割と辛辣な先輩

加衣田

第1話 身長

 駅から学校までの上り坂は確か800メートルほど続く。なだらかな1本道をぞろぞろ同じ制服の男女が歩く様は、巣へと帰る働き蟻を彷彿とさせる。……というのは割とどうでもいい。

 1つ学年が下な中条は同級生に比べると短い爪のついた指でスマートフォンをスクロールさせ、低い声で唸った。


「歩きスマホ良くねぇなぁ」

「あー……あはは」


 すみませんと言いながら、緩んだ頬は反省していない様で、中条はブレザーのポケットにスマートフォンを滑り込ませた。


「ところで先輩は、何センチですか?」


 確か、今日は体育があると言っていた。セミロングが後ろでひとつにまとめられて、晒された首に風が吹くたびに寒いと小言を洩らしている。


「27」

「え」

「27センチだって」

「いや何が」


 ふたえの幅が潰れるほど目を見開いて、口をぽっかり開けている。そんな様が昔飼っていたゴールデンハムスターに似ていた。


「靴のサイズ」

「……誰が先輩の靴のサイズ知りたがるんですか」

「スニーカーでも贈ってくれるのかなって」

「自分で買ってください!身長ですよ身長!」


 ぽっかり開けていた口をすぼめて15センチと中条は呟いた。


「何それ」

「15センチらしいですよ、カップルの理想の身長差は」

「へぇ……で?」

「私、162センチだから先輩何センチかなって」


 校門が見え、上り坂が終わりに差し掛かる。自転車を漕ぐ何人かの同級生に抜かされた。


「ふうん」

「……」

「え、結局何センチなんですか?」

「忘れたから、当ててみて」

「……それ覚えてるじゃないですか」


 カップルの理想の身長差なんて、そもそもの話だ。


「おれら付き合ってねぇんだわ」


 意地悪だとこちらを睨む15センチ下からの視線を無視する。

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割と辛辣な先輩 加衣田 @haru_to

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