第12話 告白と白雪姫
私が女子中学生になって、2週間が過ぎた。
短かった髪も少しずつ伸びてようやく肩まで届くようになった。
入院時にはやせ細っていてガリガリだった身体も少しずつ肉付きも良くなってきた…気がしたのだが、全く成長していないのだ!!主に胸のあたりが!!
なんで成長しないんだ!!全く!!夏樹母の様な推定Eカップの様な大きさは求めていない、だけど自称Cカップ(現実Bカップ)の四季には負けたくない!!勝って四季をギャフンと言わせたいと言うのに…。
って言うか…いりもまだ来ていない。
中学3年生になろうと言うのにまだとか、遅すぎる…らしい。
元男の私にとって現実味を帯びない言葉だけに来るのが末恐ろしい。
とりあえず、そんな事で今のところは体調を崩す事なく日々を過ごせているのはありがたく思っている。…のだが、ひとつ面倒な事がある。
「…はぁ」
私は深いため息をつく。
「夏樹ちゃん、そんなため息をついてどうしたの?」
それを嶺さんはポッキーを食べながら聞いている。
えっと、ここって保健室だよね?
しかも、嶺さんは先生だったはずなのになんでこんなに生徒みたいな感じなの?
「ラブレターの量が多くてちょっと気が滅入るんです。気持ちが悪いと言うか…」
「あぁ〜、夏樹ちゃん、最近可愛くなったからねぇ〜。少し背が伸びて綺麗になったから、男の子たちも見逃さないよね」
「見逃してほしいところですよ〜。本当なら地味な格好で人知れず生きたいのに、お母さんが見逃してくれなくて。「人間見た目が勝負よ!!」なんて言って…」
と言うと、嶺さんは私の髪をまじまじと見る。
「その髪で地味なんて無理じゃない?ただでさえ白髪が目立つのに最近では艶も増して綺麗だから、地味なんて無理だよ」
「…黒髪にするか…。いや、それは怖い…」
「なんで?」
「一瞬だけ見た夏姫ちゃんを思い出すのが怖いんです。思考が心に引かれる感覚が気持ち悪くて…」
実際に黒髪にした事はないが、一度だけ生前の夏姫ちゃんの写真を見た事がある。
楽しそうに笑う一枚の写真に黒髪の私が写っている。写真…。なのだが、私ではない…。本人なのだ…。
そこから私はパニックになった事があり、それからは黒髪の私を…私本人と認識できなくなっているのだ。
「そっか…」
嶺さんはそれを聞いて、何やらメモを取っている。
この面会は適合手術後の精神面でのモニターとして嶺さんのお父さん、私の主治医に送られる。
検体としてお金をもらっている以上は責務を果たさなければならない。それが今の田島家の生活にの糧になっているのだから。
「それはそうと…これは…どうするの?」
嶺さんはラブなレターの山を指差す。
基本は無視なのだが、時間や場所を指定されているものに関しては断りに行く事にしている。
「一番上のものだけは直接断りに行きます。直接断った方が都合がいい相手も居ますから」
「?なんで?」
「それが噂になって、この状態が落ちつくことを狙っています。」
実際に、秋樹がそうだった。
秋樹は俺と違ってラブレターをもらう事が多かったのだが、学年一の美女に告白された際に直接断った事で、それが噂となりのラブレターの量が減ったのだ。
どんな噂かって?
男好きと言う噂だ。
まぁ、1番の被害者は俺だったのだが…。
伊達に35年生きていませんよ!!経験に勝るものなしっていうし…(吐血)
ともあれ、ラブレターの差し出し主は基本クラスの情報通から話を聞いている。私の前の席に座るその情報通から話題が出れば断っておくし、でなければ無視する。
私の身体はひとつしか無いから、効率よく断らないと、時間の無駄である。
「ふ〜ん。けどその中でいい人はいないの?誰かと付き合ってみてもいいんじゃない?せっかくの女子ライフ、楽しまなきゃ!!人生一度しかないよ?」
「私、中学生2度目なんですけど…?」
と、言って嶺さんと笑いあう。
やっぱ、青臭い男と付き合うのはごめんだ。
中身はおっさんなんだから。
「じゃあ、私はこれで…」
と言って、私は荷物を抱えて立ち上がる。
これから可哀想な生贄の首を取りに行くのだ。
「程々にね?」
と言って、嶺さんはこちらに手を振る。
私は保健室のドアに手をかけ、外に出ようとすると、正面に人影が見えたので相手の出方を見る。
保健室のドアが開く。
そこには今日も来ていなかった久宮 風の姿があった。
「あっ…久宮さん?だっけ?」
私は彼女に声を掛ける。
すると彼女はビクッと肩を揺らす。
「えっ、あっ…」
と言うと、顔も見ずに保健室の奥へと入っていく。
私はその姿を追っていると嶺さんと目が合う。
嶺さんは物言いたげに私を見ていたが、「またね」と、手を振る。私はこれ以上はなにも言えず保健室を後にする。
さぁ、今日はなんて言って告白を断ろうか…。
今日の相手はかなりモテているサッカー部のイケメンエースらしい。悪女になった気分でちょっと気持ちが悪いが、これだけは仕方がない。
学校の屋上にイケメンエースと私の2人、彼の緊張感が伝わるが、私はいつも通り。
「…香川 夏樹さん、初めて見た時から貴女を好きでした!!僕と付き合ってください!!」
「ごめんなさい!!」
私は笑顔でお断りする。彼はかなりショックを受けているようだ。
「どうして?好きな奴でもいるのか?」
「どうしてって…、私、前世が男だったから男の人はどうしても好きになれないの…」
自分的これ以上ウィットに富んだ断り方があるだろうか?いいや、ない。だって事実なんだから。
男とのラブコメなんてしたくない!!
サッカー部イケメンエースの顔がこれ以上ない程に歪む。だがこれ以上しつこくしてくる事なく彼の告白は終わった。
願わくば彼の純情が壊れないよう、次の恋に進んでくれるといいなと思いながら、私は彼の前を後にする。
次の日、私に二つ名がついた。
可愛く儚い白い髪をした冷酷な少女、白雪姫だそうだ。恥ずかしいからやめてほしい。
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