メッキーの宇宙

ゆっくり会計士

第1話

 医者の話をまとめると、肝臓ガンでかなり進行している。ほかにも転移していて手術は無駄とのことだった。

医者は末期という言葉は使わなかったが、要するに末期らしい。


 家に帰るとひと美が「どうだった?」と訊いてきた。

「うん、過労だった」

「無理するからよ。しばらく仕事を休みなさい」

「そうする」

その夜はひと美の料理を食べてセックスをした。

彼女に休めと言われたが、やはり男としては最後にやっておきたい。

若くて美人なのにこんな頭の禿げた中年男に尽くしてくれるとは、物好きでやさしい女だ。結婚はしていない同棲生活なので、さすがに無責任な行為は控えた。

ひと美には誰か別の男と幸せになってほしい。

外に放出した後、彼女の耳元で「愛してる」と言うと思い切りキスされた。

セックスより欲しかったのはこれだ。セックスは前戯と言ってもいい。

俺たちは抱き合い何度もキスしあった。


 翌朝、俺は寝ているひと美にキスして家を出た。

書き置きは残してある。

電車を乗り継いで郊外の巨大施設『ジョイセカンド』に向かう。


「小林文明(こばやしふみあき)様ですね。こちらへどうぞ」

受付嬢についていくと、医者が現れカルテを見る。

カルテは全国の医療施設で共有されている。

「肝臓ガンですか。今の具合はどうです?」

「痛み止めが効いていて、平気です」

俺は書類に記入する。

「あなたが目覚めるのは10年後かもしれないし30年後かもしれない。医学の発展がなければ、永遠に目覚めることはないかも、です。わが社の管理責任は100年となりますので」

「このまま死んでもダメ元です」

大きな倉庫のような部屋に人型の冬眠装置がぎっしり並んでいる。

俺はその一つに入った。

「最後に見る映像を選んでください」

医者がくれたメニューには「海」とか「空」とか「日常」などがあった。

俺は「宇宙」を選んだ。

冬眠装置の内側が突然宇宙になった。VRゴーグルをかけているようだ。

星々が前方から後方に流れるのを見ながら俺は眠りの中に沈んでいった。



 目覚めたのは眠りに落ちた一分後、、に感じた。

体感時間は当てにならない。第一部屋が全く違う。丸い部屋でビルの最上階のラウンジのようだ。テーブルや椅子は無いが。

代わりに黒くて円錐の家具がいくつも置いてある。

変だ。

俺は今この部屋を360度、首も回さずに見まわしている。

俺は自分の手を見た。

視界にグネグネとフレキシブルパイプのような金属の曲がった棒が伸びてきた。

この鉄パイプが俺の腕?!

手をグーパーさせると、鉄パイプの先に光が点いたり消えたりした。

俺はガチャガチャとラウンジの広い窓まで行った。そう、ガチャガチャと。俺の足は鋼鉄で何本もあった。

窓の外は星の海だった。しかもゆっくり動いている。

これは冬眠装置のVRのつづきなのか?

だがその窓に映る俺の姿は、円錐形の鋼鉄ボディーだった。

円錐の頂点から三個の目玉が飛び出しており、側面からは例の二本の腕。円錐の底辺には10本以上の足が伸びたり折りたたまれたりしてうごめいていた。試しに走ってみると、ものすごい速さで移動できた。小回りも効く。

「成功だ」

さっきから部屋のあちこちにある円錐形の家具と思っていた物体が立ち上がり、目玉を伸ばして近寄ってきた。要するに俺と同じ姿をしている。俺は驚いて悲鳴を上げたかったが、出てきた言葉はピーゴロゴロというファックスのような情けない音だった。

「いきなりで、面食らっているのはわかる。だが君の古い肉体は博物館入りが決定した。君の脳は我々と同じボディーに入れさせてもらった」

驚愕、恐怖から困惑へと変わる。

「あの~、超こまるんですけどー」

パニックがすぐに治まったのは機械の体のせいだろう。友好的な種族なようだ。

「我々は君を宇宙空間で拾った。君の記憶を解析したが、調査した結果、君が暮らした惑星は存在しない。どうやら他の天体と衝突したようだ。君を冷凍保存した会社は君を停滞空間に入れたらしい。停滞空間は外部の物理的干渉を全く受けない。最後まで責任を果たそうとしたのだろう」

「地球が滅んだ?いつですか」

「君が冬眠して2万年後と思われる。今から3万2千年前だ」

なんだ、冬眠直後かと思った。じゃあひと美は自分の人生を全うしただろう。っていうか人類はもういないのか?おれひとり?

