第5話 補習と密会とストーカー賢者

朝方の自己紹介HRを終え、俺とブラドとメルドは2年Fクラスから出て補習室と書かれた場所に連れてこられていた。


「先生ー、一つだけ聞きたいんですが…」


「何かしら?剣渕君」


前列の教壇前に俺達は座っているわけなのだがここで素朴な疑問が浮かぶ。


「何でコイツらも一緒なんですか?」


両隣の馬鹿二人を指差して聞く。


「あら、そんなの決まってるじゃない。現時点での貴方たちの実力を測るためにテストをするからよ?確かにクラシェリアさん達は編入手続きの際にテストは受けてもらったけれど、あの結果だけじゃまだ分からないから受けさせろと上から言われたのよ」


「世知辛い世の中ですね…分かりました、嫌な事は早く済ませるに限りますし、早速始めましょう」


「えぇ、取り敢えず今日は英語と数学を見る事にするから…一応テストなんだけど、復習時間として10分間与える様に言われているのでこちらの教科書を見て復習をしてください。では始め」


先生がそう合図を出すと教科書を見るよう促してくる。しかしそう言われても、俺にはこう言ったことをする必要が無いのである。確かに人間だった頃は、復習等をしなければ点数を取ることは難しかったのだが俺は人間を辞め、体の造りそのものが人間とは異なる物になった。それに加えて神の権能も保持している。ステータスの通常状態は人間の頃のままだが、力の解放を行えば其れの比ではない。


1度見ればその理は見破れるし、何をどうすれば良いのか、その最善策でさえも導き出せる。つまりテスト等何ら意味の無い事である。パラパラと教科書を見終えるとタイミングよく先生が教科書を回収する。


「時間です、始めます」


10分が経過し、各々問題をとき始めるが30分もしない内に全員がペンを置いた。


「ん?どうしたの?まさか貴方たち…もう終わったなんて言い出すんじゃないでしょうね…」


俺達は互いに頷き返すと、先生は呆れたような表情で回収を始める。その後試験用紙の入っていた封筒から答案用紙を取り出すと採点を始める。ペンの動きは変わらず全てに丸をし続けている作業は宛ら内職を思わせる始末。


「ねぇ…可笑しいわよね?いや、まぁ確かに異世界に行って変な力を身につけてきたってのはわかる。分かるけどコレは可笑しいわよ…」


「気にしても今更ですよ、こう言うのはそういう物だって適当に割り切っておけばいいんですよ」


先生はテストを封筒に戻すと、文句を言ってきた。


「まぁいいわ、それにこれだけ出来てるなら他も出来るって事でしょ?試験と補習を繰り返して慣れさせていく予定だったのにコレじゃ意味無いわね…時間と労力の無駄、上にも要らないって報告しておくわね」


それだけ言うとヒラヒラ手を振って先生は職員室へと向かっていった。俺達は教室に戻る様に指示を出されたので戻ってきたのだが、いつの間にやら昼休みに入っていた。


『おおっ!戻ってきたぞ!?』


『どれどれ?あ!ホントに美男美女じゃん!』


『Fクラスだけズリぃだろ!』


『アレが噂の転校生か!』


戻って来て早々周りがざわつき始める。俺達を見る好奇の目線は最早同じクラスメイトだけに限らず他のクラスからも生徒が押し寄せている状態だ。


「しょうがない…お前ら俺の事はいいから生徒達と話してこい、交友関係を広げる事も大事な事だ。俺はちょっと行く所があるしそれに、上に立つばかりで録に一般人と接したことがないんだ。一般人との関わり方という物を少しは学んだ方がいい」


その場を立ち去り生徒会室へと向かうべく元来た道を引き返す。次いでに気配を消した事で注目が2人に集まっている。少し驚いた表情を見せた2人であったが、すぐ様群がる有象無象の生徒達と談笑を始めている。流石に魔王と邪神なだけあって人身の掌握はお手の物のようだ。


さっきは、ああ言ったが上に立つ者として配下の者達がどのように過ごし、何を思い、行動しているのか、それを知っておかなければ当然上位の存在として扱われる事など無かっただろう。ただ、それを実行するための機会を奪われていただけであの二人は元々話好きなのだ。


