四季の追想 中学時代と初恋

人には出会いがあり、いつかは別れが訪れる。

私、田島 四季もその事は分かっていた。


だけど長年連れ添った夫、田島 春樹を失いかけるまでは死ぬまで離れる事はないと思っていた。

あの日までは…。



私と田島 春樹は中学校のクラブ活動で出会った。

彼はサッカー部で私はマネージャー。

私は友達の誘いに乗りマネージャーをしていたのだけど、最初はマネージャーでいるのが嫌だった。


自分のしたい事じゃなかったし、知らない男の子達の洗濯とか身の回りの世話をするのは嫌だった。

…なんでこんな事をしてるんだろ。なんて事を考えながら私はマネージャー業をしていた。


だけど、その中でも最も嫌だったのは思春期の男の子中にいると、いろんな人からいい寄られる。


自慢ではないが、私は可愛かった。今でも可愛い。いや、可愛いと思う…。歳はとりたくない…。

中学校の頃はどちらかといえば地味な格好をして目立たないようにしてきたのだけど、女に飢えた2、3年の先輩や同級生に告白やラブレターを貰うなんて日常茶飯事だった。


ただそんな中で2人の子だけが私に見向きもせず、ただ黙々と練習に取り組んでいた。


3組の田島 春樹君と佐山 秋樹君だった。

身長が高く、几帳面でどちらかといえば無愛想な春樹君と身長が低く、明るく細かい事は気にしない秋樹くん。


そんな2人は性格も身長もプレースタイルも正反対だった。後から聞いた話では生まれた時から一緒に過ごしてきた幼馴染だったそうだ。


練習に励む姿が印象に残るだけで、2人との接点は全くなかったし、私も…私には興味がないんだろう。という印象しか持っていなかった。


ただ、梅雨のある雨の日に傘を忘れた事があった。


「…最悪。今日に限って雨が降るなんて…」

朝から雨は降っていなく、折り畳み傘も昨日使ってしまった事を忘れていた私は深くため息をつく。


教科書を濡らしたくない私は雨の中帰るか否かを決められずに靴置き場の入り口で右往左往していた。

すると、私の後ろに影ができる。


「日浦さん。傘、忘れたのか?」


「ひゃい!?」

という声が聞こえてきて私は驚いた。

私の後ろにいたのは春樹君、私の未来の旦那様だった。


「…うん」


「そうか…」

というと、彼は私にそっと折り畳み傘を手渡してくる。私はそれを受け取る。


「けど…田島くんが…」

と、私が言いかけると後ろから別の声がする。


「春樹、おまたせ!!帰ろうぜ!!」


「悪りぃ秋、傘忘れたから入れてくれ」


「嫌だよ、お前と相合傘なんて!!…って、2組の日浦さんじゃん」

秋樹くんも私に気がつく。そして私達を交互に見る。多分傘に気がついたんだろう。


「しゃあねぇなあ〜。入れてやるよ!!」

秋樹くんが傘を開くと春樹君は私から離れていく。


「じゃあね、日浦さん!!気をつけて帰れよ」

秋樹君が私に告げて春樹君と帰っていく。


春樹君に何がを言っている秋樹くんとその背中をける春樹くん。その姿を見送りながら私は傘をギュッと握りしめる。


「…私のクラス、知ってたんだ」

2人に気を使ってもらった事、クラスまで知っててくれた事が私は嬉しかった。


それから私は2人を目で追うようになった。

2人の一挙一動に加えて目だけで何かを伝えられる2人を私は羨ましく思った。

この時はまだどちらが好きとかは分からなかった。

2人のことは気になっていたし、私のことも知って欲しかった。


だけど梅雨が明けるまで、私は傘を返す事ができなかった。恥ずかしがり屋な私は彼らに話しかける事はできなかったし、彼らも傘のことは言ってこなかった。


梅雨が明け、夏が来る。

そんな最中、事件が起こった。


私は帰り際にある先輩に呼び止められた。

これまた告白だった。嫌な気分になる。


その人には早急にお断りをして帰っていただく事にしたのだが、彼はしつこく私に言い寄る。

終いには手をつかまれそうになり、私は恐怖を覚えた。が、その手は私に届くことはなかった。


「やめろよ、嫌がってるだろ」

片手にゴミ箱を持った王子様…じゃなく同級生だった。その人は春樹君だった。


先輩が激昂し、何か汚い言葉を口にする。

それを彼は受け流し、目線だけで逃げるように促す。私はそれを見て逃げ出してしまった。


…怖い。だけど、彼を置いてきちゃった!!

