第4話 come back my lady

有栖の死因を事細かに説明し終えた部屋には、静寂と一人の女教師が啜り泣く声だけが響く。


「とここまでが俺が有栖を殺した経緯ですが、この話には続きがあります」


異空間に保存しておいた有栖の遺体を取り出す。


「っ!!!有栖!」


「異世界で生き抜いた末、俺は人間では無くなってしまいました。その為人が絶対に行うことが出来ない領域の力の一つである、蘇生魔術というものが使えるようになりました」


黒い翼を背中から生やし、天使の輪が頭上に浮き、堕天化する。遺体に蘇生魔術を掛け始めると同時に有栖の身体中から魔術刻印が浮かび上がる。


「そして、見て頂ければわかる通り有栖の身体中に刻まれたこの刻印は、とある神の術式による物なのですが掛けた本人である神は俺が殺した為、今は表向きの効力だけが失われています。この術式は掛けた本人にしか解くことが出来ないのですが、この通り術式形態を変えれば意味の無いものに変わります」


全身に刻まれていた魔術刻印を時の魔術で凝縮して右手の甲に移す。有栖に掛けられていた術式は、神が死んだ場合の保険代わりに残されている乗っ取り魔術である。最も残念な事に神殺しを成す際に、神の能力と所持していた権利を全て俺が喰らった為、神がやろうとしていた人間の肉体への受肉は未来永劫出来ないという事なのだ。


『禁術解放、神の嘆き』


有栖の体に魔法陣が浮かび上がるとそのまま光の柱が立ち上る。余りの非現実的な光景に綴技先生は唖然としていた。


「先生ー!大好ぶべっ」


光の柱が消えた瞬間、真っ直ぐ俺に向かって飛んでくる有栖に対して、片手で顔を掴むと変な音が鳴った。


「この馬鹿弟子が!俺より先に普通家族の元に行けよ。お前の姉ちゃん、クソ心配してたんだぞ?」


「え?あっ!ホントだ!お姉ちゃん、久しぶり」


無言で有栖の元へ近づいてくる先生の表情が見えなかったが心配は無さそうだ。


「有栖っ!心配かけやがって…お姉ちゃんはなぁ!お姉ちゃんはなぁぁぁぁぁ!!!」


有栖を抱きしめながら大号泣をしている先生を見ながら、弟子の蘇生に上手くいって良かったと内心で思いつつ堕天化を解く。神の力を使ったにも関わらず代償が発生しない事から、権限がまだ俺の中にあることを確認し終えた俺は、再度先生達を見返すと感動の再会は収まったみたいだと感じ話しかける。


「にしても妙に状況の飲み込みが早いが今の状況を理解しているのか?」


「うん、私死んだ後に何故か天界の女神様の所にいたんだよねぇ…で、話聞いたら勇者の魂は別格らしくて、死後も本人次第で天界に魂として存在し続けられるらしくてさ、私としては皆の事も気になっていたからラッキーって思って今までの皆の動向、全部把握してたんだよ。まぁ流石に地球の事は知らないけどね」


「そうか、まぁそれなら話は早くて助かる。それで有栖お前に一つ謝らなきゃならないことがある…蘇生する際に恐らく、代償の対象が俺から有栖に移ってしまった可能性があるのだが何か変化はないか?例えば異常な力を解放できるとか」


「そう言われれば妙に力が漲る様な…ちょっと魔力解放してみるね」


魔力を練り始める有栖だったが、明らかに異常事態が起きている。魔力を煉り続ける有栖の頭上には俺と同じ天使の輪が浮かび上がってきているのだ。背には穢れのない白色の翼が生えはじめてきている。


「どういう事?これって先生が使ってたのと似ている様な…」


「これは予想なんだが、蘇生の代償として俺の眷属にしてしまった可能性が高い。ステータスを見てみて欲しい」


「ん、分かったよ『ステータス』」


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名前:綴技 有栖

年齢:14歳

性別:女

職業:勇者(聖)