「我々が発見したのは君ひとりだ。宇宙を漂っていた」

別の円錐形が心を読んだらしく発言した。

「我々は人工生命体メッキーという。銀河系の中心にあるトーキナ星系のワッキー社の社員、というか会社所有の設備だ。現在は銀河系の各地にアンテナを立てる仕事をしている」

「アンテナ?」

「テレポステーションのアンテナだ。それがあるとその場所に瞬間移動が可能になる。だがアンテナはロケットで運ぶ必要がある」

おお、そんな設定のSFを読んだことがあるぞ。それに「メッキー」はフレドリック・ブラウンの「発狂した宇宙」にでてくる人工知能と同じ名だ。見た目はファンタズムの銀色の球体みたいなやつだったが。

「ではあなたたちは銀河系のいろんな場所を旅しているのか」

「そうだ。君が住んでいた星系にもアンテナを立ててきた。君たちが火星と呼んでいた星だ。あの辺りは観光スポットになるだろう」

古い冒険SFが好きな俺は飛びついた。

「お、俺も連れて行ってくれ。宇宙を見たいんだ」

「いいだろう。だが、我々は目的地に着くまでは活動を止めるか、本部に帰ることにしている」

「帰る?母星に?」

「ああ、瞬間移動が可能だからな。我々の故郷を見に来るかね?」



 俺は宇宙船の中を案内され、心ゆくまで星の海を眺めると、船の中に現れたゲートをくぐって銀河の中心の彼らの母星へ着いた。これがテレポステーションのアンテナの効果らしい。

 メッキーたちの母星のすさまじい巨大建造物、銀河の中心に位置するため、星だらけの夜空に驚いた様子はいちいち記するまでもない。俺は物質文明の行き着く到達点を見た。トーキナ星人は機械と合体しすぎてもはや特定の形を持っていなかった。足がタイヤの者も手がハサミの者もいた。寿命は数万年もあるらしい。

 メッキーたちは交代で船に戻っていた。船が無人になることはない。アンテナの電波は不安定なのだ。瞬時に数万光年を移動できるものを電波というのはおかしいがここでは電波と言おう。正しくは「情報」だ。情報のスピードに限界はなかった。ゲートが故障したり、情報が不安定だと船と母星は行き来できなくなる。メッキーたちの個体識別はメッキー502659874のような番号でおこなわれていたが、俺は特別にメッキー小林と呼ばれた。

 ある日俺はトーキナ星の博物館に出かけた。いろんな星が紹介してあった。高温の星のガス生物。エタンの海にすむ低温生物。そして太陽系の今は無き地球。そこに生物の進化図があった。細胞から脊椎動物、陸上動物、哺乳類、サル、最後は小林文明その人だった。禿げ頭に背広。

地球文明の到達点になってしまった。もっと恰好いいイケメンもいたのに・・・なんかごめん。

 俺はワッキー社で働くことになった。知識は学習機で憶え、脳に増設されたハードディスクにいくらでも入った。銀河系のいろんな星を回る。最初こそ星々を見ることに感動したが、やがて俺も目的地に着くまでの間は活動停止することにした。無人と原始世界が多かった。高度な文明はすべて遺跡だった。