自分の弱さに私は嫌気がさして涙が流れる。


するとそんな私に春樹君を探しにきた秋樹君が気がついたのか、駆け寄ってくる。


「日浦さん、春樹知らない?…ってどうしたの?」


私は声が出なかった。ただ、秋樹君の顔を見上げる。それを見た彼は目を鋭くして、私の出てきた方向に向かって歩いていく。


私はその後ろについて歩く。

私が逃げてきた所にはまだ2人はいた。

だけど、一つ違う事があった。

彼は何もせず、殴られていた。


「…先輩、やめたほうがいいんじゃない?今ならセンコーにチクるだけで済ませるけど、これ以上やるんだったら容赦しないっすよ?」


秋樹君が青筋を立てて先輩をまくし立てる。

先輩はその言葉を受けて少したじろぐが、秋樹君は歩みを止めない。


「2対1ならどっちが有利でしょうね。こいつも手を出してないだけで、結構つよいっすよ?」


「秋、やめろ…」

春樹君は秋樹を止める。

だけど、彼は先輩の目の前に行く。

たじろぐ先輩の首元から秋樹は見上げる。


「…俺、見下ろされるの嫌いなんっすよね…。キレそうだからどっか行ってくれません?」


と秋樹君が言うと、先輩はちっと言って去っていった。その姿が見えなくなると秋樹君は地べたに座り込む。


「…怖かった…」


「ビビリのくせに無理するなよ」


「うるせえ、お前がやり返さないのが悪いんだろうが?」


「サッカーが出来なくなるからな…」

と言って、春樹君は秋樹君はの手を引き起こす。

そして、拳を合わせる。これが彼らの勝利の合図だという事を私は初めて知った。

だけど、私は自分にあった事と2人に迷惑をかけた事を思い出して泣き出した。


「…日浦さん、大丈夫?」

春樹君が泣き出した私に声をかけてくれた。


「…ごめんなさい。私のせいで。ごめんなさい」


「日浦さんが謝る事じゃないよ。僕が勝手にした事だから…」


「けど、田島君が殴られた…」


「ん、あれくらい秋樹のパンチに比べたら蚊に刺されたようなもんだよ」


「そうだよ、俺らの喧嘩に比べたらおとなしい方だったよ?空手経験者の俺らの喧嘩はヤルかヤラれるかだからね!!気にしなくていいよ」


「おまいう?」

2人は笑い出す。その2人に呆れていたが、どこかおかしくなり私も笑った。


そして、私は借りていた傘のことを思い出して鞄から折り畳み傘を取り出して渡す。


「あの…、これも…ありがとう…」

と渡すと春樹君はきょとんとした表情になり、

「あぁ、貸してた傘か…。忘れてた…」


「ごめんなさい。はやく返さないとって思ってたんだけど…なかなか話せなくて…」


彼は頰を掻きながら傘を受け取る。

私の手が彼に当たった瞬間に、私の胸は急にはやくなる。


その様子を見ていた秋樹君がニヤニヤしながら

「日浦さん、こいつも忘れてたわけじゃないぜ?日浦さんに話しかけるのが恥ずかしくて言い出せなかっただけだよ」という。


「おまいう!?」

その言葉に春樹君の態度は挙動不審になる。

その様子を高笑いしてみる秋樹君とあっけにとられた私。


…私の事、意識してくれてる?

私の幼い心はその事を知って嬉しくなった。

そして、気がついた…。

私は田島君が好きなんだという事を…。


「ああ、もう。秋樹、帰るぞ!!日浦さんも…」


「送っていくってよ。恥ずかしがらずに言えよ」

相変わらず二人の世界は続いていたが、そこに私も入るきっかけが出来た。その事に私は嬉しくなって、「うん」と言って2人について行った。


そこから私達は高校卒業まで一緒に帰ることになるのだが、私と春樹君と秋樹君の関係はある事件が起こるまで進展することはなかった。

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