16.頼み事

シルクは精霊城のきらびやかな廊下を足早に歩いていた......

途中、下位精霊達に声をかけられたが また後で話を聞きますよ と言って通りすぎていく。

シルクは最高位精霊の中でも物腰柔らかで、優しい印象を受ける美青年だ。

なので下位精霊達からの信頼が強く、良く相談にのっている......

そんなシルクだったが、今日は表情が固くどこか焦りも見えたため、声をかけた下位精霊達も驚いていた。

そんなただならぬ様子のシルクは、ある部屋の扉の前まで来るとピタリと止まり深呼吸をした。


「ただいま参りました。」


シルクの緊張したような固い声が広い廊下に響き渡る。


「入りなさい。」


次の瞬間、威厳のある女性の声が部屋から返って来た。

そして、キイイと重厚な扉が開かれる。

シルクは素早く礼をとると、部屋に入っていった。


正面に広がる階段の上には、美しいアンティーク調の高級感のある椅子があり、そこにはこの世界の女王である女性が威厳たっぷりに座っている。


女性はシルクを見て微笑むと


「今日は、あなたに頼み事があって呼んだのよ。」


と言った。


ここは精霊城王座の間。

今、シルクを見て微笑んでいるのは精霊王ビビアンである。


シルクは階段の下まで来ると片膝を付きビビアンを見上げた。


「頼み事......ですか?何でもいたしますが......」


シルクは内心戸惑っていた。

シルクは優秀であり頼れる性格故、これまでも物事を頼まれることが多かった。

だが、ビビアンがこれ程までに楽しそうに笑う姿は今まで見たことがなかった。

なので、一体どんな頼み事をされるのかシルクは不安に思ったのだ。

そんな不安をよそにビビアンはより笑みを深めると


「今回、あなたには人間界に行って水害を起こしてもらいたいの。」


と言ったのだ......


シルクは目を見開き、思わず息を飲んだ。


「何故ですか......?」


「え?何故って......あなたは分かっているでしょう?」


シルクはビビアンが何故自分にそんな事(復讐)を頼んだのか分かっていたが、聞かずにはいられなかった。


「セレナーデは復讐を望んでいません。」


「そうね?セレナーデは復讐なんて望まないでしょうね~?」


「じゃあ、何故ですか!?」


「う~ん....だって、人間は私達に干渉しすぎてしまったから。

だから、こちらとしてもそれ相応の対応をしないとね?

これは、セレナーデだけの問題でもないのよ......

私達の安全のためにも、これ以上人間が調子にのらないよう警告の意味もかねて、この頼み事(復讐)は必要だと思うの。」


「......ですが......」


「第一、愛し子に害をなし私達の逆鱗に触れたってことだけでも、復讐をする理由としては十分なんじゃない?」


「............」


ここまで理由を述べられると、シルクも反論出来ない。

ビビアンの言う通り これはセレナーデだけの問題ではないのだ......


「ああ、あなた以外の精霊にはこのことは秘密にしてちょうだい。勿論、セレナーデにもね......

復讐対象者はアズーナ王国の平民達よ。

小規模の水害で構わないわ......自分たちが何を怒らせたのか分かるくらいで。

ふふふ、セレナーデに石を投げて怪我をさせた者達には私があらかじめ呪いをかけておいたから、きっと小規模ではすまないでしょうけど。

関係ない者達の被害は少なくてすむもの....私って優しいわね。

とっ~ても楽しみだわ。」


頬を紅潮させ楽しそうに話す姿は非常に可愛らしいが、言っていることは恐ろしい。

そんなビビアンを見てシルクは顔を青くさせる。


「他の復讐対象者達は私とエリザが責任を持って順調に復讐を進めているわ。

そういう事だから、(平民への復讐については)宜しくね~」


「...............仰せのままに......」


一体(他の復讐対象者に)どんな復讐をしたのか......など当然聞ける訳もなく、結局シルクは一人でこの頼み事(復讐)を引き受けることになった。








そして、王座の間を出て深いため息をついたシルクは顔色のすぐれないまま人間界へ転移したのだった......






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