第1話前編 向かえ!魔都トライアム!

魔都トライアムへは聖都から大体1か月もの道のり。

この世界アースでは大街道以外は整備されていない

馬車は揺れるし、野盗も多く出る。

だが大抵の場合、野盗に関しての被害はあまり多くない。

旅の馬車での最大の敵は『魔獣』と呼ばれる物ノ怪共だ。

これらを狩る者は冒険者と言われ、

ある者は己の剣の腕で、またある者は魔法を使い魔物達を狩る。

彼らは魔物の肉や皮をギルドに買い取ってもらうこともあれば、

旅の護衛として雇われることもある。

もちろん今回の左遷先への道でも冒険者を雇っている。

それがこの赤髪の女性だ。

「お兄さん、プリーストなんでしょ?ちょっとこの子怪我しちゃってさ。

回復魔法頼めないかな。よろしく頼むよ。」

軽快な調子で話しかけてくるのは、護衛依頼を任されたメアリー。

彼女のパーティーメンバーの怪我を治してほしいそうだ。

先程のワーウルフの群れとの戦いがあった。

ワーウルフはDランクの魔物、群れならCランクだが、

俺の雇った護衛はCランクながら軽々と群れを殲滅させていた。

が、彼女のパーティーメンバーと言っても3人だけだが、

誰かが怪我をしていたのだろう。

「アイアスだ。雇い主の名前くらい覚えておいてもらいたい。そして俺はプリーストではなく、神官だ。そして先週からは司祭でもある。」

彼女の発言を訂正しておく。プリーストは回復魔法を扱う冒険者の呼称。

俺は冒険者ではないしなるつもりもない

「神官もプリーストも大して変わらないよ。とりあえずこの子にヒールやってよ、プリーストさん。」

彼女には説明が無駄なようだ。人の話を聞かないのは冒険者故にか、彼女は話を聞く気がないようだ。訂正は出来ないようなので、話を切り上げる。

「それで、怪我をしたのはこいつか?それとも何処かに隠れている奴がいるのか?」

俺はフードで顔の隠された、少女を指差して言う。

「そうです。怪我をしたのは私。メアリーは心配症です。」

と言いながらフードを取って現れたのは金髪のエルフの特徴でもある尖った耳を持つ少女。世界樹の木の下に住むエルフは、魔力の扱いに長けており、その力は畏怖の象徴でもある。彼らはあまり人里に降りる事はなく閉鎖的で、エルフの大抵が一生を世界樹の集落の中で過ごすとされている。

「エルフか。」

驚きで俺はそう漏らす。

聖都は人口10万を超える大都市だが、9割以上が人であり。

その他は獣人と呼ばれる亜人種がほとんどを占めエルフは数人程度らしい。

聖都には長いこといても、アイアスはエルフを見た事は一度もなかった。

「彼女はリーシャよ。魔法使い。見ての通りエルフよ。見るのは初めてなんじゃない?珍しいからね。」

メアリーはそう説明する。

「あぁ、確かに珍しいな。噂では聞いていたがこの目で見たのは初めてだ。

それで、治療か。」

リーシャは無言で包帯の巻かれた腕をすっと差し出してくる。

こいつ、人見知りなんだなそう思いながら

「ヒール」

俺はそう唱えながら患部にそっと手をかざす。

淡い緑の光が手のひらから滲み、患部を包み込んだ。

「これで。いいだろう。文句はないな。」

ヒールとは神官級回復魔法だ。と言っても誰もが使えるわけではなく、才能のある一部の神官のみが使える恵だとされており、大半の神官はキュアを使うことで精一杯という奴が大半だった。ちなみに俺の元上司のユダはキュアすら使えない欠陥品だったが、親の権力で一等神官に上り詰めた。

「神官なのに詠唱しないのかい?神の御業を与えたまえってね。」

メアリーは驚いたようにそう尋ねてくるが、俺も驚いた。

「お前、わざと人のことをプリースト呼ばわりしていたのか。彼女はもう大丈夫だろう。包帯もとったて構わない筈だ。」

そうメアリーとリーシャに言うと、メアリーは気まずそうに、リーシャは包帯をほどき始める。

「ごめん、ごめん。次からはちゃんと神官って呼ぶよ。アイアス君。」

「名前も覚えていたんだな。次からは間違えるなよメリー」

「メアリーだよ。」

「あ、怪我治ってる。」

名前間違いを訂正されたが、無視して意識をサーシャの方に傾ける。

目があったが逸らされてしまった。少し俺は傷ついた。

そしてただ一言

「ありがとう」とぼそっと頬を少しピンクに染め感謝の言葉。

それで俺は、と言うと何も返事することができないでいた。

エルフには美男、美女が多い。

この少女サーシャもその遺伝子をしっかりと引き継いでいて、美少女だった。

その美少女が頬を染めて感謝を述べる姿に見惚れてしまっていた。

勘違いしないで欲しいのは、俺は決してロリコンではない。

聖典にもロリコンは死すべしと書かれている。

いや、嘘だ。別にそのような文言は一行たりとも書かれてはいない。

「あぁ。」

そう返すので俺は精一杯だった。つまりさっきの何も返事出来なかったというのも嘘だ。謝罪しておく。ついでに後悔もしておく、ヒールする前にサーシャの腕を触診でもしておけば良かったと。俺に今この時、目的が1つ追加された。

サーシャとお近づきになる。俺は決心した。

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辺境神官は出世したい! Y氏 @Katayamu

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