Lv70

HP(生命力)13450/13450

MP(魔力) 17980/17980


STR(力) :7467

DEX(器用) :5270

VIT(物理防御):2230

AGI(敏捷) :3350

INT(知力) :5400

MND(精神力) :5790

LUK(運) :50


パッシブスキル

・剣技Lv3

・投擲Lv4

・威圧Lv3

・光魔法Lv4

・聖魔法Lv6

・身体強化Lv3

・魔導Lv3


アクティブスキル

・詠唱破棄Lv3

・魔法耐性Lv3

・魔術耐性Lv2

・恐怖耐性Lv3

・魔力操作Lv5

・魔力感知Lv5

・気配探知Lv5

・気配感知Lv5

・剣術Lv3

・魔術Lv3

・暗記術Lv3

・交渉術Lv4


ユニークスキル

・天使化

・聖鎧展開


称号

・勇者

・聖女

・異世界を渡りし者

・人を辞めし者

・剣渕優人の眷属


状態

・禁術魔法による代償により解除不可の眷属付与を施されています。幾つか行動に制限が付いております。

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横にいた俺は、有栖にステータスを伺うとやはり予想通り眷属化していた。前に一度邪神に気に入られた際に眷属化されていた時があったが、ここまでの強制力は無かった。眷属化と言っても強制力の働くものと働かないものの2種類があり、今回は前者であると思われる。


「フッ…禁術を行使した報いで俺にちょっと抵抗出来なくなっただけだ、気にするな」


「何がフッ…ですか!カッコよく言っても駄目でしょ!要するに逆らえないって事ですよね!?」


「私は全然いいんですけどね?先生のモノって感じがして」


「有栖、お前まだ中学生なんだから考え直せ。いいか?世の中にはな、俺よりいい男がたくさんいるんだ、お前のその可愛さならどこに嫁に出しても大丈夫だ、俺が保証する」


ビシッと親指で俺は自分を指すと呆れたような顔で、今度は綴技先生がお礼を言ってきた。


「何はともあれ剣渕優人君、妹を助けてくれてありがとう。私のたった一人しかいない妹を支えてくれてありがとう」


「お礼を言われるような事は何も…。俺にも妹がいますから、お気持ちはよく理解できます。それに綴技先生の方こそ有栖のことを支えていらっしゃいますよ?俺には『支えてきた』と言えるほど彼女たちにしてやれてませんから」


危険な異世界生活で不安だった彼女達に対して、先駆者としてもっと彼女達の気持ちにも配慮すべきだとは思っていた。ただ、あの世界で裏社会を知り、殺しを知り、人のあらゆる一面を見て聞いて、人に対して嫌悪感を抱きながらも必死に生き抜いて来た俺は、彼女らを見た時あまりにも存在が眩しいと思えてしまった。それはかつて自分が捨ててきた光景だったから。


だからこそ、余計に彼女らに対して俺は無愛想にただ戦いの教師としての役目を果たしただけに過ぎなかった。精神的に支える所か負担をかけさせてしまったのだ。


「それでもありがとう。こうして、妹と笑い合える日々が帰ってきたのですからお礼を言うのは当然です」


「流石有栖のお姉さんだ…有栖に似て頑固な一面を持っていらっしゃる、いや勿論いい意味でね」


さりげなくフォローを入れつつ、疑問に思っていた事を聞いてみる。


「それで綴技先生、そろそろ隠している武器についてお話して頂けると助かります」


「…いつから気づいていたのって聞いても無駄よね?」


「最初からですよ、殺し合いをしてきた以上そう言う輩の相手も対応した事がありましたから」


綴技先生は武器であるハンドガン一丁とサバイバルナイフを机の上に置く。


「実は私はね、元特殊部隊所属の軍人だったのよ。まぁ色々あって今回剣渕優人君の素性及び周辺調査を担当して欲しいって上から言われてね?私は私で、有栖の事もあったし引き受けてしまったのよ」


「武器の隠し方、明らかに戦闘慣れしてそうな体の構え方。佇まい、整い過ぎている呼吸、只者ではないと踏んでいましたがやはりそうなのですね。しかしながら、一行方不明者の動向に特殊部隊が関与するものなのですか?」


