第27話『エピローグ』

 転生女神との戦いから5年が経った。

 思だすのが大変なほどに、

 あれから色々あった。


 あの戦いの後、転生女神を倒した事は、

 宝石魔法によって空中に擬似モニターを

 作る方法で魔王ソフィアと勇者シローの

 連名という形で各国に発表されたのであった。


 この放送によって、

 千年にわたる人間族と魔族の殺し合いの

 歴史を裏で女神を名乗る不死者が

 意図的に仕掛けていたものであったことが

 白日のもとに暴かれ、知れ渡ることになった。



 そして今後二度と『生贄召喚』などという

 儀式が行わないこと、そして魔族、人間族、獣人

 は互いに同じ世界に生きるものとして

 手を取り協力しあっていくことなどが宣言された。


 このシローとソフィアの発表によって、

 世界は千年の終わらぬ争いの歴史から

 解放され、徐々にと平穏を取り戻していった。



 混乱なくスムーズに事が進んだのは事前に

 各国の王侯氏族に根回しをしていた

 ギルドマスターのギルダーに

 よるところが大きいだろう。

 

 ギルダーは長い間この世界で、時に泥臭い方法で、

 時に力技でそれでも支えてきた、

 ギルドマスターの王族達からの信頼力は、

 ぽっと出の"勇者"や"魔王"よりも高かったということだ。


 そして、ようやくこの世界は千年前の

 落ち着きを取り戻したのであった。



      ◇◇◇



 その後の話をしよう。


 元勇者パーティーの孫達は、

 転生女神を倒す際の貢献度が評価され、

 大幅にその罪は減刑された。


 とは言ってもギルドの超厳重な監視下に

 おかれる前提ではある。


 彼らも再びある程度自由に

 活動できるようにした。


 これは、感情的な判断というよりも

 合理的な判断によるものである。


 魔法の世界なので完全な比較は難しいが、

 科学の世界で言うなら彼ら自身の能力は

 アインシュタイン、ニュートン、といったような

 科学者と同じように、この世界の『魔法世界』

 としての文明レベルを数段高める

 叡智をもった賢者たちなのだ。



 例えば、人工のダンジョンを生成する

 "ダンジョン・コア"の技術を生み出した

 ショニーンなどがその最たる例である。

 


 一方で、叡智を持たない元勇者の孫の

 ユータは引き続き引き籠りの人たちだけで

 引き籠もったままで生きていけるコミュニティー

 の代表として地道に頑張っている。


 その活動での儲けはほとんどないが、

 同じ悩みを持つ人同士を支援する

 仕事に彼はやり甲斐を感じているようだ。



      ◇◇◇



 既に流入してしまった"現代チート"は

 ギルドの管轄下の元で、安全性を確保した

 上で事前の許認可を必要とする形で

 平和利用に限定して認められることとなった。


 "現代チート"のこの世界への流入は、

 転生女神の考え足らずな行動ではあったのだが、

 それはそれとして、既に入ってしまった

 文化や知識を完全に『なかったこと』

 にすることは不可能なのだ。


 むしろ『なかったこと』にしてしまうと逆に

 その謎を知りたくなるのが人の世の常なので、

 むしろ存在はオープンにして、面倒くさい事前の

 ギルドへの許認可証の申請を必要とする形で、

 現代チートの無毒化に成功した。



 黒色火薬は花火の材料としてのみの利用を許可。

 人工ダンジョンは、ギルドの新米冒険者たちの

 初心者冒険者のチュートリアルダンジョンとして、

 安全性を担保のうえで利用し、冒険者の育成期間

 として機能させるようにした。



      ◇◇◇



 ブラック労働、営利目的の信仰宗教宗教、

 マルチ商法、開運商法、などの詐欺商法は、


 その悪辣な方法を隠匿するのではなく、

 逆に手口をオープンにした。


 このような悪質な手法を世間に周知

 させることによって、被害を未然に防ぐことに

 成功したのであった。



 この世界では、現代日本よりも

 進んでいる面がある。

 それは『ゴーレム』を魔法により

 使役できるということである。 


 シローの元の世界でも、人型のロボットの

 実用化には至っていない。


 その一点だけで比較すれば、

 中世ヨーロッパ風世界と言われるこの

 世界の方が進んでいると言えるのかもしれない。


 

