第14話 勉強とグループ分け

 私と風ちゃんと奈緒ちゃん打ち解けた日から私達は昼休憩は保健室で過ごすことになった。

 私の体調もあれ以来崩れる事なく安定していた。


「そういえば、なっちゃん。ゴールデンウィーク明けは中間テストだけど、勉強は大丈夫?」

 お昼ご飯を食べながら、奈緒ちゃんが私に言う。


「えっ?」


「この学校って中、高、大ってエスカレーター校だからテストの内容が難しいの。それになっちゃんって転入したばっかりだから、授業の内容とかついていけるのかなって…」

 風ちゃんが私にとどめを刺す。

「うっ…」


 …忘れてた。テストがあるなんて考えてもいなかった。

 約20年ぶりに受ける中学生のテストだ。

 昔から勉強ができなかった分けじゃない。だけど、忘れてしまっている。大人になり、社会人になり、目まぐるしくすぎる日々の中で、勉強とは無関係の日々を過ごしていた。やばい、やばすぎる。


 俺は声を大にしていいたい。社会人になって、中学生の勉強なんて必要ない!!

 実際に大人だった俺が必要ないと言ってるんだから、夏樹にとっても必要ない!!


 あれだけ冬樹に勉強をしろと言っていたはずなのに、大人だった俺が言うのだから情けない。


「嶺さん…」

 私が助けを求めるように嶺さんを見る。

 すると嶺さんは首を横に振る。


「あぁ、特別扱いはないからね!!しっかり勉強するか、中卒で就職するかのどっちかだよ?」


「そんなぁ…」

 私は愕然とする。それはそうだ。

 これは香川夏樹の人生だ、田島春樹の人生ではない。

 ならば、そんな私のために俺は頑張っていかないといけないのだ。今後、結婚することも、家族を持つこともない私のために、今頑張らないといけない。


「まぁ、頑張りなさい」と、嶺さんは言う。


「私達も手伝いますから〜」

 と、風ちゃんが私に言ってくれる。


「ありがとう…風ちゃん!!今まで休んでたのにどこで勉強をしてたの?」

 風ちゃんに励まされてて涙する私。風ちゃんマジ天使。だけど、中学生に励まされて涙する私って大人としてどうなの?