「えぇ…今回は事が事ですから。あなただけでなく同時期に居なくなっていた貴方以外の行方不明者6人の内5人が無事に戻るという事は、普通に考えて可笑しいです。それに加えて剣渕優人君の容姿が1年前と比べ、別人と言っていい程変わってしまっているのも今回貴方が怪しまれている要因の一つでもあります」


俺の元に警察やらお偉いさん方が来なかったのは、俺が完全に別人と思われている説と俺以外の5人が異世界転移の事を話した説の2つの仮説が成り立つ。


「それに加えて、俺以外の5人が異世界転移の事を話したんじゃないですか?」


「そのようですね、コチラをどうぞ」


鞄から取り出されたのは大きな茶封筒。茶封筒の中から出てきた資料には1年前の俺達の写真、素性、生活態度等事細やかに纏められている。それに加えて、異世界転移の事を5人から聞き詳細を纏めた資料の方もあった。


「すいません、何で俺の資料だけおかしな点があるんですか?」


「君、本人に直接聞こうにも本物かどうか分からない上に確証がない。となれば他の5人から得られた情報から纏めるしかないと考えていたようだよ」


だからなのか資料には以下の様な事が書かれていた。



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特筆事項である剣渕優人と思われる者について

以下の事を情報の一部として記載しておく。


・剣渕優人と思われる者に対して、少女ら5人は共通の認識で『先生』と呼んでいた。


・剣渕優人と思われる者の容姿について

少女らの内、1人の答えとしては出会った時から既に今の状態だったとの事。お互いに地球では接点がないと言っていた。


・異世界から帰還したと言う少女らに、帰還方法について聞いてみた所、女神による転移魔法で戻れたと証言していた。ただ戻って来た際に何故か全員、自宅にいたとの事。


以上のことから対象が、少女ら5人と何らかの接点を持ち信頼関係を築いてきていることが伺える。結論として、対象が何かを隠しているのは明白であり疑いを掛けるべきだと思われる。


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「隠すような事でもないですし、俺としては話してもいいんですけどね…ただそれが、死者をも生き返らせる手段を持ち異形な力を持つものだと思えば…」


「間違いなく狙われるでしょうね、良くて殺害。最悪の場合家族を人質に取り、脅してくる可能性もあるわ」


「そうなったら敵対するもの全てを皆殺しにするかもしれません…、一度甘さを見せればそこに漬け込み壊そうとする。人間の常套手段ですから当たり前といえば当たり前なんですが、正直うんざりしてますよ…人の愚行には」


うーんと考える綴技先生を横目に有栖は机の上の和菓子を手に取り口に放り込んでいた。


「それに日本の情報なんて他国に筒抜けになっている可能性もありますからね、まぁそうなったとして刺客を送り込んできたとしても死体の山が増えるだけですから個人的には変わらないですし。向こうがどう思うかは別として今回の件は、遺恨を残さない為にも話し合いの場を設ける必要があるのかもしれませんから綴技先生は一度このことを上層部に伝えておいてください」


「そうね、一先ず話し合いの場を作る事は向こうとしても望ましい事だと思うから掛け合ってみるわね。結果が出るのは遅くても2、3日と言ったところだから日時が決まり次第伝えるわ…番号交換しましょうか」


スマホを取りだし綴技先生のアドレスと番号を登録する。有栖は羨ましげに俺と先生を見ていたが「後で聞くからね」と言って引き下がった。


「話がだいぶ逸れたけど、ようこそ凰城川学園へ復学おめでとう剣渕優人君」


「ありがとうございます、それで差し支えなければ有栖を家まで送りましょうか?スケジュールを見たところ、この後すぐホームルームですから」


「それはそうなんだけど…送るってどうするの?空を飛ぶとか?」


「少し失礼」


綴技先生の頭の上に手を置き情報を覗き見ると綴技先生の住まいの場所を特定した。頭から手を離し何も無い所で空間魔術を使う。


無理矢理、家と現在地の座標を繋げた事で、若干制御が不安定になるが問題は無い。あの空間には綴技家が見え一瞬で家に戻ることが出来る様になった。


「これで空間の座標固定が完了致しましたので、そちらから入って頂ければ帰宅できます」


「え?え?」


未だに状況が理解できないと言った様子の綴技先生を置いて有栖は一足早く家へと帰宅して行ったのであった。有栖が通り過ぎてすぐ、綴技先生は混乱しつつも、咄嗟に家の鍵を空間に向けて投げ入れると同時に空間が閉じられる。


