」、とか「みなもちゃん」とか言って、(三姉妹とは正反対に)控えめで、とてもおとなしい性格をしたみなもにちょっかいを出しては、頭を撫でたり、その小さな体をぎゅっと抱きしめたり、抱っこしたりして、毎日を過ごしていた。

 そんな三人の姉妹の目的は、みなもに言葉を喋らせることだった。

 みなもには生まれたときから現在の年である十歳になるまで、実は一度も言葉を喋ったことがないという、そんな少し変わった特徴を持つ男の子だった。

 三人の姉妹はとにかくみなもに言葉を話して欲しかった。

 そして、できれば自分たちの名前をみなもの口から直接呼んで欲しかった。

 その目的を誰が一番早く達成することができるのか、そんなことを三人の姉妹は毎日のようにみなものことを愛しながら競争していたのだった。


 そんなある日、季節は冬の十二月の終わりごろ。

 いつものように三姉妹がみなもと戯れていると、突然、みなもが体調を崩して、すごく苦しそうな顔や仕草をし始めた。

 三姉妹はとても驚いて、すぐに病院に連絡をしようとしたのだけど、慌ててしまって、それをすることがなかなかできなかった。

 そんな風に三人の姉妹が慌てていると、四人のいるリビングになにか様子のおかしいことに気がついた四人の両親がやってきて、苦しんでいるみなもを見て、慌てて病院に連絡した。

 その日は、その年の初めての雪の降る、とても寒い日だった。

 みなもはくらい雪の降る夜の中を救急車で街の病院に運ばれて、緊急の治療と検査を受けて、それからしばらくの間、病院に入院をすることになった。

 三人の姉妹は学校に通いながら、交代で毎日のように病院にみなものお見舞いに行ったのだけど、数日が過ぎてもみなもの体調はまったく回復しなかった。

 みなもは三姉妹の顔を見ていつもにっこりと笑っていたけど、その顔色はすごく悪そうだった。

 そして、それからさらに数日後の夜、突然、再び体調を崩したみなもはそのまま病院のベットの上で、その数時間後に、たった一人で亡くなってしまった。

 運悪く、そのときみなもの家族は誰もみなものそばにはいなかった。(……病院には母親がいたのだけど、母親は心労と仕事で本当に疲れていて、その日はみなもの病状も少し落ち着いていたこともあって、ついうとうととして、仕事の電話をしてから、そのまま病室の外のベンチの上で、倒れるようにして、少しだけ眠ってしまっていたのだった。みなもが亡くなったのは、その間の時間のことだった。母親はそのことをそれから、ずっと、ずっと後悔していた)

 みなもがいなくなって、三人の姉妹は毎日を泣いて過ごすようになった。それは四人の両親である父親と母親も一緒だった。

 三人の姉妹と、その両親はそれから少しして、悲しい思い出あるこの住み慣れた土地から(みなもの思い出と一緒に)離れて、遠くの見知らぬ、自然豊かな土地に引越しをすることにした。(それはみなもがいつも図鑑を持ち歩いているような、動物や植物が大好きな子供だったからだ)

 その準備として荷物を整理しているときに、みなもの部屋で三人の姉妹は『みなもの秘密の日記帳』を見つけた。

 本当は勝手に読んではいけないとはわかってはいたのだけど、三人の姉妹はその日記帳を読むことをどうしても我慢することができなかった。三人の姉妹はそのみなもの日記帳を、もう住むものが誰もいなくなったみなもの部屋で三人で一緒に読んだ。

 そこには生まれつき学校にも行けないような病弱な自分を一生懸命になって育ててくれた両親への感謝と、それから毎日のように自分を励ましてくれた三人の姉たちに対しての「ありがとう」と言う感謝の気持ちが、一度も、その声を聞いたことがないみなもの言葉で、一冊の日記帳いっぱいに詰まって、ぎっしりと書かれていた。

 三人の姉妹はその日記帳を読んで、号泣した。

 それからすぐに、その日記帳を両親の元に持って行った。その日記帳を読んで、三人の姉妹の両親は同じように涙した。


 そして十年の月日が流れた。


 三姉妹はとても美しい、美人の姉妹として生まれたときから有名で、引っ越した土地でも、三人が三人とも程なく、とてもお似合いの理想のパートナーを見つけて、お付き合いをし、やがて結婚して、それぞれが子供を授かった。


 長女夫婦は男の子一人。

 次女夫婦は男の子の兄弟と、女の子一人。

 三女夫婦は女の子が三人。


 三人の姉妹は休日になるとそれぞれの子供を連れて、実家の両親の元を訪ねて、一時の幸せな時間を過ごした。

 どの夫婦が一番、自分たちの子供たちを幸せにすることができるのか? 成長した三人の姉妹はそんな競争を今度はすることにした。

 

 一番になるのは誰だろう?

 みなもちゃんは誰だと思う?

 ふふ。きっと私だよね?


 写真の中にいるみなもにそう問いかけても、みなもはいつものように幸せそうな顔で微笑んでいるだけで、なんの返事も、……言葉も、昔のように、やっぱり三人の姉妹には一言も話してはくれなかった。


 秘密の日記 終わり

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