第42話 夏休みの計画と水着

「「なっつやすみだぁ〜!!」」

終業式が終わり、私達が校舎から出ると奈緒ちゃんと香澄ちゃんが喜びの声を上げる。


「うわ、びっくりした!!何よ、急に!!」

私達は突然の雄叫びにびっくりして叫んだ主を見つめる。そこには目を輝かせて喜びに満ちた表情を浮かべた2人が揃って「海でしょ?プールでしょ?夏祭りでしょ!!」と、どこに行くかの算段を立てている。

私と美月はその光景に目を合わせてため息を吐き、風ちゃんと菜々ナナは楽しそうに話を聞いていた。


「夏休みになるからって、遊んでばかりいたらダメよ!!宿題とかしないとあとから後悔するよ」

美月が喜ぶ2人に見かねて注意喚起を促すが、2人は

「うわ、オカンがいる!!」「お母さ〜ん」と美月の話はそこそこに再度プールに行く話で盛り上がる。


おかんと言われた美月はなぜかショックを受け「おか、オカン?」と、口をパクパクさせている。


最近、美月の弱点が分かってきた。

攻める側に回ると強気な彼女だが、攻められるとプライドが高いせいか強く返す事ができないのだ。


「美月の言う通りね。2人とも宿題とか後回しにするんだから計画的にしないとダメだよ。時々はうちでやればいいから」


と、ショックで思考を停止している美月の代わりに私が話すと、奈緒ちゃんと香澄ちゃんは私の手を取り、「「いいの!?」」と嬉々とした表情を浮かべる。その様子に気圧されながら、「うん」とうなづく。


「「じゃあ、今からなっちゃんちにレッツごー」」

と、私の是非を問う前に2人は私の腕を引きずり、香川家に向かって歩く。


前々から思っていたけどこの2人、性格が似過ぎで私だけでは手に余る…。

目線で風ちゃんにヘルプを求めるが、風ちゃんはニコニコ嬉しそうに私達についてくるだけだった。


積極的な奈緒ちゃんと香澄ちゃんとは反対に風ちゃんと菜々ナナは他者に合わせるタイプだった。

だから美月がショックを受けている今、2人を止める者はいなかった。


結局、私は2人に連行されたまま自宅に戻る。


「「「「「お邪魔しまーす!!」」」」」

玄関に入った私を除く5人がそれぞれのテンションで挨拶をすると、家の中は甘い匂いが漂っていた。


「あら、みんないらっしゃい。夏樹もお帰り」

母がキッチンの方から顔を出して私達を迎える。


「お母さん、ただいま。何作ってるの?」


「ちょっと、ケーキを作ってるの。明日はあなたの誕生日だからね」


「あっ…そっか…」

嬉しそうに話すお母さんとは反対に、私は夏姫ちゃんの誕生日をすっかり忘れてしまっていた。


夏というだけあって夏生まれなのは知っていた。

しかし、詳しい日にちまでは覚えていなかった。

まだ、明日が誕生日という実感がないのだ。


「そうなんだ!!夏樹ちゃん、おめでとう!!」


「それなら早く教えて欲しかったわ。プレゼントとか用意できないじゃない!!」

嬉しそうに私の誕生日を祝う風ちゃんにようやく正気に戻った美月が膨れっ面をしている。


「…ゴメンゴメン。まだ、実感がなくて」

私が苦笑いして謝ると、美月はハッとする。私に起きた話をしているだけあって、気まずそうな顔になる。


私はその顔を見て柔らかい笑顔になる。

こうやって他人だった俺を受け入れてくれる家族と、私の身に起きた事を聞いて悟ってくれる優しい友人に囲まれている。

家族と離れてもなんとかやって行けているのはこの人達の存在があるからなんだと、つくづく思う。


「けど、ありがとう。それより、美月はプレゼントを用意してくれるんだ!!」

少し暗くなった空気を和ませるように、私は美月にいうと、美月は赤くなって「なっ!!」と声を上げ

「そんな訳ないじゃない!!そりゃ、おめでとうの一言くらいは言ってあげるわよ!!調子に乗らないで!!」と言ってそっぽを向く。


…だから、どこのツンデレだよ?