「高度な文明は寿命が短いんだ。高度な文明同士が宇宙で出くわす確率は低い。我々が出会ったのも数例だ」

「君たちの文明も長くないということか?」

「宇宙規模の歴史だとそうなる可能性が高いね」

恒星間飛行には数千年かかることもある。活動停止していれば一瞬だ。

だが俺は次第にこの作業にも飽きてきた。

やがて、俺は銀河系のはるかかなた、他の銀河系からも離れた絶海の孤島のような星系に興味がわいた。俺はその星系をコトーと名付けた。

あそこへ行きたいと言うと、メッキーたちは非効率だと反対した。

他に回るべき場所は何万とある。だがあそこに行くには何万年もかかるだろう。しかも電波は不安定になると思われる。会社の許可が下りるとは思えない。


意外なことに会社はOKを出した。

変わり種が欲しかったらしい。ただしメッキー小林一人で行くように、だそうだ。コストはかけたくないだろうな。遭難する可能性は高い。俺は小型艇でひとりコトーに向かった。

5万年がたった時、会社と連絡が取れなくなった。ゲートが開かない。電波のせいなのか、故障なのかわからない。会社がなくなった可能性だってある。もう帰れないかもしれない。


 

 10万年が過ぎた。

俺が乗ったロケットはコトーに着いた。100年ごとに数分しか起きていなかったのであっという間だったが。

太陽の周りを二つの星が回っていた。

どちらにも文明があって、どちらも滅んでいた。一つの星はほとんどが海。もう一つはほとんどが陸。遺跡の周りにはどちらにもトカゲ型の生物がすんでいる。知能も低く、ただ餌を求めてさまよう動物。だが遺跡を見るとかって彼らこそこの星の霊長類で、遺跡を造った文明の主だったらしい。

トカゲたちは俺を見ると餌かと思ったらしく襲い掛かってきた。俺は鋼鉄の腕で彼らを投げ飛ばした。10匹ほど投げ飛ばしたところで、トカゲたちは逃げ出した。かなわないと分かったようだ。


 海トカゲと陸トカゲは似すぎていた。彼らが進化の過程で枝分かれしたのは明らかだ。俺は彼らがどこかの銀河系から移り住んだと推測した。俺のようになぜか銀河の果てを目指したトカゲ族はこの最果ての惑星にたどり着き、独自の進化をしたが資源を使い果たし、生き残るために争いはじめ、戦争でさらに資源を使い果たした。彼らがさらなる新天地を目指すには他の星から離れすぎていたのだ。