「さて、あの件から片付けておくとするか。確か生徒会室は別棟の6階だったか?」


ある程度歩き、人目が付かなくなった屋上へと続く、上り階段の死角で転移魔法を小規模的に発動する。一瞬にして別棟である『龍角』の入口前に飛んだ。入口の自動ドアから入っていきエレベーターへ乗り込みたい所だがしておかなければならない事がある。


それは係員に学生証を見せなければならないという事だ。ここの別棟はセキュリティも通常よりも高く設定されている。理由としては学園の秩序を示す為の棟であるからだ。学園長室、生徒会室、来賓室等の学園の内部統制を図る機関と外部とのコミュニティを築く場でもあるため一般生徒には滞在時間も決められており、訪問理由等の記録も残る。


また粗相を起こした場合、その場で罰則を与えられることも少なくないので一般生徒が来る事などまず無い。


係員とのチェックも済ませ、入口にて発券された切符もどきを持ってエレベーターに乗る。6階につき、エレベーターから降りて部屋の扉を開けると凰城川 涼は執務に励んでいた。こちらに気づく様子はない、それだけ集中しているのだ。


室内は無駄に煌びやかであり俺が見てきた王宮の室内クラスだ。しかしながら無駄な物は一切なく必要な書類はファイリングされて棚にズラっと整頓されており、実用性の強い極めて高潔な生徒会室であると言うことが理解出来る。


「忙しそうな所申し訳ないのだが、今朝の話詳しく聞かせてくれ」


突然話しかけられたことで、驚きを隠せない様子の彼女であったが直ぐに真顔に戻ると返答してきた。


「申し訳ありませんが、少しだけお待ちしていただけますか?どうしてもこちらの書類を終わらせておかなくては行けませんので」


「あぁ、問題ない。昼休み早々尋ねてきたのは、こちらだし会長殿は多忙だろうからな。こちらはこちらで勝手に待たせてもらう」


それから15分ほど経った頃、執務を終えた凰城川 涼は紅茶を一口飲みスマホアプリを立ち上げ机に置いた。


「お待たせ致しました、では今朝の要件についても重ねてお話致しましょう。始めに連絡先の交換からさせていただきますわ、これは資料を渡す上での必要事項ですので悪しからず」


少し顔を赤らめながらも照れる様子は無く、スマホをお互いに取りだして連絡先の交換をした後、凰城川 涼がPDFファイルで渡してきたのは、運営しているゲームの詳細書類だった。内容としては、原作案の成り立ちやゲーム上でのステータス情報の詳細などだった。


成り立ちは、凰城川 涼の夢で見た物を再現化する事から始まった。彼女は何故か、通称『死神』(俺)の周囲で起きたことを見ることが出来、又たまに違う第三者の視点で起きた事も見ることが出来た為、あらゆる視点から知り得た情報や要素をゲームに取り入れて制作をする事が出来た。


ゲーム内容としてプレイヤーは一介の冒険者として魔王打倒に励む一般人、『死神』(俺)との接点は戦場で見かけたりする程度でガツガツ関わってくるようなものでもないらしい。基本的に主人公はあまり強くなくて、ガチャで入手出来るキャラクターを強くして戦っていくことが趣旨となっている。


売上は、他のスマホゲームを抑えてトップ5入を果たしている。ステータス情報に関しては見たものをそのまま再現している数値になっているそうだ。また近年では一般人がキャラクターのイラスト等を各サイトでアップしたりする事からこのゲームの知名度も高まってきているらしい。


「大体理解する事は出来たけれども肝心なことを聞けていない。そもそも何故これを作ろうと思ったんだ?」


「単純です、私は…あの悲劇を忘れてはいけないとそう強く思ったからです。『死神』の立ち位置や終わりの見えない旅路、絶望的な過去までも語られずに終わるなんて事は出来ませんでした。だってそれではあまりにも報われないではありませんか?私にあの物語を見せたのは最早運命にすら感じますわ」


「別に報われたい訳じゃない、ただ自分の信じたものを信じきれず守りきれなかったからこそああ言う結果になっただけだ。生徒会長殿が俺の何を見てどう思ったかまでは正直どうでもいいけど、もしそのゲームを作り続けるつもりなら幾分か迷惑料として貰いたいんだがどうだろう?」


