第一部エピローグ

 慣れ親しんだ頭痛と共に、片喰禊は目を覚ます。学校へ向かう準備を終えて、顔を洗い朝食の支度をする。前日の夜に作った味噌汁を温め、パンを口に突っ込んで味噌汁を啜る。

「……ありえねえ食べ合わせしてんな」

 今朝の片喰禊には、今の食事の都合の悪さが分かるくらいには思考する力があるようだ。文化祭から一週間が経って、彼の睡眠時間は三時間から五時間程度に伸びていた。かつてプライドに潰された男は、自分の将来にビジョンを見出すことによってある程度の余裕を持ったのだ。健康的な睡眠時間にはまだ程遠いが、それでもこの少年にとっては体の重さが随分と違うようだった。

 朝食を終え、歯磨きと着替えを行なっている頃、インターホンが鳴る。せっかく着いてるカメラを確認することなく、禊は相手が誰であるかを決めつけ、応答ボタンを押す。

「禊くん。早く行こうよ」

「……俺のほうからそっちに行くっていつも言ってるだろ」

「だって遅いんだもん」

「あなたのおかげで良く寝れるようになっちゃったからな」

「ならいっそ私の家に住む?」

「……ヴェ?」

  十七年と一ヶ月と十日の間、純粋に育ってしまった片喰禊は、インターホンの向こう側の誘いにどぎまぎしてしまう。

「ふふふ。冗談だよ」

「だと思ったけどやめてくれよ。ただでさえ結構なプレッシャーかかる人生なのに、変な錘つけられたら俺のジャッキじゃ折れちまう……」

「でも、今度遊びに来てよ」

「そうだな」

 会話をしているうちに、禊をズボンのベルトを締め終える。

「……よし、行くか」

「うん!!」

 リュックサックを背負い、かつてより軽くなった家のドアを開ける。

 プレッシャーに潰されそうな男は、目の下の隈を気分的に消し去り、無理ないポジティブ精神を胸に、ドアの向こうで待つ少女のための自分を作り、通学路へと歩き出した。

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αCore-未完成魔法の試験生- 曲 くの字 @magarikunozi

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