第61話 帰還

 その後私は一応彼に引継ぎを行った。ちゃんとエリアにも会いにいって次代の魔王は彼だから仲良くやって欲しいということとお別れの挨拶を述べた。ちなみに彼はエリアの前では礼儀正しく話していてちょっとおもしろかった。やっぱり相手の態度によって態度変わるんだね。


 本当はシアにも会いに行きたかったが、最悪うっかり暗殺されかねない危険もあるのでやめた。それにシアとはあの別れのとき、最後のお別れのつもりだったからいいか。


 ちなみにミルガウスは学校終わりに帰り道で別れるぐらいの気さくさだった。まあ彼女からしたらこの程度の別れは日常茶飯事なのだろう。むしろ彼があれこれ根ほり葉ほり聞かれていておもしろかった。


「ちなみに苺はどうするの?」

「私は特に戻りたい理由もないし、もう少し残るよ。こっちの世界にこの歌を広めたいし。まあ、帰りたくなったら帰るけど」

 苺は完全にお気楽モードだった。

「じゃあ彼を助けてあげてよ。一応私もいきなり魔王とかさせて心が痛んでるから」

「ええ“-、面倒くさい。幸乃は私を助けてくれたから特別に手助けしてあげてただけなんだけどな」

「ちょっと、最後の最後でデレないでよ」

 そんな訳で私たちはお別れを済ませてクオリアの研究所にやってきた。別にそこである必要はないのだが、セラが描いた異世界転移の術式が残っているのが好都合だったためである。


「最後に何か言い残すことは」

 いよいよ儀式の準備も終わり、最後にクオリアが死刑執行人みたいなことを言う。私を見送るのは魔王・苺・セラとクオリアだ。

「今まで皆ありがとう。あなたは魔王頑張ってね」

「まじでかよ……」

 魔王は不満そうな声をもらすが、これはツンデレのツン的なもので、押したらやってくれるので問題ないことが分かっている。

「私も別にないかなー。あ、体には気を付けてね」

 苺はいつも通りあっけらかんとしている。

「私今緊張してるから話しかけないで」

 セラはめっちゃ緊張していた。まあ、今までは失敗しても見知らぬ人がどうにかなるだけだけど、今失敗したら私がどうにかなってしまうからね。というか今までもこの世界から消えていただけで転送に成功していたかは不明だし。

「じゃあみんなお元気で」

 そんな訳で私たちの別れはすごいフランクな感じだった。まあ、私たち仲良しとはちょっと違うからじめじめした感じも違う気がする。やがて今まで送り返した相手のように私の足元から光が出て私の意識はホワイトアウトしていく。


「う……朝か」

 目を覚ました私が傍らの目覚まし時計を見るといつもの学校前の起床時間だった。反射的に枕元のスマホをとって日付も確認する。良かった、召喚された日の翌日だ。

「あー、制服のまま寝ちゃってる」

 制服のまま召喚されて制服で転送されたからそうなっちゃうのか。そう言えば召喚されたときは制服で寝ちゃってたときだっけ。


 その後色々確認してみた限り、私の記憶以外に特に変わっていることはなかった。当然魔法も使えないし、何か持って帰って来たものもない。ただ、異世界での記憶だけは私の脳裏に残っていた。

「幸乃、ご飯よ」

「はーい」

 リビングからお母さんの声が聞こえてくる。私を冬季講習に送り込むお母さんの声が。せっかく向こうであれだけラノベ書いて、少しはうまくなったっていう実感もあるんだからやっぱりもうちょっと目指してみたいな。私は意を決して口にしてみる。


「受験の話だけどさ、もし今度の模試でD以上の判定出たら、私叔父さんのアパートで一人暮らししてもいいかな」

 私にはアパートを持っている叔父がいて、それが学校近くにあるのだが、このご時世の都合でいつも半分以上の部屋が空き家らしいと聞いている。

 私が通う高校は家から電車で四十分ぐらいのところにある。家から駅までも十五分ぐらいかかって地味に遠い。母が勝手に冬季講習を申し込もうとしている予備校は家の近くにも学校の近くにもある。だから高校の近くに住めば通学時間が短縮出来る……というのが表向きの理由。


「そしたら冬季講習も行くから」

 裏向きの理由は、当然お母さんの監視を逃れてラノベを書くためであった。

「そうねえ……一人暮らしは思ったより大変よ? ちょっと油断するとすぐゴミ屋敷になるし」

 それは人によるのでは? でも私もどっちかっていうとゴミ屋敷になりそうなタイプだな。

「だからDとは言わずCを取りなさい」

「嘘でしょ!?」

「思ったより大変でも、思ったより頑張れるなら大丈夫なはずよ」

 お母さんは正論のようなことを言う。でも、言質はとった。

「……分かった。じゃあ親に二言はなしだからね」

 とりあえず次の模試までは死ぬ気で勉強するか。いったん一人で住んでしまえば夜更かししてラノベを書こうが予備校をさぼうがやりたい放題だ。今までは新人賞にしか応募しなかったけど、そろそろ小説投稿サイトとかも研究してみようか。ここまで全くかすらなかったけど、まだやれることはある。そう思ったらまだ色々頑張れる気がした。

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闇属性ラノベ作家志望JKの異世界召喚 今川幸乃 @y-imagawa

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