銀河の最果てでこんな文明の末路、争いの後を見ることになろうとは。

俺は地球のイースター島を思い出していた。石像を造るため木を伐りすぎて文明が崩壊し、飢えのために島民が殺しあった島。


俺はアンテナを立てたが、うんともすんとも言わなかった。

帰りの燃料は現地調達の予定だったが、なさそうだ。今の燃料で一番近くのアンテナを目指しても数億年かかる。

俺は腹をくくって星を調べた。

俺もトカゲたちもなぜここを目指したんだろう。

どちらの星の遺跡も山脈の周りに集中していた。

俺は山に登った。意外なことにこの円錐形の体は山登りにも適していた。

円錐ボディーを縦に縮めるとゴキブリのように地を這うことができた。

山頂には平らな展望台があった。石のテーブルがあり、そこに星界図があった。

夜を待って俺は星を見上げた。

そこに銀河系が見えた。視界一杯に。

俺がもし人間のままだったら息をするのすら忘れたと思う。この星とこの山は銀河系を見渡すために存在しているといっていい。

あまりの光景に俺が呆然としていると、テーブルのそばにトカゲがいた。

いや、彼はトカゲではない。

目はじっと俺を見つめている。

体はあの退化したトカゲたちよりずっと大きい。

そして恐ろしいほどに知性を感じる。

俺は心の中を全部読まれたと思った。

彼はトカゲではなく、まぎれもなく竜(ドラゴン)だ。

「あの銀河を造った者がいて、それを神と呼ぶなら、神は間違いなくここにいたに違いない」

ドラゴンの声は腹にまで響いた。

「・・・ええ、そう思います」

「我々がすべて戦争で滅ぶか、退化したと思ったかね?ほとんどは進化して自分好きな世界に旅立ったのだ。今ここをうろついているトカゲたちは進化できなかった組だよ」

ドラゴンは憐れむ調子で言った。

「私の名はアートロスだ」

「私はメッキー小林といいます。旅立ったとは、ロケットですか?それともアンテナで?」

「必要ないよ」

アートロスは俺に近づき、空間を少し撫でた。すると俺の目の前の空間にいろんな記号がずらりと現れた。

「これは?何をしたんですか?」

「君の個人コードを見えるようにしたんだ」

「個人コード?!」

「これが君の体の状態、これが性格、ここが君の現在位置を表している」

俺は記号を眺めた。時間をかければおそらく理解できる。

「でも、いったいなぜこんなものが存在するんです?あなたはいったいどうやってこのコードを開いたんですか?」

「コードを開くにはコツがあるんだ。やり方を教えよう」

アートロスは個人コードの開き方を教えてくれた。

「こんな簡単なことで、、、なんで今まで誰も開かなかったんだろう?」

「この最果ての星だから気が付いたんだよ。それからなぜ個人コードが存在するかだが・・・わかるだろう?君も私もあの銀河も作りものだからだ。誰かが作ったプログラムだよ」

「・・・確かにそうとしか考えられない。神は、、すさまじい知性と仕事量だ」

「我々はこのコードを解析した。そして世界の一部を作り替え、そこで暮らしている。君もそうしたらどうだ?」

「世界を作り替える?それは個人コードの域をこえていますね」

「ああ、あまり出すぎた真似をすると神の機嫌を損ねるかもしれない。だがおそらく神は我々の行動など織り込み済みだろうな」

自嘲気味に笑うドラゴン。

「この個人コードの現在位置を書き換えると・・・」

「君は別の場所に移動する」

「なんてことだ。アンテナなんて最初から不要だったんだ・・・」

俺は肩を落とした。正確に言えば円錐形がひしゃげ、三つの目がだらりと垂れた。

「無駄な努力だったな」

「いや、ここに来たおかげです。いや、まてよ。時間はどうなんです。時刻のコードを書き換えると、時間も移動するはずです」

「当然そこに気が付くか。時間は科学的には現在過去未来を区別しない。だから君の未来も過去も既に存在している。決まった運命を歩むだけだ。そこを踏まえて時間移動したまえ」


 アートロスが異世界に消えた後、俺はコードの解読に時間を費やした。

千年が過ぎ、俺は大体の解読を終えた。書き換えも試してみた。

俺は自信をもって自分の座標を銀河の中心に書き換えた。


 メッキーたちはまだ働いていた。何度もバージョンアップして白い流線形になっていた。ワッキー社はまだ存在していたが、新しい方式、新しい電波に替わっていた。今では星ごと瞬間移動できるらしい。

 俺が「アンテナを立ててきた」というと、古い機械を引っ張り出しゲートを開き、新しいアンテナを送り込んでいた。銀河系が一望できる絶景スポットだというと喜んでいた。個人コードのことは教えなかった。ワッキー社がつぶれるからな。


 俺は博物館に行き、個人コードの自分の容姿を人間だったころの自分に書き換えた。それがすむと自分の座標を銀河の端のほう、時間を15万3千年過去に移した。俺は太陽系の宇宙空間に現れた。それから何度も修正を繰り返し目指す時間、目指す位置にたどり着く。

