タイトル未定

ハリネズミ

第1話:邂逅

 夜のとばりが下り、冬の寒気と吐息が白く気化するのが視認できる。

 人通りが少なく、等間隔に外灯が照らす夜道を僕は歩く。

 それを前にして僕はその存在に初めて気づく。

 

 横たわる少女。

 

 見たこともない学生服を身にまとい右足はローファーを履いたまま左足は裸足でこちらに背を向けて横たわっていた。

 少女はピクリとも動きがない。

 その目撃して僕の心はざわついた。

 まさか・・・彼女は・・・。


 関わってはいけない・・・。

 素通りしろ・・・。

 逃げ出せ・・・。

 

 僕の脳裏には既に考えられ得る最悪の状況のみがよぎり、それを無理矢理かき消そうと目の前の状況から逃れようと思考を働かせる。

 だが、その思考と相反して、そうでないことを祈って、それを確認するために身体がその少女を方へと向かっていく。

 横たわるその彼女の腕へと手を伸ばして、少女に向けて「だ、大丈夫ですか?」と声をかけながら僕は触れた。


 ・・・っ!冷たい!


 およそ人の体温と言えるほどの温度が彼女には無く、冷たくゾクリと背中を悪寒が走る。

 僕はすぐさまそれから手を引っ込め、一歩後ろへと退いた。

 彼女からは何も反応が無く。まるで人の性質を模した人形か何かの・・・無生物であるかのように思えた。

 いや、人形ならまだましだ。

 

 もしかしたら・・・・・・

 

 ついさっき感じたざわつきが再び現実味を帯びて更なる恐怖となって僕を襲う。

 「お、おい!・・・生きているなら返事をしろよ!」

 器が恐怖を受け止められなくなり、恐怖が溢れそうになる。その溢れそうな恐怖を彼女への言葉にしてぶつける。

 少女は僕の言葉にピクリとも反応がない。

 その事実がより一層の恐怖を掻き立て、感情的にさせる。

 「大丈夫かよ!・・・おい!・・・おい!!」

 彼女の腕を掴んだ。

 すると、一つの異変に気がつく。


 彼女の脈がうっていないことが指を通して確認できた。


 そしてそのまま彼女の腕をを引っ張ってしまい、背中を向けたままの彼女が天をあおぐ体勢になる。

 それまで見えていなかった彼女の顔が露になる。

 「ウゥ・・・うわァァァァァァァァァァァァァァァァ!」

 僕はそれを視認して、全身の血がスッと抜かれるような気になり、全身から力が抜けてその場で倒れ込んだ。

 「っ・・・うぼォェェェェェェェ」

 胃の内容物が喉へと上がっていき・・・・耐えきれず激しく嘔吐おうとした。

 

 彼女の顔・・・・・・右目・左目・鼻・口のそれぞれのパーツが本来とは異なる位置に異なる向きで縫い付けられていた。加えて胸には刃物が刺さっていた。

 

 福笑いのような・・・ピカソの絵画のような少女の顔はおよそ人の顔とは呼ぶことが出来ないものだった。

 これまでに見たことのない歪な顔が全身に悪寒が走らせ、鳥肌を立たせ、おぼつかない足で全力で走る。

 「ァァァァァァァァァァ!」

 

 俺は何も見ていない。俺は何も見ていない。俺は何も見ていない。俺は何も見ていない俺は何も見ていない。俺は何も見ていない。俺は何も見ていない。俺は何も見ていない。俺は何も見ていない。俺は何も見ていない。俺は何も見つけていない。俺は何も見ていない。

 

 走れ!逃げろ!ニゲロ!嫌だ!

 あれは夢だ。そうだ夢なんだ。ああ、夢だ。幻想だ。まやかしだ。空想だ。想像だ。現実だ。事実だ。嘘だ。虚構だ。この目で見た。だから違う。あれはヒトだ。そうだ、ヒトだ。これはヒトで・・・あれは死体ヒトだ。

 







 


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・激しく動かしていた足を次第に動きを遅くしていき、足を止める。

 「ハァハァハァハァ・・・」

 無我夢中で走っていたお陰で気づけば息が荒れていた。

 「俺は・・・・・・何を見た?・・・あれは・・・・・・なんだったんだ?」

 これまでに見たことのない異常な事態に気が動転しながらもそれを思い出してなんだったのかを確認する。

 「右目は口に・・・口は片目に・・・・・・左目は鼻に・・・・・・・・・・うぼェェェェェェェェェェ」

 鮮明に浮かび上がった衝撃的なその顔にまたしても胃から込み上げてきた。

 吐いた後の地面を見て胃液が地面に染みづいていくのを眺める。

 「ッ!・・・ウァァァァァァァ!」

 不意に先程の異様な光景がフラッシュバックする。


 見なければ良かった。

 知らなければ良かった。

 通らなければ良かった。

 見えなければ良かった。

 何でだよ!

 何で俺なんだよ!・・・クソッ!


・・・・・・後に残った悔いが自らを責め立てる。

 「ハァハァハァハァ・・・スゥゥゥ・・・ハァァァ。」

 胸を膨らませて、縮ませる。深呼吸でクールダウンを試みる。

 数セット行ってやっと心が少ししずまるのが知覚できた。

 あれへの対処法を僕は心得ていなかった。これまでの日常が如何に平和で安全で穏便であったかを今なら深く理解できる。


 人が死んでいた。


 少女が死んでいた。


 初めてだった。死体を目の当たりにしたのは・・・・・・死体に触れたのは。


 それに、あんな顔を・・・・・・・・・・


 いや、待て!


 何か引っ掛かる。


 何かがおかしい。


 死んでいた・・・んだよな?


 脈は止まっていた。



 でも、胸に刺さっていた刃物の周辺には・・・・・・血が・・・・・・出ていなかった!


 何故だ!?


 なにかのメッセージか?


 いや、今はそんなことはいい。


 俺は何も見ていない。違和感なんて何もなかった。

 ・・・今はそう思い込むことにした。


 ポケットからスマホを取り出して、110番に電話をかけて、重い足取りで警察が来る前にその場を後にした。

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タイトル未定 ハリネズミ @kyukyu694

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