15.エレミア
騒がしい音で目が覚める。
エレミアはゆっくりと起き上がると、目をこすった。
身体中が痛いのは、床に寝ていたからだろう。
頭もボーっとする...
何故自分はこんな所で寝ていたのか......くらくらする頭を回転させ考える。
すると、徐々に記憶を思い出してきた。
「そうだわ......私、勘当されたんだわ......」
最後の記憶は、父親であるグレイの悲しそうな、絶望したような顔で...『親子の縁を切る』と言われたことだった。
エレミアはその事実を思い出すと顔を青くした。
何故自分は勘当されたのか......
だが、エレミアはそれより気になっていたことがあった。
「それにしても......ここはどこなの?」
薄汚れた部屋を見渡し小さく呟く。
部屋には錆びた独特の匂いがたちこめていた。
なんとか立ち上がり狭い部屋をふらふらと歩き回る。
歩くたびにきしきしときしむ床は今にも崩れそうだ......
エレミアは壁に耳を当てた。
壁は薄く隣の部屋の騒がしい声がよく聞こえてきた。
一体何を話しているのか気になったのもあるが、
ここがどこなのか分かるかもしれないと思ったのだ。
ガチャンッ!!!
その時、エレミアの部屋に大きな音を立てて勢いよく複数の男が入ってきた。
どの男も盗賊のような薄汚く醜い男である。
エレミアは男たちを見ると顔を歪めた。
『汚い』と目で訴えている。
「こいつを好きにして良いんだよな?」
「ああ、こいつで間違いねぇ。」
「早くやっちまおうぜ!」
男たちはそんなことを話しながらじわじわとエレミアに近いてくる。
エレミアは一歩後ずさり男たちを睨み付けた。
「私はこの国の宰相グレイ・ノワールの娘、エレミア・ノワールよ!あなた達、一体何なの?!」
「ん?ああ、俺らは雇われたんだがお前が元お貴族さま(ノワール家の女)だっていうのは知ってるぜ?」
「......っ?!」
一人の男が下品な笑顔でエレミアに言う。
“元お貴族さま”男は確かにそう言った......
それは、エレミアがノワール家から勘当された存在だと知っているからだろう。
目の前の男たちを睨めるほどに威勢のよかったエレミアはすっかり勢いをなくし顔面蒼白状態になってしまった。
「ここは、最貧困地区の宿屋だ。
ここの宿屋は、娼婦が金を稼ぐ場所でもある。」
「なっ?!」
「雇い主からは、お前を傷物にするよう頼まれたんだが......」
先程の男がおとなしくなったエレミアの前に立つ。
「まあ、俺らが傷物にしても結局お前はここで働かないと暮らしてけねえもんな?お前は、ここに売られたんだよ。」
男がエレミアの肩に手を置く。
後ろにいた男たちもエレミアを取り囲んだ。
男たちからはひどい悪臭がする.....
この宿屋には、金のない客しかこない。
そんな客を相手に体を売ってもたいした金は貰えない。
これからこの男たちのような客を複数相手にして生きていかねばならない......
エレミアは、絶望した。
ーーー
エレミアは気難しく、プライドが妙に高いためあまり好ましい性格ではなかった。
そんなエレミアの思い人がエリックだったのだ。
エレミアは剣術の稽古をしている時のエリックが特に好きであったため、毎日遠くから頬を赤く染めてその姿を見ていた。
ある日、そんなエレミアにエリックが話しかけて来たのだ。
エレミアは顔を真っ赤にして慌てた。
エリックに話しかけてもらえたことが嬉しかったのだ。
「やあ。エレミア嬢。」
「......!!」
「そんなに緊張しなくて良いんだよ?」
「あ...そ...その......」
「僕の稽古、毎日見に来てくれてるよね。」
「え......ええ。」
「嬉しいなぁ~。」
エレミアはエリックと目を合わせることができずうつむく。
エレミアも整った顔立ちであり、うつむき恥じらう姿はとても可愛らしいものであった。
エリックはその姿を見てふっと微笑むと
「僕は、ずっと君のこと......気になっていたんだ。」
と言った。エレミアはその言葉の意味が分からずエリックを見上げる。
「ああ......可愛い。」
エリックの手が、エレミアの頬にそえられ上に傾けられた。
「......っ!?」
エレミアはエリックの視線に囚らわれ動けなくなってしまって........