「さて、では行きましょうか」


「つくづく規格外な力ね…」


俺は先生の後に続いて廊下へ出ると、あっ!と先生が叫んだ。


「そう言えば忘れていたわ…復学したあなた以外にも転校生が二人いるのよ。先生ちょっと隣の応接室2の方に行ってくるから待っててくれる?」


「分かりました、ではここでお待ちしております」


誰だろう?俺と同じ転校生か、これはもしかしてヒロイン枠登場なのでは…?だとでも言うと思ったか、魔力を変質させているが間違いない。そんな事を考えていると不意に応接室2の扉が開いた。


「妾の王子様〜♪」


「出やがったな、愚王が!」


「私もいるよ?」


何故か応接室から現れた制服姿の魔王ブラドと邪神メルドが絡んでくる。


「まぁお前らの事だし、やり兼ねないとは思っていたけどな」


「ユウトの周りには女子が寄ってくるのじゃから、妾もしっかり見極めてやらんとのぉ?勿論妾が正妻じゃけどな!」


「何を言っているのですか貴方は…。因みに私はですね、ユウトと制服デートや高校生の恋愛という物を体験してみたくて編入という手段を取らせて頂きました」


無茶苦茶言ってる馬鹿達の言葉を聞き流しつつ、綴技先生の方を見ると大分お疲れのご様子だ。そりゃそうだ、コイツらの相手は本当にしんどい。


「…綴技先生コイツらって一緒のクラス何ですか?」


「よく分かったわね、親しげに話してるって事はこの子達と知り合いなの?」


「…ただの腐れ縁ですよ。それより時間も差し迫ってますしそろそろ教室に向かいませんか?」


隣でギャーギャー言ってる2人を放置して先生に教室への案内をする様促すと、先生は苦笑いを浮かべながら教室の前まで案内してくれた。俺たちは廊下で待つように言われた為待つことにしたのだが、隣のクラスの生徒達が俺たちを見てザワついていた。


「アレ明らかにお前らのせいだからな?」


「あなたがそれ言うの?」


「寧ろ妾達を見る民衆の反応が普通なわけなかろう?」


「それもそうだな」


魔王と邪神、中身はアレだが外見だけなら二人とも群を抜く容姿だからな。とは言えムゼルガルドなら二人のような容姿の人間はゴロゴロいた。見慣れてる俺からすれば普通なんだけど、一般的に見てアイドルと出会ったレベルで異常な事だと感じるのかもしれない。ザワついている生徒達の会話を盗み聞きすると


『お人形さんみたい!』


『可愛すぎだろ』


『美しさの次元が違う』


など二人を褒めるような声が多数聞こえてきた。二人とも声には出さないがドヤ顔をしている。民衆からの声なんて聞き慣れている癖して、地球人に褒められて良い気になっているなんて意外だな。


そうこうしていると、俺達が今日から所属する2年E組の教室内からザワザワと声が聞こえてくる。どうやらそろそろ出番らしい。


「ごめんなさい、待たせたわね。どうぞ入って」


教室の扉が開き先生が教室に入るよう指示をくれたのでメルド、ブラド、俺の順番で教室に入っていくと先程まで騒がしい程にザワついていた教室内が静まる。フリーズしたかの如く生徒たちは固まっているが俺たちは打ち合わせ通り自己紹介を始める。


「皆様初めまして、私はクラシェリア・メルドと申します。以後お見知りおきを」


「右に同じく、妾はクラシェリア・ブラドと言うのじゃ。メルドは姉じゃからよろしく頼む」


「俺は転校生って訳じゃないんですが、一応自己紹介の方をして欲しいとの事でお呼ばれ致しました。剣渕優人です、去年から家庭の事情により休学させていただいておりました。本日より皆様と一緒に学んで行ければなと思っております、どうぞよろしくお願いします」


何故か俺が話し終えた途端今まで抑えていた分か否か一気にザワつき始める。波乱万丈な学園生活が始まりそうな気配がした

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