第二章

第6話 探し物 ①

「長谷部は今日休みだから」


担任の先生は淡々と告げた。昨日の口論を思い出す。もしかしてあの場所に行ったのか、いや、風邪かもしれないし…。


「芹沢、お前今日日直だろ、日誌取ってこい」


あ、はい、俺は返事をして職員室へと急いだ。


その日は授業が全く入ってこなかった。ま、普段もあんま聞いてないけどな、横を向いても聞き手は居ない。1人の帰り道は新鮮だったが、なんだか永く感じた。


翌日、登校してきた長谷部は饒舌だった。口を開けばハムスターが可愛いだの、初心者でも買いやすいだの、こっちから聞かずとも話し続ける。休み時間のたびに話しかけてくるものだから、帰り道も喋り続けるのかと思っていたが、さっさと帰ってしまった。人が変わってしまったようだ、なんなんだ一体。


ショッピングモールでハンバーガーを1人頬張って考える。現状を整理しよう。長谷部は学校を休んだ日、前田さんと赤丸の場所へ行ったらしい。


「すごく綺麗なとこだったよ、店主もいい人だったし、ハムスターと戯れられるスペースもあってさ、あー思い出すだけでたくなってきたー」


昨日何したか聞いただけなのに全く勢いが衰えない。こっちにターンが回ってくるのは次はいつになるのだろうか。とにかく、赤丸の場所はハムスターカフェなる所だとわかった。磁石がいるのもそこなのだろう。この調子だと前田さんに話を聞いても同じような感じになりそうだ。


学校での出来事を思い出すうちにハンバーガーを食べ終わり、ポテトとドリンクを交互に味わう。


結論:徳永さんと話をする


やはりこの件は徳永さんを頼るべきだろう。ただ、問題は接点がないこと。長谷部なら連絡先を知っているだろうが…うーん。嫌だな。ということで、徳永さんのお姉さんを探すことにしよう。


食べ終わったゴミを片付け、ショッピングモールをブラブラ歩くことにした。


歩きながら、お姉さんと知り合う方法を考えるが、なかなか思いつかない。実演販売してた時も来てたし、歩てたら見つかるだろ、半ば諦めながら辺りを見回す。


「ドンッ」


肩に衝撃を受けてよろめく。辺りには散らばった可愛いぬいぐるみ達、そしてそれを拾い集めようとする青年がいた。


「大丈夫ですか」


ぬいぐるみを拾いながら青年は話しかけてきた。


「大丈夫だよ、そっちこそ怪我はないかい」


大丈夫です、青年は笑顔を見せながら答えた。どうやらぶつかってしまったようだ。申し訳なさを感じながらぬいぐるみ拾いを手伝う。


「それは差し上げます、何かの縁ですから」


最後の1つを手渡そうとすると、青年はそう言って

いい笑顔を見せる。笑顔を絶やさないできた青年だな。


ありがとう、そう言うと青年は軽く会釈をして立ち去って行った。名前を聞きそびれてしまった、次会った時にでも聞こう。


貰った小さな犬のぬいぐるみはもふもふで、いい肌触りだ。小動物もこんな感じなのかな、などと考えながらふと頭を上げると、そこには徳永さんのお姉さんらしき人物がいた。


「いいですよ……はい、これが連絡先です」


徳永さんのお姉さん、徳永沙也加(さやか)さんは、すんなり連絡先を教えてくれた。


「なんだか、あなたになら浩司(こうじ)のこと教えてあげてもいいかなって思って」


浩司というのは俺が知り合いたい方の徳永さんのことだろう。しかし、初対面の人をそこまで信用するものなのか。俺は犬のぬいぐるみと連絡先の書かれた紙切れをカバンにしまった。


また会いましょうね、沙也加さんはそう行って近くの服屋さんに入っていった。てっきり、苦戦すると思っていたので驚きだが、上手くいって良かった。ハムスターの話を長々聞く覚悟は出来てたんだけどなー。


俺は仕事をやり終えた気分になって、ショッピングモールを後にした。日も落ちきって、道にはギラギラした街灯が並ぶ。時間が余っていたのもあって、いつもとは違う帰り道を歩いていた。


少し歩いた後、道に並ぶある店にふと心を惹かれた。


『惣菜屋 あけぼの』


店頭には様々なお惣菜がひしめき合っていて、それぞれが自分が主役だと主張せんばかりにこちらへその身を晒している。区分けされているのに、溢れんばかりの量だ。


「今日は来ないと思ってたんだけどね」


カウンターに立つ50代後半の男が話しかけてくる。


「ようこそ、お惣菜屋さんへ」


ああ、私の事は師匠とでも呼んでくれ、そう言って男は笑う。今日は不思議なことばかりだな、疑問には思うが、師匠なる男の発言には妙に引き込まれる何かがあった。


そうか、芹沢というのか、師匠はお惣菜を俺に試食させながら色々と質問してきた。どんな奴が学校にいるのか、最近何かあったか、今日は何をしたのか、ハムスターの話に比べれば楽しいものである。


「遠目で見てる時はこっち来なさそうだったんだがな、どれ、カバンの中見せてみろ」


これだな、そう言って師匠はぬいぐるみを指さす。改めてカバンの中を確認すると、犬のぬいぐるみはそのもふもふさを失っていた。これがなにか関係あるのだろうか、あの青年の知り合いかなにかなのか。色々と考える内に、師匠は新しい惣菜を取り出して俺に差し出し、少し低い口調で話しかけてきた。


「君には本当の事を教えよう」


そう言って師匠は語り始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

磁石 しゃるれら @syalulela

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