第7話 冥土の土産はメイドとともにあり
遊は、俺の家でメイドを続けている。
俺は、大学に通っている。
これまでと日常は変わらないが、少し変わったこともある。
一つは俺が、専攻を宗教学に変えたことだ。自分でも、宗教っていったいどんなものなのか知りたくなったのだ。そう思うようになったのは、遊の影響が大きいだろう。
あともう一つ違うのは、遊が今俺の大学の後輩でもあるってことか。
マスターは変わり者だったが、なるほどあちこちに顔が利くというのは
間違いではなかったらしい。
とにかく謎の多いマスターだったな――。
遊はずっと俺と一緒だ。
家でも、外でも。
「御主人様―皐月様ー!」
「消しゴム落としたのはわかったから、俺の足元でごそごそチャックを引っ張るのはやめろ!消しゴムとは関係ないだろ!」
「御主人様ー皐月様ー!とんとんとん。」
「—―遊、お願いだから男子トイレの中にまで入ってこないでくれ。」
ここまで入ってくるもんだから個室に入らざるを得ない。
他の奴らも来るから出て行ってくれ!
「御主人様ー皐月様ー!見てくださいまし!」
「おおサクランボのヘタを舌で結べるなんて――。」
これは素直に感嘆。
「御主人様ー皐月様ーこぼしました!」
「ああもうアイスをそんな食べ方するから・・・ってお前なんで服の下裸なんだよ!」
穏やかな生活は夢のように過ぎた。
俺としては唯一気になるのが、遊との関係。
もう俺の貞操を狙う必要はないはずなのに、この態度である。
これはもう付き合っているといってもいいんじゃないだろうか。
いまだ俺は、未使用の魔法使い見習いである。
やはり付き合っていることを明確にしなくては、最後のビッグイベントは起こせないのである。
さあ勇者に転職だ!いや賢者か?
――夕食後
「遊ー、俺たちって付き合っているんだよな?」
「えっ―――。」
洗濯物を畳みながら固まる遊の姿を見て、俺も固まった。
俺たちって付き合っているんじゃないのか?
ゆくゆくは結婚を考えて同棲してる感じじゃなかったのか?
首を傾げ、少し考えた様子でこういった。
「私はメイドです。」
「冥土教の信者であることには変わりありません。」
ショックだった。
落ち込んだ。
この世の終わりだと思った。
「しかし私は別に冥土に行きたいと思っているのではありません。でもわたしがその存在に安らぎを得ていたのは事実です。だから冥土教を、やめようとは思わないんです。」
遊は、続けて言う。
「だけどいつか死んでしまうそのときまでに、冥土に持ちきれないほどの、たくさんの思い出を皐月様と作りたいと考えています。ふふっ、冥土の土産作りはこのメイド、遊にお任せください。」
こちらに笑いかける遊は、なんてかわいいんだろう。
これも、冥土の土産に持っていけるんだろうか。
「あと、もちろんメイド兼お嫁さんで大丈夫です。」
頬を赤く染め、そっぽを向いていう姿のこれまたかわいいことよ。
にゃーん・・・にゃあ
外で猫の声が聞こえる。
「皐月様――。」
「遊――。」
カーテン越しに二人の影が重なった。
俺のところにメイドが、冥土の土産をともなってやってきた。
さあ2人で、最高の思い出をつくろうじゃないか。
冥土の土産はメイドとともにあり 宮呂くろ @kurokurobutuyoku
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