第5話 コーヒー屋でのひととき

 中間テストも終わり、気が付けば六月も半ばだ。今月末の白菊祭に向けて、学校中の生徒が忙しなく動いている。

「コーヒーが入りましたよ」

 南條さんがコーヒーを持ってくる。南條さんとはあれからコーヒーの話で意気投合して、最近は月曜日に南條さん、水曜日に俺がコーヒーを淹れる担当になっている。

「ありがと。風夏ちゃんのコーヒー、私好きよ」

「ありがとうございます」

「じゃあ、コーヒーも入ったことだし、そろそろ会議を始めましょうか」


 最近の会議は、会議と言うよりも進捗報告会って感じだ。各自が担当している業務の進捗状況を報告して、これからの予定を打ち合わせて、会議は恙無く終了した。

「北辻くん」

「何?」

「コーヒー豆があと一杯分くらいしか無いんだけど、この後買いに行かない」

「良いよ」

 生徒会が早く終わった時には、一緒にコーヒー豆を買いに行っている。味覚は彼女の方が冴えているので、豆の選定はほとんど彼女に任せきりだ。カフェ巡りに託けて休日に二人で出掛けたりするようになっていた。

「あらあら、お二人さんお熱いですね」

「うるせえ」

 桂志郎は事あるごとに俺と南條さんをからかってくる。

「んじゃ、お邪魔虫は帰りますよ」

「じゃあね、二人とも」

 桂志郎と会長が先に支度を済ませ、生徒会室から二人で出て行った。あの二人は最近一緒に帰ることが多い気がする。

「あの二人って仲良いよね。昔から仲良いの?」

「うーん……。あそこまで仲良くなったのはここ最近な気がするな」

 白菊祭の実行委員長と副委員長だと、一緒にいる時間が多くて仲良くなるんだろうか。


「今日はどうしようかな……」

 コーヒー豆専門店は、学校前のバスに乗って二駅ほどだ。その場で焙煎してくれて、待ち時間は併設のカフェで過ごすことが出来る。

「取りあえず一つはこれにして……」

「あ、風夏ちゃん! 柊くんも一緒か。二人が仲良くて嬉しいよ〜」

 俺と南條さんは、偶然にもカエデさんと出くわした。意外だ。コーヒー好きで自分でドリップする人じゃないと、この店にわざわざ来ることは無い。カエデさんがコーヒー好きだってことは知らなかった。なんで生徒会見学の時に言ってくれなかったんだろう。

「カエデちゃんもコーヒー豆買いに来たの?」

「そうそう。このナチュラル製法の豆が好きなんだよねー。あんまり苦いの好きじゃなくてさ」

「私も! 今ちょうどそれ買おうと思ってたの」

 二人が意気投合する。二人は味の好みも似ているみたいだ。女子で盛り上がられて、俺は少し手持ち無沙汰になっている。

「番号札二十七番のお客様」

「あ、ロースト終わったみたい、じゃあお二人さんごゆっくり〜」

「もうっ、茶化さないでよ〜」

 カエデさんの買った豆の焙煎が終わったみたいだ。レジで商品を受け取ると、彼女は嵐のように過ぎ去って行ってしまった。

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