ここで1度交渉してみる。勝手にこちらの過去をほじくり返して、売買しているのだ。貰えるものは貰っておかなくてはな。しかし生徒会長は驚く様子もなく真顔で返答してきた。


「勿論、それに関しては構いませんわ。私は利益を出したくて始めた訳ではなくて、あの出来事を知っておいてもらいたくて始めただけですので。ですがそうは言っても運営していただいているプロジェクトチームの皆様にはお給料も出しているので内訳的には3割をそちらに渡すということでいかがでしょうか?」


取り敢えず銀行口座の方を会長殿のスマホに送り付けておいた。


「助かる、金はそちらに頼む。それから礼という訳でもないが金を貰うんだ、どうせなら真実という訳でも無いが俺が経験した事を実際にその目で見てみるといい」


異空間倉庫から俺が異世界に行ってからずっと記録してきた女神視点での映像を変換した魔法ビデオプレーヤーを取り出し、会長に手渡す。


「これは?」


「それはビデオプレーヤーだ、ちゃんとリモコンも着いているだろうから、基本的に操作方法は従来のものと変わらないはずだよ。内容は俺が異世界で行った全ての事柄が記録されている。女神が俺に渡してきたけど、俺にとっては必要が無いものだったが、今回使う用途が出来て丁度良かったよ」


生徒会長が座っている執務席の机の上に、置いた。


「分かりました、今日の職務が終わり次第拝見させていただきますわ」


「あぁ、ではこれで。それとこれはこの事とは関係ないんだが、妹とは仲良くしてやってくれ…友達としてあいつの事を支えてあげて欲しい、情けないんだけれど、それは多分俺には出来ないことだから頼む」


そう言って俺は頭を下げる。実際、俺がいなくなった後、家族に心配をかけた事は事実だ。


そんな時、乙葉には生徒会長が傍に居てくれていたんだろう。乙葉が腐らずに生きてきたのは彼女の尽力もある筈だ。それに友は宝だ、財産を投げても買えないものはあるし、それを知っている人間は一回り強い。生徒会長の支えあればこそ今の乙葉がある訳なのだから当然、兄として出来ることはしておく必要がある。


「ご心配無く、貴方に言われなくても妹さんとは親友の中ですから」


その言葉を聞き届けて俺はエレベーターに乗り込み受付に紙を渡して出口を出る。すぐ様転移魔法を小規模的に発動する。


「さてと、首尾よく上手くいったしそろそろ教室に戻らないとアイツらがうるさく言ってきそうで…!?」


俺の前に現れた一人の女子の姿には見覚えがあった。


「お前は賢者レスタード!なぜお前がここに…!」


学園指定の制服を着用しているこの女、いやこのエルフの名はレスタード・ヴェルゲン。ムゼルガルドでは、三賢者の1人だった。


「よもや、忘れたとは言わせまいな?あの時の約束を!」


「あの時の約束…」


この女との思い出を振り返ってみるものの、ろくな思い出は無い。森で魔法の鍛錬をしていたら勝手に突っかかってきて、頼んだ訳でもなく修行を付ける代わりに家事をしろだとか養えだとか言われて脅された記憶しかない。


他国間で戦争が勃発した後、俺たちが拠点としていた村も巻き込まれたりして、賢者であるこの女は戦争を止めるべく行動していた。それ以降お互いに忙しくなり、会っていなかったのだがどういう訳か今更になって会いに来たのだ。


「約束と言われてもなぁ、国同士での条約や誓約に関しては少なくとも関与していないし、思い当たる節がないんだが…」


「ほぅ…、忘れたと言うことか?」


顔が笑っているのに目が笑っていない表情のレスタードを目の当たりにしても思い出せないという事はそもそも約束をしていない可能性もある。


「率直に申しますと、そんな約束してたか?

ひっ…!!」


顔を横切って壁に突き刺さっているバターナイフに恐怖を覚えながら、レスタードの顔を見ると先程の笑顔のままだった。


「自分の胸に聞いてみろ!」


そう言って遂に怒りを顕にした、レスタードのナイフ&フォークによる投擲を全て受け流しながら逃げることにしてみたが、どこまでも追ってくるレスタードに再度恐怖を感じる。

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~異世界帰還者~ もやしP @hibiya0815

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