赤くなる美月の様子を見た風ちゃんは慌てて、「私はちゃんとプレゼント用意するから楽しみにしててね!!」と何故か美月と張り合っている。

その様子に私達は笑いあった。


今晩は私の家でプチ誕生日会を開くという流れになり、午前中は夏休みの計画を立てることになった。


私達は部屋へと入ると、それぞれの予定をすり合わせる。さすがに6人が毎日予定が合うわけではないので、集まれる日をピックアップして行く。


「なっちゃん、お盆の予定は?」


「えっと、お盆の後は鹿児島に旅行に行くらしいし、お盆は…初盆だからちょっと忙しいかな?」


「そっか…」


春樹と夏姫ちゃんの新盆だった。

生きている自分の新盆をするのは少し違和感があるが、すでに肉体としての春樹は死んでいる。


なので、夏樹として2人のお盆はしないといけない。四季達はイギリスに行った都合で来る事はないので、香川家だけのお盆だった。


「だけど、他の週は今のところ空いてるからいつでも来てよ!!奈緒ちゃんと香澄ちゃんがちゃんと宿題をしてるかどうか見てあげるから!!」

またしても重くなりかけた空気を断ち切るために宿題を口にすると「「うっ」」と2人は苦虫を噛んだ顔に変わる。


私はしてやったりという笑みを浮かべると美月は

「あら、期末も赤点ギリギリだった人が偉そうな口を叩くわね」と、今までのお返しと言わんばかりに言い放ち、私は「うっ」と口籠る。


そう、1学期の期末テストは平均50点台と、50点ラインの赤点ギリギリだった私は美月と菜々ナナのおかげで赤点を回避した。家庭教師モードの風ちゃんは相変わらず教え方が下手だったのは言うまでもない。


私はコホンと一息ついて、改めて計画を練り直す。

「それより、みんなは行きたいところは?」


「私達はプールに行きたい!!ほら、チビパドスって言うプール!!あそこ、行ってみたい!!」


「あぁ、あそこはいいね!!」

プールの話で盛り上がる5人を尻目に、私は体育の許可が下りていない事を思い出す。


…あとで嶺さんに聞いてみればいいか?あれ?

「私、水着持ってないかも…」


「「「「「えっ?」」」」」

私の発言に5人の目線がこちらに集まる。


…えっ、何?水着持っていないのっておかしい事なの?

私が視線に戸惑っていると、奈緒ちゃんが急に立ち上がって部屋から出て行く。

しばらくすると奈緒ちゃんはお母さんを連れて来た。


そしてお母さんは「水着ねぇ〜」と言って室内を漁りだす。そして、一枚の水色のワンピース型の水着を取り出すと「着てみて」と言い、私に手渡す。


…えっ?これを着ろと?

私が戸惑っていると、5人はまじまじと私を見つめて来たので、空気に圧されて私はゲストルームで水着に着替えることになった。


だが…。

「…着替えてみたけど…」

私は自室で待つお母さんと友人達の前にもじもじしながら水着姿を晒す。


…恥ずかしい。ビキニじゃない分まだマシだけど、これは恥ずかしい。それに…


「小さい…。お母さん、これ….いつのやつ?」

今の私の身体にフィットせず肩からずり下がってくる水着を手で押さえながらお母さんに問い詰めると

お母さんは「ん〜?2年前?」と、惚けた口調で言う。


…はぁ、2年前?ちょっと、お母さん!!アホなのですか?いかに育っていないからって、さすがに2年前の水着は小さいですよ!!特に胸の辺りが!!


成長期なのに身長はさほど伸びてはいないはずなのに、胸の辺りは生理が来たあたりからなのか、以前に比べて1サイズ大きくなった気がする。いや、時期に2サイズ上を買わないといけなくなりそうだ。


…うん、もう貧乳とは言わせない!!

と、私は口に出せずに羞恥心に耐えていると、誰からともなく笑い声が上がり、周囲は笑いに包まれた。


「あはは、なっちゃん!!ようやくおっぱいがおっきくなって来たね!!よかったよかった!!」


「ひひひ、死ぬ!!笑い死ぬ!!」

と、奈緒ちゃんと香澄ちゃんが人の気も知らず高笑いし、風ちゃんと菜々ナナは笑いを堪えている。


「ふふふ、夏樹。新しいの…買わないとダメね」

必死に抑えているのか、お母さんは控えめに笑っている…


「お母さん、興味本位で出してみたでしょ」

私は胸の辺りを隠しながら真っ赤な顔でお母さんを睨みつける。


「はぁ、仕方ないわね。新しい水着、今から買いにいきましょ」

美月は呆れた顔で提案すると、連中は高らかに賛成

と言う。その予想だにしなかった返事に私は戸惑い

「えっ?今から!?お金とか大丈夫なの!!」

と、尋ねると全員揃って「大丈夫!!」

と口にする。


どうやら元々は終業式の後どこかに行く予定だったようでそこそこお金を用意していたらしい。


私は一応菜々ナナを見つめると、彼女もにっこりと笑って頷く。後々聞いてみるとどうやらお父さんとお母さんが仲直りしたらしく、その時にお小遣いを貰ったらしい。


その事に安心しつつ、普段着に着替えた私は5人と共に出て、モールへと向かう。

そこはかつての俺には全く?縁もゆかりもなかった花園へと足を踏み入れるのだった…。

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