 ゴーレムは今までは戦闘用にしか使われて

 いなかったが、シローの助言などもあり、

 

 材木運搬、鉱山開発、都市開発などの危険な仕事や

 重労働を行わせるのを主要な用途とすることになり、

 これによってこの世界の魔法という独自技術での

 正当な文明発展をうながすことに成功した。 



      ◇◇◇



 王都ヤルダバオートも大きな変化を遂げた。

 まずは一番の変化は国名の変化である。


 新たな王都の名称は、

 "魔導都市国家ソフィア"。


 最初は勇者と魔王の名前を合わせた国名に

 しようという話もあったのだが、

 シローが辞退したためお流れになった。



「まぁでもね。"ソフィア・シロー"なんて国名、

 "サガサターン・シロー"みたいで、

 普通にかっこ悪いからね……」



 元の王都は、ゴーレムを使い今や

 元の王都の20倍の大きさになっている。


 魔法適性が高い魔族の都の民たちが行った

 ことからも、人間族と魔族との

 協調の第一歩となった。


 もとは人間族中心の国であったが、今では

 人間族、魔族、獣人がともに共生する

 国となっている。



 ソフィアが魔王として君臨していた

 "魔族の都"は、ソフィアが留守中に

 影武者をしていた四天王の一人

 に正式にソフィアは魔王の称号を譲渡。


 魔族の都は四天王の一人が統治

 することになった。

 

 内政はもとから、幼いソフィアに

 代わり四天王の一人が影武者兼実務を

 取り仕切っていたのは、彼女なので

 いままでと変わりなく発展し続けるであろう。


 もちろん、ソフィアと彼女は付き合いが

 長い間柄なので魔導都市国家ソフィアとの

 交流もスムーズに進むというメリットもある。



      ◇◇◇



 ラクイの古文書研究によるとこの世界を

 蹂躙しようとしていた存在転生女神と

 同じようにこの世界を狙っている存在、

 アイオーンなる存在がいることが判明した。


 千年前にメメントの森に直撃した隕石

 は調査に来た外宇宙の存在、

 アイオーンの偽装宇宙船であることが判明。


 メメントの森の山から取れるアダマンタイト

 という謎鉱石は、宇宙船のカケラ。


 メメントの森のモンスターが宇宙的な恐怖を

 感じさせる形状なのも、この隕石に付着していた

 微生物や菌などが影響していたようだ。


 ラクイと魔導都市国家ソフィアの叡智を

 持つ人間が協力して研究を進められれば、

 この世界の人間たちが宇宙に旅立つ

 日もそう遠くないだろう。



      ◇◇◇



 新しい国を作る際に、異世界に暮らしていた

 人間としてアドバイザー役となり、シローが

 様々な助言をすることはあったが、


 文明破壊にならないようにあくまでこの世界の

 築いてきた独自文明を発展させる方向での

 都市開発が進められた。



 一例だが、上下水道の浄化システムを

 "スライム"を使って行わせるなんていうことは、

 この異世界でないと不可能な技術である。


 また、他の国との交易を活発にするために、

 荷馬車の通リ易い道路等の開発も進んだ。


 魔導都市国家ソフィアの中心部には、

 大改修された中央ギルドが存在する。

 元の中央ギルドの10倍の広さの

 超大規模ギルドとなっている。


 ギルドの強い国家であることから

 この魔導都市国家ソフィアを

 『ギルド国家』と呼ぶモノも多い。

 


