タイトル.80(最終話)「果てなき希望 ~ミッシング・リンク~ 」


・・・・・・・・・・・・・・・・


 かくして、一人の馬鹿野郎の活躍によって世界アウロラは救われました。


 スバルヴァの言う通り、人類の間にはちょっとしたいざこざがありました。

 そりゃあ当然です。政府本部局はガラ空きの状態。ロックロートシティの財政などもどうするかなどトップ同士での争いは後を絶えませんでした。皮肉なことで。


 ですがそこで大きく動いたのが、新しく政府本部局を取り締まった特殊部隊セスの生き残り達。ジャンヌとキーステレサとドガンでした。

 神殿アトラウスの暴走よりロックロートシティを守るために……生き残りの政府兵への指示や、市民たちの避難などはもちろん。

 アトラウス崩壊後も、ロックロートシティを立て直すために活躍したのです。なにせ彼女たちは本来……あの街を守るために戦い続けた戦士達なのですから。


 そして彼女たちの口から……オルセルの野望。そのすべてが語られました。

 当然、そのことについての騒乱デモは後を絶ちませんでしたが、ジャンヌ達はこれ以上の争いを続けるわけにはいかないと必死に声を上げ続けたのです。

 無駄な血を流さないためにも。真の平和を掴む為にも。新たな組織として、ジャンヌ達は世界を駆け巡りました。寄付もしました。復興を手伝いもしました。

 数年という長い月を経て、世界再生を夢見たその姿に、信頼を得たのです。結果、ロックロートシティのみならず……アウロラはひとまずの平和を取り戻したのです。


 そこからのロックロートシティの変化として驚いたのはまず一つ。

 まず新市長に選ばれたのは……まさかのドガンだったのです。

 元より素のテンションや見た目から小さなお子様には人気が高く、政府などに対してはそれとなりに頭が動き、アトラウス神殿暴走の際は誰よりも動いた懸命ぶり。その一面を強く評価され、選ばれたとのことだそうです。

 ですが彼には女遊びの噂が後を絶えないので、ちょっと不安がられていますが。ネットアイドル・リンへの忠誠とやらはどこへ行ったのやら。


 ジャンヌはその後も自身の資金を使って孤児院を全国に増設したとのこと。今回の事件、そしてオルセルの暴走で親を失った子供たちを保護するため、ジャンヌは全世界を回っているそうです。


 キーステレサは回復の目途を立たせつつある中、これを機にテロの一つでも行おうとしている集団を片っ端から死滅させているようです。正義の名のもとに悪を絶つ。そんな都合の良い言葉で殺しを続けている彼の存在、今のところ表沙汰にはなっていないようだが果たして……ふふふっ。





 こうして、世界は少しずつですが回復しています。


 復活を果たしたアイザ・クロックォルは何不自由なくロゴスの面々と仕事に明け暮れています。大人しくなるどころかむしろパワーアップ、無邪気さに磨きをかけたアイザは今も賞金稼ぎとして名を上げて活躍中。


 ロゴスの面々は月日を立てたこともあり、穏便な日々を……送ることは当然なく。

 むしろその自由っぷりは迫力を増すばかりです。金を稼ぐため冷酷に、己の美しさを証明するために、殲滅にむしろ背徳感すら覚えてしまったと。以前と比べてマジで悪化したように思える面々。


