カーテン
水面を揺蕩う私の意識が、ゆっくりと覚醒へと
というのもついこの間。ろくでなしの私は毎日のようにアテもなく、コンクリートが織り成す――時々思い出したかのように色が塗布された――灰色の大森林を
健康だけが取り柄であった私にとって、入院をするというのは極めて不慣れなことであった。最後に病院のベッドに寝転んだ日すら思い出せないくらいには。しかし、いざ入院してみれば、それはそれは居心地の良い場所であった。元よりやる気のない勉学を
加えて、季節は春である。時の刻は真昼時――尚良い。麗らかな、ぽかぽかとした日差しを体にたんまりと取り込んで。梢に
見舞いに来た数少ない友人が持ってきた、良く熟れたリンゴを
きっと私が同じように風に吹かれてみれば、私は疲弊してしまうだろう。風の調子によって高く舞い上がったり、ゆっくりと揺れたり。元来不器用であることも災いして、他の場所と同じような動作を続けられなくなって、私が居る場所だけが変な調子で揺れること請け合いだろう。
そんなことを思っている間にも、カーテンは相も変わらず風に揺られて揺蕩うだけであった。それがさも当然であるかのように。
私はふと、一抹の寂しさを覚えた。カーテンは風に吹かれると、連られて同じ向きへと靡くことができるが、私にはできない。ただ風に身を受けるだけであって、体が転がってベッドから落ちるわけでもない。あまつさえ風に吹かれて浮き上がり、ヒラヒラと
リンゴを食べ終え、残った芯を近くのごみ箱へ放り投げた。珍しく綺麗に中に入っていった。私は気分がよくなった。そのまま再び体を横たえ、草臥れた。やはり病院のベッドは居心地がいい。ゆらゆらと揺れるカーテンを
あれから私は難なく退院した。幸いなことに後遺症やら何やらは一切残らなかった。代わりに一つ習慣ができた。常時は締め切っている窓を、たまには開けてやることにした。そして、風に揺られているカーテンを眺めるのだ。病院では気だるそうに揺れている印象であったが、今は少し、楽しそうに揺られているように見える。相も変わらず、私が揺られることはないのだが。風が吹けば気持ちが良い、それだけである。それでいいのである。
厭世主義者の悦生 神崎 綾人 @Inorganic_sloth
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