第21話 次代の若者たちへ

なんというか、出落ち感が半端ない魔王軍だった。「あのー」

空を見上げると、師匠(フェンリル)の魔法で隠れていた太陽も姿を現し、更には泉の水の置き土産なのか、綺麗な虹がかかっていた。「おーい」


ポンッ!

【シークレットクエスト「世界樹の決断」をクリアしました】


うん、これで一件落着かな。そう考えながら手をポンポンって動かす。「あうー」

と、そこへ10歳くらいのエルフの子供たちがやってきた。


「お、お、おお、お前たち!世界樹様から離れろ!!」

「そ、そおよ。離れなさい!」


その子たちは、がくがく震えながらも手に持った剣や弓を師匠に向けていた。

師匠たちを前にして立ち向かおうとする勇気は賞賛に値すると思う。

……良かった。

まだ気力の残ってる子供たちが居たんだ。

いつの間にか子供たちの後ろに移動していたカゲロウから『どうする?』って念話で聞かれたから、首を振って手を出さないようにお願いしておいた。

そして事情を知っているであろう世界樹の精霊に話を聞くことにした。


「この子たちは?」

「20年位前に生まれた子たちね。外周で育ったから私の影響が比較的弱かったんだと思う」

「なるほど。この様子ならこれからが期待できそうだね」


世界樹の付近に居た無気力な奴らに比べれば、彼らは実に生き生きしている。

きっと彼らなら自分たちの足で生きていくことができるだろう。

そう僕と世界樹が話してるとリーダー格の男の子が僕の方に剣を向けて来た。


「おい、そこの人間。こっちを無視するな。

それにお前がさっきから頭を撫でてるのって世界樹の精霊様だろ。

なんてうらやま、けしからんことをしてるんだ」


 ……そういえばずっと頭に手を置いたままだった。

まぁ気付いてはいたんだけど、髪の触り心地が良いからついつい撫で続けてしまった。

でも、彼らはちゃんと世界樹の精霊体だって分かるんだね。

じゃあそっちから話してもらった方が早いか。

そう思って、世界樹の両脇に手を入れて、ひょいっと持ち上げて少年たち方に立たせた。


「ちょ、レディの扱いがなってないわよ。まったく」


むっと上目遣いで睨んでくるけど、力を放出した影響で6歳くらいまで小さくなった姿で睨まれても、かわいいとしか思えない。

(あ、僕はロリコンではないので変な意味はないから間違えないように)。

それに言葉遣いも若干子供っぽくなってて面白い。

さらに子供たちを前に胸を反らすしぐさが微笑ましい。


「まぁいいわ。それより、あなた達。

私の事を思ってここまで駆けつけてきてくれた事、心から感謝します。本当にありがとう。

ですが、見てのとおり、私の力は失われてしまいました。

もうあなた方を守護する力は残されていません。

この後は力を蓄えるためにしばらく眠りにつくことになるでしょう。

ですから、あなた達は自分たちの力でこれから生きて行かなければなりません」

「そんな!でも、一体どうすれば」

「しばらくの間はあなた方が生まれ育った地で、大人たちから学ぶのも良いでしょう。

また森の外、急に大きな街に行くと大変でしょうから、小さな村に立ち寄って、世間を学んでも良いでしょう。それに」


世界樹はそこで一息入れて、リーダーの後ろにいる少女を見て微笑んだ。


「そこのあなた。私の力の一端。世界樹の卵を授かっていますね。

正しき力を持ってそれを育てれば、あなた方の心強い支えとなってくれるでしょう」


そう、少女の腕の中には薄緑色の卵があった。あれが世界樹の卵なんだね。

どうやら世界樹の卵は地元民、外来人関係なく配られているようだ。


「さぁ、もうお行きなさい。これからはお互いで支え合って生きていくのよ」

「分かりました。あ、あの、最後にその人間達は一体……」


まあ、本来はこの森に居ないはずの人間がいれば気になるよね。


「この方は大切なお客様。いえ、私の運命を変えて下さった恩人です。

そして、先ほどの魔王軍からこの森を守ろうと立ち上がってくださった方でもあります」

「そうだったのですか。失礼致しました。

そして森を守って頂きありがとうございます」


そう言ってエルフの子供たちは森の先へと帰って行った。


「すごく礼儀正しく、勇気のある子供たちだったね」

「えぇ。一時はどうなることかと思ったけど、あの子たちが居ればエルフも大丈夫ね。

それで、えっと。

あなた達はもう、帰っちゃうの、よね」

「うん、そうだね。ここでやることも全部終わったし、元の街に戻るよ」


そう言った僕を見て、世界樹は意を決したように僕を見つめた。


「ま、まだ終わってないわ!!このまま私をここに置いてきぼりにするつもり!?」

「え?だって、さっき眠りに就くってさっき言ってなかった?」

「言ってたけど!! さっきからずっと誰かさんが私に大量の魔力を送り続けた所為で眠気なんか吹っ飛んじゃったのよ。

責任とって最後まで面倒見なさいよ。嫌とは言わないわよね。言っても付いて行くんだからね!!」


若干涙目になりながら捲し立てられた。うーん、まぁ乗り掛かった船だしね。


「分かったよ。でも君ってここから動けるの??」

「きみ……って、そうよ!

