閑話 おっさんとプリクラ(中編)

私達は狭いフォトスタジオのようなブースに入る。だが6人入るには少々に狭く、ぎゅうぎゅうではないもののカメラの写角などを考えるとどうしても中央に集まってしまう。


だから一番小さい私が真ん中になりその右側に風ちゃん、左側に美月が脇を固め、その後ろに菜々ナナ、香澄ちゃん、奈緒ちゃんが並ぶ。そのやり取りは初めてのお泊まり会を彷彿とさせた。


『じゃあ、準備は出来たかな?』という音声がプリクラから流れると、3、2、1という声とともにパシャリというシャッター音が流れる。


どうやら1枚目が撮れたようだが、プリクラの機械が変顔や大好きと言った表情や仕草などを指定しての撮影が数回続く。


変顔では美少女揃いの私達がそれぞれに変顔をし、大好きでは風ちゃんと美月が私にべったりとくっつく。


それはもう近すぎて風ちゃんと美月が私の背中側で秘密裏に小突きあっているのが分かる。


……私をめぐって争わないで。


女の子が自分を巡って争っているのはなんとなく役得のような気はするがそれは春樹だった頃に起こって欲しい事態だった。


まぁ、そうなったらところで俺は四季一筋だったがな!!


苦笑を浮かべていると最後の撮影が終わった。

ようやく二人から解放されて、プリクラの機械から出た私達は続いてデコレーションをするためのブースに足を運ぶ。


6人では書きにくいので私は外で待っている事を告げると、奈緒ちゃんは有無を言わさず私をブースの中に連れ込み、デコレーション用のペンを手渡してくる。


「ちょっと、何書けばいいか分かんないって!!」


「そんなのノリで書いちゃえばいいよ!!バイブスよ、バイブス!!」と奈緒ちゃんは意味不明な言葉を発する。


……バイブスって。

どこぞのパリピが言いそうな言葉に困惑しながら私は思いついたものを書く。


もちろん現役中学生のように「大スキ!!」や「かわいい」と言ったノリの言葉はどうも小っ恥ずかしくて書けない。


だから日付やスタンプなど、無難なものを描いていると、香澄ちゃんが急に笑い始める。


「あはは、何それ!!なっちゃん、センスない〜」


「どれどれ〜。って、ホントだ!!夏きち、おっさんみたーい!!」


「なっ!!」

香澄ちゃんの声に反応した奈緒ちゃんがそれに呼応したように反応したせいで私は恥ずかしくなる。


センスがないのは分かっているし、中身がおっさんなんだから仕方がない。


「言葉選びとかスタンプがなんかおさんくさいのよねー。


「そうそう。もっと華やかに、気の利いた言葉選びをしなきゃ!!」

二人の散々な言われように私は縮こまり、「じゃあ変わってよ〜」と泣きついてみる。


だが、二人は揃って「ダメー」と話す。

ほんとにこの二人、バイブスがあっているのかいないのか、私を陥れる事にはとことん息があう。


「なんでよ!!」


「時間なくなるから、はやく!!」

女子中学生におもちゃにされた私は半べそ状態で急かされるまま思いついた文字を書き入れる。


とある言葉を書いた所で制限時間がきてしまい、私達はプリクラのブースを出て、機械の横でプリクラができるのを待つ。


かちゃ……という音とともにプリクラが排出口から出てきたのを奈緒ちゃんが取り出す。


すると彼女はくすくすと笑い始める。


「どうしたの?」

私は奈緒ちゃんの笑いが気になりプリクラに写る自分たちの姿を確認して驚いた。


プリクラに写る私達の目が異様にでかく、顎が小さく白いのだ!!その姿はまるで宇宙人のようで私は困惑してしまう。


「えっ、何これ?」


「何これって、プリクラに決まってるじゃん!!かすみん、これ見てよ!!」

プリクラだということは分かっている。だが、それに写る宇宙人がなんなのかわからずに聞いただけなのに、その言葉を一蹴すると、プリクラをさも当然の如く香澄ちゃんにを回す。


香澄ちゃんもそのプリクラを見てくすくすと笑い始め、他の3人もどれどれと言った様子で集まってくる。


そして楽しそうに笑い始めた。


どうやらついてけていないのは私だけなようで、ただ一人、楽しそうな輪から除外された気分になってしまう。


ジェネレーションギャップというのか、女子の願望というのかは分からない。ただ、もう少し普通な写真が出てくると思っていたから余計に戸惑う。


「……ほんと、これは盛りすぎだね!!」

笑いが落ちついたのか、風ちゃんが楽しげな声を出し、他の子達もうなづく。


……盛る?どこが?

もう一度プリクラを見てみるが、胸が盛られた形跡はない。いや……それどころか全員胸すら写っていないのだ。


写っているのは宇宙人の様に整形された私達の顔だけだった。


「夏きちなんてただでさえ目がぱっちりなのに、ますますぱっちりしすぎ!!」


「だね〜。夏樹ちゃんは盛らない方がいいねー」

風ちゃんの言葉でようやく盛るの意味が理解できた。


顔や美肌をいわゆる『盛る』らしい。これがプリクラの謳い文句にあった様な超☆極盛りなのだと理解しつつ、女子の美への願望の一環を味わってしまったような気になる。


とりあえず、この宇宙人の写った忌まわしきプリクラを奈緒ちゃんに返す。すると、奈緒ちゃんはそのプリクラを持ってハサミの置いてあるテーブルに持っていく。


友達同士で切り分けるのがプリクラの醍醐味というが、今のプリクラはスマホとも連動しているらしく、やはり時代が変わった事に感心する他なかった。



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