「家でずっとしてたよ?」


「この子、昔から勉強だけはできたからね!!」

 と、奈緒ちゃんがふふんと鼻を鳴らす。


「なんで奈緒ちゃんが得意げなの?」

 風ちゃんが、その様子を見て笑う。


「だって、親友がクラスで一番になるなんて嬉しかったんだもん!!あっ、なっちゃんも親友ね!!」


「なんかついでっぽいけど…、奈緒ちゃんは勉強はどうなの?」


 と言うと、奈緒ちゃんの表情が笑顔のまま凍る。

 …あぁ。察し…

 そして彼女は手を上にゆっくりと上げて罰を作る。


「ブッブー。ダメー。下から数えた方が早いくらい…」


「奈緒ちゃんは運動はできるけど、勉強は苦手なの。休む前までは一緒に勉強してたんだけどね…」

 風ちゃんは何がを思い出してため息をつく。


「じゃあ、今日の放課後から一緒に勉強しようよ!!嶺先生、ここ使っていい?」


「えぇー、保健室は溜まり場じゃないよ?」


「だけど、私まだクラスに戻るのは辛いですから…」


「あぁ、そういう事なら下校時間までならいいよ。友達付き合いもできていいでしょうし…」


「じゃあ、放課後に来ますね!!嶺先生!!」

 と言って私達は教室に戻る。嶺さんと風ちゃんは頑張ってとこちらに手を振る。

 とりあえず、中学生をもう一度頑張りますか…。



 教室に戻り、ホームルームが始まった。

 担任が入ってきて、プリントを配っていく。


「えー、今日のホームルームはテスト明けの修学旅行の事です。今年の修学旅行は広島です」


「ええー、東京じゃないの!?」など生徒の間で悲喜こもごもだ。毎年東京ディズニーランドに行く予定らしいが、なぜか


「東京は…今年はオリンピックがあるので、大人の事情で回避されました!!」と、先生は言う。


 それは仕方がない。東京近辺のホテルも値上がりしていると聞くし、団体で泊まれるどころがないのだろう。しかし、なぜ広島なんだろう。


 私も一回行ったことがあるが、遊園地どころか観光地も少ない。いや、広島をディスってる訳ではないが、原爆ドームと厳島神社くらいのイメージしかない。そんなところに中学生が修学旅行で行って喜ぶのかはお察しします。

 "惜しい、広島県!!"とはよく言ったものだ…。


「はい、そこまで!!」

 クラスメイト達が騒ぐなか、担任が口を開く。


「と言う訳で、今日はグループ分けをしていきたいと思います」


「あの、先生。私は…」


 私は転入組なので、お金を積み立てない。別に行きたいとも思っていなかったのだが、一応聞いておく。


「香川さんは大丈夫よ。ご両親からお金は預かっているから気にしないで」


 …お父さんに先を越された。私が行かないと言うのをわかっているからか、転入の手続きをした時にお金を払ってくれたようだ。今回はありがたく受け取ることにしよう。


「じゃあ、泊まる部屋は男女に分かれて6人ずつだから、6人ずつに分かれて〜」と、担任が言う。

「はい」とクラスメイトが声を上げてそれぞれに分かれていく。

 もちろん、私は奈緒ちゃんと一緒だ。

 だが、一つ気になったことがあったので、私達は担任のところへ行く。


「先生、久宮さんも入れてもいいんですか?」

 と言うと、担任は「もちろん!!あの子も頑張っているみたいだし、仲良くしてあげて」と、喜んでいる。


 安堵した私達は残りの3人を探す。

 すると、「ちょっと…」後ろから声がかかる。


 私達が後ろを振り返ると、そこには3人の女子が立っていた。顔をみると、久宮さんをいじめていたグループのようだ。


「あなた達、私達と一緒のグループになりません」

 と、言ってくる。後ろの2人はその様子を見ながらニヤニヤしている。


「…なんであなた達と一緒のグループにならないといけない…」

 といいかける奈緒ちゃんを止めて、私は3人の顔を見つめる。


「あなた、確か秋保さんだったよね。どうして私達なの?」私は秋保 美月に問いかける。


 秋保 美月、七尾 菜々、出口 香澄はクラスで最も影響力を持つ子。言うなればまでクラスの中心だ。

 故に私達に声をかけなくても引く手数多のはず。

 そして、久宮さんへのいじめを助長し、私の足を引っ掛けた連中だ。

 ならばこの話には何が裏があると考えてもおかしくはない。


「あなた達と仲良くなりたいって思ってたの。それじゃダメ?」


「なっ!?」


「奈緒ちゃん、ちょっと待って…。あなた達が私達と仲良くしたいって言うんなら、まずは風ちゃんに謝るところからしてもらいたいんだけど…」


「彼女が戻ってきたら、考えておくわ。グループの件は一緒でいいかしら?」


 …警戒することに越したことはない。もし本当に私達と仲良くなりたいっていうのなら風ちゃんに謝るだろうし、何かしてくるのならその時は嶺さんを使ってでも2人を守らないと。


「…いいわ。一緒に回りましょう」

 私は秋保さんにニコリと笑いかける。

 それに対して3人も笑っている。だけど、目は笑っていない。


「ちょっと、なっちゃん!?風ちゃんがまた学校に来れなくなるよ」

 と奈緒ちゃんが言うと、秋保さんは「へぇ…」っと呟く。


「大丈夫。風ちゃんは私が何とかするから…」

 と言って、私達と秋保グループは修学旅行を共に行動する事になった。

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