ちょっとねぇ。私にも名前を付けてよ。

アシダカさんやカゲロウばっかりずるいじゃない。

世界樹とか君とかじゃなく私の事もきちんと名前で呼んで」


なまえ、かぁ。まあ確かにずっと世界樹って呼ぶのもあれだよね。何が良いかな。

せかいじゅ…ユグドラシル…うーん、なんかちがう。

じゃあ咲いていた花の雰囲気は……沙羅双樹に似てた、かな。あ、なら。


「『サラ』っていうのはどうかな」

「『サラ』ね。うん、いいわね。

私は世界樹のサラ。我が主テンドウ。この身は常にあなたと共に。

あなたの魂が天に還るその時まで、私はあなたを守護し続けるわ。

だから定期的に魔力を食べさせてね♪」


あらら。芝居がかった挨拶をしたかと思ったら、最後ので台無しだ。


「ちなみになんだけど。あなたの事は何て読んだらいいかしら。

テンドウくん?テンドウ様?マスター…見た目でいえば、お兄ちゃんってのもありね。うん、決めた。

これからよろしくね、お兄ちゃん♪」


そう言って上目遣いでウィンクしてくるサラ。

ま、まぁかわいいから良いかな。

……だんだん自分の思考がシスコンぽくなって来た気がする。断じて僕はロリコンでもシスコンでもないからねって、誰に良い訳してるんだろう。


「さて、じゃあ後、今お兄ちゃんにしてあげられるのはこれかな」


サラがそう言いながら世界樹の幹に手を当てると、世界樹全体が光に包まれ消える。後に残ったのは世界樹が消えた分、広がった空と、サラの手に掴まれた1本の杖だった。


「お兄ちゃんは普段杖で戦うんでしょう。

これから魔王軍も本格的に活動するかもしれないし、この世界樹の杖で大活躍してね」


そういって渡された世界樹の杖は凄くしっくりと手に馴染むし、昔からのパートナーであるかの方に持っているだけで力が溢れてくるようだ。

そうして、一通り感触を楽しんだ後、仕舞おうかなと思ったら僕の中へとすぅっと消えてしまった。

あれ、アイテムボックスを確認しても無い。


「心配しなくても大丈夫よ。杖がお兄ちゃんを宿主と認めた証拠だから。

必要になったら手元に出てくるわ」


あ、なるほど。意識しただけで、アイテムボックスよりも更に自由に出し入れできるみたいだ。

さて、これで本当にここでやるべきことは終わったよね。

そうしてアシダカさんにお願いして始めの街まで送ってもらおうと思って一歩を踏み出した時、突然足元の地面が突然消失して、強力な吸引力によって穴に吸い込まれる……。


「ちょっ」

「お兄ちゃん!?」


僕とサラが咄嗟に手を出すも間に合わず穴に吸い込まれてしまった。

更にはすぐさま穴は塞がれてしまい、誰一人として後を追う事が出来なかった。

幸いと言えば、吸い込まれたのが僕一人だけということか。


「い、今のは一体何が起きたの!?」

「まさか魔王軍の攻撃か!!?」


そうやってアシダカさんとフェンリルが慌てる中、サラが申し訳なさそうにあやまった。


「今のはおそらく、ダンジョンの壁が壊れた時の現象だわ。

……ごめんなさい。私の所為ね。

さっき世界樹の全てを使ってを杖を作ったじゃない。

世界樹って当然根が凄く広く深く地中を走ってたのよ。

で、その根がきっと奇跡的にダンジョンまで繋がっていたのね。

それが突然消えたもんだから、ダンジョンの壁に穴が開いたんだわ。

穴を埋める時に吸引作用が発生するの。

お兄ちゃんはそれに引っ張られてダンジョンに落ちたんだと思う」

「なら、今からここを掘れば、そのダンジョンまで行けるのかな」

「いいえ。道が塞がれた今、もう一度ダンジョンの壁を掘り当てたとしても、同じダンジョンに繋がる確率はほとんどないわ。

ダンジョンていうのは異空間になって複雑に変動しているから。

その証拠に、この地下には既にお兄ちゃんの気配はないわ。

でも、うん。大丈夫。私とのリンクは繋がったままだし、無事みたいよ」


サラの説明を聞いてようやく胸を撫でおろす一同。


「ふむ。無事ならば心配あるまい。

我が鍛え、世界樹の杖を持ったあやつがダンジョンの魔物ごときに早々遅れを取る事は無い。ましてあやつは外来人の加護を持っている。

待っていればその内、ひょっこり顔を出すであろう」

「……そうね。なら私はお兄ちゃんがどこのダンジョンに落ちたのか調べながら帰ってくるのを待つことにするわ。

私一人でダンジョンに潜ったら返り討ちに合うのが関の山だし」

「そうだね。僕らも仲間のレッグスパイダー達に声を掛けて何か情報がないか探ってみるよ」

「ではまた何か情報があれば」

「えぇ」


そう言って、残った者たちはそれぞれの方向に散っていくのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

VR世界は問題だらけ たてみん @tatemin15

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