第7話 後手に回るは奥の手あり

「じゃあ始めましょう?ユリ。


一瞬の静寂の後、戦闘は始まった。

あまりにも異次元なその戦闘に呆気に取られていた。


2人同時に駆け出し一気に距離を詰める。

ヒビキは刀に雷の属性を纏わせて横一線に薙ぎ払い、雷属性の魔術を飛ばす。

リエはそれをあたかも野球の球のように弾き飛ばした。

そしてお互いが得意とする間合いへ。

仕掛けたのはヒビキ。

舞い踊るような華麗な体捌きで絶え間ない連撃を繰り出す。

対してリエは鋼鉄のような腕を荒々しく振り、攻撃を凌ぎ反撃する。

両者一歩も引かずの攻防。



「「す、すごい・・・。」」


瞬きすら許されぬその攻防に俺とユウは目を奪われて口を揃えてつぶやいていた。


埒が明かないと悟った2人は一度距離をとる。

お互い目を合わせ話し始める。


「去年よりも腕を磨いたつもりでいたけど、ただではやられてくれないわね」


ユウから聞く話によるとヒビキさんの鍛錬は常軌を逸したものらしい。

辛いと嘆いていたのを覚えている。

その鍛錬をもってしてもやりきれないのは単にリエさんの実力の高さを物語っている。


「そんなこといってここで決めようなんて考えてなかったんでしょ?私も


「魅せたいもの、いいわね。どっちが強いか比べましょ」


子どもの言い争いのような幼稚さを感じるが、この場の雰囲気は殺気やら緊迫感やらで埋め尽くされていて笑える場面ではなかった。



戦闘は様子見の小突き合いから、決定打を決めていく激しい戦闘に変わる。



先ほどの舞い踊るような剣撃からうって変わり、体全体に雷を纏わせ高速移動しながら雷の斬撃を繰り出す。

あまりの速さと雷の属性も相まってヒビキが通ったところで雷が落ちたような轟音が唸る。


「そろそろ保たないんじゃない?その腕」


ヒビキの猛攻撃を腕で弾いて受けていたが、その硬質な腕でさえも凌ぎきれなかった。

ピキッとガラスが割れたようなひび割れが広がり、両腕を覆っていた殻が破れた。

腕が剥き出しになり、リエ本人の華奢な腕でが見えていた。


「さすがやるわね...。やっぱり攻撃を耐えきれなかったわ。」


硬質な腕での守りができなくなり、ヒビキに軍配が上がる。


「でも、ここまでは想定済み。これを見越して技を身に着けてきたのよ。」


そう言い終えると、剥き出しの腕の形状が変化していく。

さっきまでの太く見るからに硬そうな腕ではなく、全身は竜の鱗のようなものを纏い、それぞれの肘から先は一本の刃に変化させていく。


そして、


「去年までは系統の違う形状に同時変化させることはできず、鱗のみ。刃のみ。鋼殻のみ。今年は混ぜることができるようになった。そして」


形勢逆転、と言わんとするその表情には自信も満ち溢れていた。



「ここからよ、ヒビキ――」



ものの数秒で姿を変え、人の面影すらないリエは変身を終えた後すぐに攻撃を仕掛けた。


戦い方は変わりないが、尾が生えたことにより反撃の余地を削っている。


「とても厄介なものを用意してきたわね・・・っ!」


ヒビキは捌くのが精一杯で反撃に出れず、今までに見たことのないくらいに圧されていた。

傷すらついたことが無いであろう身体は無数の切り傷が刻まれいつもの余裕の表情は消えている。


防戦一方、戦況を変えるには一瞬の隙を一撃で攻めるほかない。

しかし、それをこなすには速度、威力、正確さそのどれも欠けてはならない。

だがヒビキならそれを――。


「やっぱりあなたは私の全力をぶつけてみたくなる...。使。じゃないと見失うわ。」


揺さぶりか忠告か、その真偽は定かではないが周辺の変化を見るにとんでもない攻撃なのはわかった。


ヒビキの上空は暗雲が垂れ込め、刀に纏う蒼白い雷の色は紫色に変化している。


「紫電雷光―。」


発する言葉と同時に姿。否、目で捉えることのできない速度で斬撃を何度も繰り出していた。目に映るのは通り過ぎたあとの雷の残滓。


これだけの攻撃、術者にも負担は大きいはずだが、なによりもその対象者は耐え凌ぐどころか生きのびることができるかすら怪しい。


雷による光の瞬きと一瞬遅れて聞こえる轟音が鳴り響く。

リエは反撃などできるはずもなく、ただ攻撃を受け続けるしかなかった。

ただ、言い換えれば


息を飲むほどの攻防の末、両者の動きはようやく止まった。


「あなたどんな身体してるのよ...」


「あなたに言われたくないわ...」


息も絶え絶え。今にも倒れてしまいそうなほど疲弊しているが気合で立ち続ける。

そして両者、覚悟を決めた顔で言い放つ。



「「今年は決着つける…っ!」」





ーーーーーーーーーーーーーーーー

あれからどれほどの時間が流れただろうか。


「いつ終わるのかな、お姉ちゃんたち」

「全くだ。見てるこっちがもう限界だよ」


日が落ち、空も星が輝く時間。

鳴り響く金属音。

閃く雷光。

終わらぬ戦い。


「おなかすいた~。失格でいいからもう帰ろう?」

「…そうだな。帰ろう」



この戦いは日が昇るまで続いたそうだ。









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終わりの境界 熊月 睦 @kumasanmask

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