コッパミジン
永井 茜
コッパミジン
登場人物
浴衣の女
女子生徒
○ 商店街(夜)
屋台が並び、人々が行きかう、お祭り騒ぎの最中の商店街。
浴衣を着た女が、リンゴ飴を食べながら、空を見上げる。
夜空に花火が上がり始める。
○ 古いアパート・4号室(夜)
物で散らかっているワンルームの部屋の中。
眼つきの悪い眼鏡の男、柳瀬達也(20)が、冷蔵庫からビールを取り出していると、外から爆破音のような花火の音が聞こえる。
対戦テレビゲームに興じていた、小野田輝幸(20)、上村智治(20)、音に驚く。
輝幸「うわっ! ビビった~」
智治「花火ってこんなデカい音してたっけ?」
達哉、ビールを飲みながら2人の方へやってきて、ソファに腰を下ろす。
達也「ここ、花火会場近いからな。去年もこんなんだった」
輝幸「へー」
智治「にしても、すげー音。近くで自爆テロとか起きても気づかねーだろ」
達也、智治の言葉に反応して、智治を見る。
智治、達也の視線に気づき、身を捩る。
智治「なにガンくれてんだ、コラ」
達也「くれてねーわ」
智治「冗談だよ。でもお前、ただでさえ眼つき悪いんだから、あんま見てくんな」
達也「…いや、お前の『自爆テロ』で思い出したんだけどさ」
ソファ上に置いてあったコントローラーを手に取り、ゲームに参加する。
達也「俺、中学の頃のあだ名、『爆弾魔』だったんだよな」
輝幸と智治、同時に噴き出して笑う。
輝幸「ひで~、なんだそのあだ名!」
智治「でもわかるわ、クラスに1人はいる犯罪者顔だもんな」
達也「化学のテスト、最高得点48点なのに、爆弾魔」
輝幸&智治「あっはっは!」
達也「けど、そんなあだ名だったせいで、一回だけ変なことがあって」
輝幸と智治、達也の方を見る。
達也「中2の時、生物室でぼっちメシ食ってたらさ」
○ 中学校・生物室(回想)
生物のホルマリン漬けなどが並ぶ棚の前で弁当を食べる、14歳の達也。
教室の扉が開き、達也、視線を扉へ向ける。
美しい女子生徒が、達也に向かって微笑んでいる。
女子生徒、達也のもとへやってきて、屈んで視線を合わせる。
女子「ねえ、爆弾魔くん。爆弾作れるって、ホント? それも、人を木っ端みじんにできるぐらいの、すごいヤツ」
達也、唖然としている。
○ 古いアパート・4号室(夜・現実)
輝幸と智治、怪訝そうな表情。
輝幸「まず、なんで生物室でメシ食ってんだ、お前」
達也「重度の中二病でな。藤岡藤巻の『まりちゃんのホルマリン漬け』ばっか聞いてたんだ」
智治「逆に珍しいだろ、そのタイプの中二病」
輝幸「あだ名『爆弾魔』で、好きなアーティスト『藤岡藤巻』の奴は、そりゃぼっちだよな」
智治「で…何なの、そのこえー女。なんて言ったの?」
達也「ビビりながら『作れません』って言ったら、何も言わずにどっか行って、それっきり」
輝幸「名前とか、学年とかは?」
達也「わからん。全校集会の時とか探してみたけど、一度も見かけなかった」
輝幸「何それ、幽霊か何かだったんじゃねーの?」
智治「…それ、お前がガチで爆弾作れてたら、どうなってたんだろうな」
達也、ビールを一口飲んで、遠くを見る。
達也「…誰か殺したかったのか、それとも自分が死にたかったのか」
玄関のチャイムが鳴る。
達也「お、来た来た」
玄関へ行き、扉を開けると、鈴木千尋(20)がたこ焼きの入った袋片手に上がり込んでくる。
千尋「悪い、バイト長引いてさ。これ土産な」
達也「お、たこ焼き」
智治「やっと4人揃ったか。スマブラやろうぜ、スマブラ」
達也「その前にたこ焼き食うべ」
千尋と達也、輝幸と智治のもとへ行き、4人でたこ焼きを食べ始める。
○ 商店街(夜)
花火を見上げて歓声を上げる人々。
浴衣の女、不敵な笑みを浮かべて、食べ終えたリンゴ飴の棒を2つに折る。
花火の火種が、空に昇っていく。
○ 暗転
爆破音のように鳴り響く花火の音。
1つだけ、本物の爆破音が混じる。
コッパミジン 永井 茜 @nagai_akane
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