      ◇◇◇



 奴隷制度の撤廃もスムーズに進んだ。

 これは人道的な配慮からのものではない。

 需要と供給、コスパの問題である。


 単純に労働力として魔力供給で

 無尽蔵に稼働するゴーレムのほうが

 労働力としては相応しいと判断されたのだ。


 食事、住居、健康管理に気を使わなければ

 ならない人間よりも、コストのかからない

 ゴーレムを選ぶのは当然の結果であった。

 

 単純労働が主だった奴隷階級と、奴隷商人の

 需要は大幅に縮小していったのであった。


 解放された奴隷達は、

 ギルドでの人工ダンジョンでの

 訓練を条件に1年間の生活保障を付与。


 期間内に初心者訓練用のダンジョンを

 踏破できれば、冒険者としてのギルドカードを交付。

 基準を満たせない場合は各支店のギルド職員

 として働いてもらうこととなった。


 ギルド職員採用になる場合は地方の

 支部勤務になる可能性もあるが、

 さすがにこれは仕方がないことである。

 

 

       ◇◇◇



 シローはと言うと、ソフィアとの間にもうけた、

 銀髪金眼と金髪銀眼の双子の娘を

 溺愛する親馬鹿になっている。


 元の世界ではお金も気力もなく、

 塩パスタ、カップ麺、ポテチ中心だった

 食生活だったシローであるがこの世界で

 自炊の楽しさを覚え、最近では、ソフィアと

 子どもたちの料理はシローが作っていたりする。


 ソフィアと双子は、基本的に何を作っても

 美味しいと言ってくれるのだが、特に

 シローが作るチョコクッキーは双子に大人気である。



(まぁ。あまり食べさせすぎると、

 ソフィアに怒られるんだけどね)



 ただ、シローがステーキなどの肉料理を作る際に、

 塩振りおじさんのポーズをキメるクセは治らず、

 双子の娘たちがキャッキャいいながら

 真似するようになってしまった。


 

       ◇◇◇



 魔導都市国家ソフィアの代表は

 妻であるソフィアが務めるすることとなった。


 これは単純に大衆からの支持率と、

 この世界の代表を務めるのは、

 やはりこの世界生まれの人間の方が

 良かろうという、シロー独自の考えによるものである。


「日本に住んでいたとしても、いきなりきた

 宇宙人が、日本国の首相の座に座ったらそりゃ、

 俺ですら反感を持つだろうからな」


 ソフィアの地頭はシローよりも賢いのであるが、

 それはそれとして、まだ人生経験と実務経験の

 少ないソフィアには現実的に代表を務めるのは

 難しい面もあった。


 特に、対外折衝や微妙な駆け引きなどの

 理詰では説明できない明文化できない属人的な

 部分についてはソフィアは疎いためこの部分は

 シローが代わりに行っている。


 ギルドマスターともサシで飲み合う

 間柄のため事前の根回しが容易という

 強みもある。


 ソフィアのスピーチ用の原稿や

 資料の作成、スピーチ前の

 練習相手なども手伝っている。


 こういった内政実務や関係機関との調整や

 資料作成に関しては元の世界で鍛えられた

 能力が活かされていえるだろう。



 シローは、家事に、育児に、妻の補佐、

 対外折衝となかなか忙しい生活ではあるが、

 やり甲斐のある楽しい日々を過ごしている。


 このさきもシローとソフィア達は、

 都市国家を発達させていき、

 外宇宙への進出も進めることであろう。


 これからも困難に直面することもある

 だろう。未来は不確定なのだから。



 だけ、一つだけ確かなことはある。



「おーい。チョコクッキー焼けたぞー!」


「「パパ! 大好き~!」」



 シローとソフィアとその双子は、

 これからもずっと幸せにすごすという事である。






                 おしまい





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レベル999のロリ魔王とすばやさ極振り勇者が異世界再建! くま猫 @lain1998

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