6階建てマンションの3階から俺が出てゆく。

ジョイセカンドへ向かうところだ。

入れ替わりに家に入る。指の先を鍵の形に代え、ドアを開け、テーブルに置いた書き置きを破り捨てる。

3か月後、ひと美と結婚した。

あとはひたすら彼女に尽くした。ほんの60年だ。

その間に俺は瞬間移動で冬眠中の俺を停滞空間で包み、座標を宇宙空間に書き換えた。冬眠カプセルごとの失踪。あまりの怪事件に会社は事件を隠ぺいした。

子供ができなかったので養子をもらった。

その子も独り立ちし、82歳になったとき、ひと美は「すごく幸せだった」と言って世を去った。

聞きたかった言葉を聞けて安心した。

ひと美に合わせて年をとっていた俺は久々に円錐形に戻った。



 メッキーとなった俺はタイタンで2万年の時を過ごした。

俺は世界のコードを造っていた。

書き換えではなくゼロからだ。

神の奇跡の数兆分の一でもいいから自分の世界を造りたい。

俺が作っていた世界は未だに無人だったが緑豊かで食べ物も豊富だった。

魔素が充満していて、魔法が使えるはずだった。



 人類は火星に進出しいていた。

ある日巨大な遊星ゴゴスが太陽系に侵入した。それは地球と衝突するコースをとっていた。地球ではパニックが起こり、富める者だけが火星に移った。

彼らの子孫は生き延びて、火星にアンテナを立てに来たメッキーたちと出会っただろうか。それともイースター島のようになって滅んだだろうか。


ゴゴスと地球が接近し、互いの引力で星が崩壊する寸前、俺は自分を1億体に増やした。1億の俺は地球上のさまざまな人間や動物たちを俺が作った世界に移動させた。彼らの個人的な記憶は新天地に入るときに消え去るように自動プログラムしてあった。自分たちが誰で、なぜここにいるのかわからない3億の人間たちが俺の世界で必死に生きている。今の段階でこれ以上の人間を救うのは無理だった。俺はこの世界の最も美しい山の頂から彼らを見下ろした。人々は村を造り、なんとか適応しようとしている。


 何千年もそこから見ていると、ある日傍らにドラゴンが現れた。

「アートロス、あなたか」

「私を知っているのか?」

「13万年未来の銀河の果ての星で会いました。私はメッキー小林です」

「そうか。新しい世界の書き込みがあったので来てみた。面白そうな世界じゃないか」

「ああ、あなたに教えてもらったコードを自分なりに発展させました。もう少ししたら国家ができそうです。銀河を造った神に比べるとママゴトレベルですが」

「私はいろんな世界を見て回ったが、面白い世界を見るとそこで暮らしたくなる。数寄というやつだ。壮大なばかりが価値ではない。この箱庭世界は趣がある」

「ありがとう。好きなだけいてください。私もしばらくしたら人間になってあの中に混じろうかと思います」

「それはいいな。我々の神もそうしたのかもしれん。どっぷり趣味に肩までつかるわけだ」



トラファルバのクピタ山にはドラゴンが住んでいるという噂は冒険者のほとんどが知っている。

何人もの騎士や勇者が退治しに出かけたが戻った者はいない。


武器屋にて


「メッキーさん、新しいTシャツどうですか」

「いや、買いませんよ。俺みたいな禿げ親父が美少女のシャツを着てたら絶対馬鹿にされるでしょ」

「でもこの女の子の絵をよく見てください」

「ほほう、刺繍が小さい文字の集合になってるんですか。『こうげき3ばい』と読めますね」

「アホっぽいと見せかけて超強キャラごっこができますよ」

「どうせなら100倍にすればいいのに」

「僕の魔導だと3倍が精一杯です・・・」

しゅんとなる南山。

この男は個人コードの書き替えに近いことをシャツでやっている。別の世界から来たと噂する町人もいる。奇妙な奴だ。

「あ~、だれかうちのTシャツ着て竜退治とかしてくれませんかねえ」

「無理でしょう。あの竜一匹で街が滅ぼされるレベルらしいですよ。攻撃力3倍とかじゃあ話にならないっすよ。それにそのシャツの柄じゃあモテないですよ。せっかく(人間やるん)ならモテたいんです」

「じゃあ、こっちはどうですか?僕の趣味じゃないけど『イスの大いなる種族』っていうTシャツです。さっきと同じ刺繍でいろいろ三倍です」

南山が出したシャツには円錐形から三つの目が飛び出した生き物が描かれていた。なぜか手がハサミだ。

「何ですか、これは」

「世界各地にある伝説ですよ。かって大絶滅から人間を救ったという種族です」

「ほ、、ほほお」

「ちょっとかわいくアレンジしてますが、不細工なモンスターでしょう。ブサカワってセンスがわかるかなあ。なんでも胞子で単為生殖する種族らしいんで・・・」

「ふざけんな、そんなわけあるかっ!」

「く、苦しい。な、なに怒ってるんですかあ、メッキーさん」


眼鏡で禿げの冒険者メッキー小林はそこそこ強い、と噂が立つのはもう少し先のことである。


(終わり)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

メッキーの宇宙 ゆっくり会計士 @yukkurikaikeisi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