第2話 生徒会見学!

「こんにちは! 見学に来ました!」

 次の週の月曜日の放課後、カエデさんは約束通り、元気よく生徒会室に入って来た。

「あと、この子も興味ありそうだったので連れて来たんですけど……」

「こんにちは……」

 そこには予想だにしない人が居た。南條さんだ。二人はちょくちょく話をしていたけど、まさか生徒会の見学に誘っているとは……。


「いらっしゃい。あら、二人ともすっごい美人さんね。目元とかそっくりじゃない? 双子だったりするのかしら?」

「いやいやそんなこと……。風夏(ふうか)ちゃんはともかく、私は全然ですよ〜」

 会長が見学に来た二人に声を掛ける。旧生徒会の頃から男しか居なかったせいか、若干テンションが上がっているように見える。

「お、カエデちゃんやっほー。南條さんも来たんだ。いらっしゃい」

 トイレから戻って来た桂志郎が二人に声をかける。会長も桂志郎もコミュ力が高くて凄い。俺みたいなコミュ障が何で生徒会にいるんだろうか……。

「柊、二人にもコーヒー淹れてあげれば?」

「ああ、了解」

「じゃあ柊くんがコーヒー淹れてくれたら、会議始めよっか」

 俺はコーヒー豆を挽き始める。コーヒーのハンドドリップは俺の数少ない特技だ。彼女がコーヒーを好きだと良いんだけど……。


「おいしい……!」

「あ、ありがと……」

 南條さんは俺の淹れたコーヒーをブラックで飲んでいる。会長や桂志郎は、砂糖やミルクを入れて飲むので、ブラックで飲んでくれる人は新鮮で、何となく嬉しくなる。

「へー風夏ちゃんブラックで飲めるんだ!  コーヒー好きなの?」

「好きだよ。これ本当に美味しい。北辻くん、ありがと」

「ど、どういたしまして」

 俺と南條さんのぎこちないやりとりを見て、カエデさんがニヤリと笑った。嫌な予感がする。

「二人ともコーヒー好きなんだ。じゃあ今度カフェデートでもしてみれば?」

「は!?」

 こいつは何を言ってるんだ? 流石に突拍子が無さすぎる。桂志郎はゲラゲラ笑い出す。南條さんは俯いてしまって何も言わない。

「いやいやおかしいでしょ。俺と南條さんはそんな仲良くないし」

「えーじゃあこれから仲良くなれば良いんだよ! ねっ!」

 カエデさんが南條さんに同意を求める。

「そ、そうだね。じゃあ今度どこかの放課後で行こうか」

 意外だった。南條さんは柔らかい印象を持たれるけど、言いたいことはきちんと言うタイプの人間だ。嫌なことは嫌だと伝えるはずだ。そんな彼女が流されるとは……。

「お、おう……」

「コミュ障かよ」

「うるせえ!」

 桂志郎が俺をからかってくる。お前も人のこと言えないだろ。俺は気付いてるぞ、大半の女子を下の名前で呼ぶお前が、南條さんのことは下の名前で呼んでないことに。

「はいはい、そろそろミーティング始めるわよ」

 会長の一声で場がようやく収まった。


「議題は白菊祭についてなんだけど、そうね、まずは委員長を決めるところからかしら」

 白菊祭というのはうちの高校の学園祭の通称だ。毎年六月の末に開催される。例年、実行委員長と副委員長は生徒会から出して、それ以外の実行委員は一般生徒から適宜募集をかける形を取っている。

「例年、委員長は三年生から、副委員長は二年生から出してるんだけど、今年は三年生が私しかいないから、私ってことで大丈夫かな?」

「大丈夫です」

「オッケーです!」

 現生徒会役員全員の賛成ということで、会長が実行委員長ということになった。基本的に生徒会役員の全会一致で可決になる訳ではあるが、毎回こんな軽いノリで本当に大丈夫なのだろうか……。

「じゃあ次に副委員長なんだけど、二人のどっちかにお願いしたくて……」

「じゃあ俺やりますよ。柊は忙しそうだし、学園祭会計やりたくないんで」

「おい、まあ良いけどさ」

 実は生徒会から出す役職はもう一つ存在する。学園祭会計である。会計処理は俺の方が向いているので、予想通りではある。

「じゃあ俺が副委員長、柊が会計ってことで、会長もそれで大丈夫ですか?」

「良いよ。じゃあこの体制で動いていくから、これからよろしくね」


 そんなこんなで、会議は無事に終了した。二人がいることもあってか、いつもより短めだった気がする。

「じゃあ桂志郎くん、議事録は明後日までにお願いね」

「了解です!」

 雑な採決を取っている会議の内容をそれっぽく議事録に書き起こすのが書記の一番重要な仕事だったりする。

「二人もお疲れ様。生徒会ってお堅いように思われるけど、こんな感じでゆるーくやってるから、入るかは気軽に考えてみて」

「分かりました。今日はありがとうございました!」

「ありがとうございました」

 会長がカエデさんと南條さんに話しかける。二人は生徒会に入ってくれるのだろうか。こんな緩い活動を見せてしまって、がっかりされていないか心配だ。

「じゃあ私は少しやることがあるから、皆は先に帰ってて」

「「「「お疲れ様でした」」」」


「じゃあ俺はこっちだから、今日はお疲れさん」

「お疲れ」

「私はバスで帰るね。お疲れ様、今日はありがとう」

「じゃあね、風夏ちゃん、桂志郎くん」

 桂志郎の家は俺と別方向だ。南條さんはバスで帰るみたいだ。と言うことは、俺はカエデさんと途中まで一緒に帰る流れだ。

「じゃあ帰ろっか、柊くん」

「そうだな」


 二人でしばらく歩いた後、カエデさんが口を開いた。

「ねえ、柊くん」

「何?」

「柊くんって、風夏ちゃんのこと好きでしょ」

「は!?」

「私、こう言うの目敏いんだよね。ちなみに、風夏ちゃんも柊くんのこと好きだよ」

 また突拍子の無いことを言い出した。と思ったが、彼女の表情は真面目そのものだ。

「何を根拠に言ってるんだか。南條さんが俺のことを好きな訳ないだろ」

「好きだよ。私は知ってる」

 カエデさんは俺を真っ直ぐに見つめてくる。何か、全てを見通しているような、どこか遠く先を見ているような、そんな瞳をしている。

「じゃあ、私が二人をくっ付けてあげよう。題して、プロポーズ大作戦! なんちゃって」

「おい!」

 先程までの真剣な表情と打って変わって、カエデさんはいつも通りの笑顔に戻った。

「二人が早く結ばれるように、私が手伝ってあげる!」


 夜、部屋の中で、カエデさんに言われたことを思い出す

『いい? せっかくメアド交換したんだから、今日のうちに風夏ちゃんにメール送ること!』

 女子と雑談のメールなんてほとんどした事がないから、正直不安だ。取りあえず無難なメールから送ってみるか。


『今日は見学に来てくれてありがとう。今度またコーヒーの話をしましょう』


 我ながら酷いメールだと思いながらも、送信ボタンを押す。あぁ、送ってしまった。もう嫌だ、寝てしまおう。

 ベッドに潜り、電気を消そうとした瞬間、携帯の着信音が鳴った。どうせメルマガか何かだろうと思いながらも、どこかで期待してしまっている自分がいる。恐る恐る画面を起動する。


 新着メール:一件 南條風夏


『こちらこそありがとう。コーヒー美味しかったです! 今度、駅の西口の方にあるカフェに一緒に行きませんか?』

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