叶うならば君と二人。

常陸院ナギ

プロローグ

「ねえ、ナスカ。


 …っあのね、私、後悔してないわ」


横たわった女は、血の出る自分の腹を押さえながらも言った。

今にも消え入りそうな息と、青白くなっていく体。

地面に染み込んでいく赤い液体は止まることを知らない。


「もう喋らないでください、出血が酷いんです…!」


男は焦りと怒りの混じったような顔で女に言った。

服を破き、女の下腹部に布を当てる。


男を見ながら、女は哀しく微笑んだ。


「最後まで敬語を使うのね…」


「黙ってください、このままじゃ本当に、命を落としかね…」


男の発言はそこで遮られた。

頬にある温かな感触。

女は男の名を呼びながら頬を撫でた。


「ナスカ、…たとえ愚かだと言われても、あなたと一緒なら大丈夫だと思えた。あなたが愛してくれたから…幸せだった」


男の目から、涙が零れた。


「最初から分かっていたけれど…やっぱり、”元”姫と“元“従者じゃ駄目なのかしらね」


女は弱々しく微笑んだ。


「元従者とはいえ、一回くらい呼び捨てで呼んでほしいわ、…ナスカ」


男の頬を撫でる手は、少しずつ下に下がっていく。もう、時間は残されていない。

男は決心したように女を見つめた。


「愛してる、ルーシャ。これからもずっと」


その言葉が合図だったかのように、女の手は滑り落ちた。

男は頬に残る温もりを感じながら、女の体を抱き上げた。


「愛おしき我が妻よ、永遠の愛をここに誓おう」


そう声に出した後、女の唇に口付けをしたのだった。




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