倒果幻記
安良巻祐介
服はぼろぼろだったが、肌は不思議なほど滑らかで綺麗だった。
日本語が全くわからなくなっていて、判別できない不思議な言葉を喋った。
家人は怯えながらも甲斐甲斐しく世話をしたが、食べ物は腐りかけた桃しか食わず、水は飲まなかった。
一週間ほどのびやかに得体の知れない歌を歌い暮らしたと思ったら、男は八日目の朝に、目と鼻と口とを従来の三倍ほどの大きさに広げた、異様なる顔で死んでいた。
遺骨は頭から足先までの悉くが奇怪な形に変わっており、壺の中で溶けてしまった。
誰が言うともなく、盛り土の上で見つかった日が命日にされ、一文字だけの戒名が付けられた。その文字を、今では誰も知らない。
倒果幻記 安良巻祐介 @aramaki88
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