 ……まぁ、彼らは元より治安とはかけ離れた世界の住人。

 これくらい自由な方がスリルがあって楽しいのかもしれない。


 そしてカルラ。この世界を救ったクソ英雄たちも。

 新たな一歩を踏み出しているのです----








「本当、人間であっさりなもんよね」

 アトラウス神殿の出来事は人々の記憶から薄れつつある。アウロラは新時代を迎えようとしているのだ。

「そうでもなければ、数千年も数万年も生きてるわけないか。こんなに弱い命がね」

 町はずれのテレビ局。カルラ達のテロ行為により年以上は活動を停止していたこの場所が数年たった今は何事もなく機能している。

 いつも通りのマニアックチャンネルの撮影と放映が行われているのだ。

「私の思う世界。夢と欲望漂う自由な世界……そうそう、そうこなくっちゃね」

 つまらない滅びを迎えつつあった世界。その世界は一人の女神の思う方向へと進みつつある。

 彼女の望む世界が正しいかどうかは分からない。女神はただ一人、テレビ局の中に足を踏み入れると満足そうに笑みを浮かべている。

「だーけーどー、一つだけ納得いかないのは~」

 不貞腐れる様に一つの撮影スタジオの扉を開く。


『はーい、こんにちは~! 皆のアイドル、リンちゃんだよ~★』


 もうこの世にはいないはずのネットアイドル・リン。

 その二代目を担当することになったと思える女性アイドルが装置を身に着けて年甲斐もなくぶりっ子ポーズを披露している。

「代わりはゴロゴロいるわと……なんか、腹が立つわ」

 何の躊躇いもなく雇われた二代目。不機嫌そうに女神はその撮影スタジオから去っていく。

「まぁ元より? 私は目的の為にやっていただけだし? そんなに口惜しいとか一切ないわけだし、実際のところはどうでもいいけど? 気にしてねーし??」

 実際、あんな撮影興味なかった。

 全ては人類をコントロールするための布石。全ては計画のため。

 アイドル活動に対して何も未練なんてない。むしろ退屈だったと言い張っている。ブツブツブツブツと言霊のようにアイドル活動への愚痴を続けている。



「……」

 鏡の前。女神は足を止め、真上を見る。

 そこには侵入者がいないかどうかを確かめるための監視カメラがあった。

「ふふっ」

 ほんの一瞬。

 女神は……いつしかの幼女の姿。

 ネットアイドルの姿へと肉体を変化させる。当然、身にまとっている衣装も当時のものと同じものを、だ。

「は~い! こんにちは~♪ みんなのアイドル、リンちゃんだよ★ 全世界のお兄ちゃん、お姉ちゃん。元気にしてたかな~?」

 胸元に両手で作ったハートマーク。太ももを意識するように足を交差させ、年甲斐もない派手なウインク。自身の異能力を使って、何かしらのアクションをするたびに星のマークやハートマークなどのエフェクトを立てていく。

「……」

 静か。その声に歓声はない。無音の虚しさだけが、彼女を迎える。


「……くすっ。本当、こんなものの何がいいんだか」

 ポーズを辞め、肉体が徐々に元の姿へと戻っていく。

「本当、人間って面白いわ」

 女神の姿はこの世界には存在していなかった。

 後日、監視カメラに写っていた彼女の姿を前、スタッフと警備員は大騒ぎ。その出来事は『初代の幽霊』なんて都市伝説として語り継がれるようになったんだとか……


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 アウロラの住民達は新しい未来に向かって走り続けている。

 己の夢のため。己の野望のため。己の欲望のため。

 己のすべての為に命を燃やし、懸命に生き続けている。

 努力をしながら戦い続けているのだ。


「次の仕事はドラゴンを捕まえてこいだそうだ」

「うわぁ~、随分と自殺行為な仕事を選びましたね……」

 誰の目にも届かないこの隅っこでも。懸命に働き、夢を目指す若者達がいる。

「まっ、このメンツなら余裕だろうよ。なっ?」

 明日の為に戦い続ける面々。

 いつもと変わらぬ毎日。明日の生活の為に最先端の仕事を行く便利屋の女アキュラ・イーヴェルビル

「……ええ!」「あぁ、そうだな!」

 変わりつつある世界をこの目で見続ける。そんな願いを胸に秘めた異種族の少女シルフィ

 祖国のため、資金稼ぎの為にとこの場に残ることを決意した忠誠の騎士レイブラント・ハリスタン。そして----


「だなっ」

『その通りだな! ご主人!』

 誰よりも足掻き、誰よりも努力して。

 人間として生きることを決意した青年。


 人間達の戦いは終わらない。

 生きる限り永遠に……命が尽きるその日まで。


 その心が、折れない限り。

 その毎日を諦めない限り。

 その努力が、続く限り。


 生きると誓う、その限り。


 希望ヒーローは君達の味方。君たちを守り続けるのだ-----


「それじゃあ、おっ始めますかァアッ! このアウロラを救ってみせた最強無敵の超絶英雄スーパー・ヒーロー! カミシロ・カルラ様の大活劇ィイー-ッ!!」




 << Ab≒HeRO ~自己満系自称英雄の異界冒険~ 完 >>





     

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Ab≒HeRO ~自己満系自称ヒーローの異界冒険~ 九羽原らむだ @touyakozirusi2

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る