二人は時が止まったかのようにじっと見つめあった。
この急な展開に混乱してしまっていた エレミアは何とかエリックの言葉を理解しようとまっすぐ見つめ返した。
信じ難いが、エリックは自分のことを“気になっている”と言ったのだ。
「私も......エリック様をお慕い申しております。」
エレミアは勇気を振り絞り自分の思いを口にした。
その言葉に嬉しそうに目を細めたエリックは、恐ろしいほど整った顔で微笑みを浮かべ、流れるような仕草でエレミアの耳元で囁いたのだ。
“僕の愛しのエレミア.....僕は、早く君を愛したいよ。でもね、それを邪魔する子がいるんだ....”と。
エリックは耳元から顔を遠ざけ、今度はエレミアの顔の覗きこんだ。
「僕と君が愛し合っているのは学園の皆には知られてはいけない。君には婚約者がいるからね......
でも、僕達を邪魔しようとする子は退治できるはずだ。
協力......してくれるかな?」
エリックの言う“邪魔する子”は『セレナーデ』であった。
なので、エレミアは『セレナーデは何度もいじめから救ってくれるエリックに恋をしていて、自分達を邪魔しようとしている。』と思い込んだのだ。
結局、この愛の言葉も思い込みもエリックの“作戦通り”だった訳だが......
あまりにも簡単にエレミアが騙されたものだから、エリックは心の中で笑っていた。
その後、エレミアの中では恋を邪魔する存在になったセレナーデは、ありもしない噂を広められたり、恥ずかしい写真を撮られたりすることになるのだ......
エリックの指示通りやったいじめもあったが、エレミアはセレナーデを深く恨むようになった。
というのも、『セレナーデばかりエリックにかまってもらっている』と思い込んだからだった。
いじめられているセレナーデをエリックが助け、優しくする......そんな事が毎日続いたため、エレミアはセレナーデにそんな感情を抱くようになった。
自分とエリックの関係は秘密であり、あまり会うことも出来ないのだ......
だからエレミアはエリックに内緒で独断でセレナーデをいじめだしたのだ。
いくらエリックに騙されていたとは言え、エレミアがセレナーデをいじめた事実は変わらない。
エレミアが広めたセレナーデの噂の中に『セレナーデは娼婦として働いている』というものがあった。
エリザはちゃんと聞いていたのだ......
ノワール家から勘当される際、グレイはエレミアに何故勘当したのか理由は言わなかったし、まさかエレミアが娼婦として働かされるなんて知らなかったのだ。
結局、エレミアの作ったセレナーデの噂はそのまま自分に跳ね返ってきてしまった......
ーーー
自分が、まさかエリックに利用されていたことなど知るよしもないエレミアは、恋心を捨てきれていなかった。
男たちに押し倒され、服を破られる。
エレミアは全力で抵抗した......
だが、男たちはびくともしない。
結局、抵抗虚しく男たちに朝までなぶりものにされたのだった。
好きでもない、醜く汚い男達と一夜を過ごした......
事の最中、エレミアは悲しみと絶望にさいなまれた。
できる限りの抵抗はした。
でも、意味はなかったのだ......
朝、部屋から男達が去っていく。
「あんな上物、最初に味わえると思わなかったぜ。」
「もっと抵抗してくれりゃ良かったのにな?」
「はは、無理だろ!」
ぎゃはははと大声で笑いながら、エレミアから離れていく。
エレミアはぼろ雑巾のように床に転がっていた。
体が重く、痛い。加えて、黒く汚れ 濡れていた。匂いもひどい......
エレミアの目から涙が溢れた。
この後、エレミアは1ヶ月汚い男達の相手をし続けた。
そして、その頃には虚ろな目で抵抗出来なくなり、感情のない人形のような人間になってしまった。
エリザはそんなエレミアの元に転移すると力なく横たわる姿を見て大笑いした。
そして......
「ふふふ、好きでもない...どこの誰かも分からない男の子供を妊娠したみたいね?
ちゃんと育てなさい?わたくし、育児放棄なんてゆるさないわよぉ?」
と言い残して去っていった。
最初の男達を雇ったのはエリザである。
人間に化けて盗賊の男達を雇ったのだ......
去り際、エリザはエレミアに呪いをかける。
『他人にも自分にも危害を加えることが出来ない』と言うものだ。
これで自殺も出来ないし、赤ちゃんを殺すことも出来ないだろう......
エリィをサンドバッグ変わりにするのも飽きていたので、エレミアに呪いをかけるのを楽しみにしていたのだ。
セレナーデをいじめた者は、ただでは済ませない。
エリザは本気なのだ......
だが生まれてきた子供に罪はない。
エレミアは出産後、子育てなど出来ないほどに精神を病んだので子供は赤ちゃんの頃に養子として裕福な家庭に引き取られた。
エリザは後にエレミアの子供に加護を与え幸せに暮らせるよう手助けするのだった。
生気のないエレミアは突然空中に現れたエリザに反応することはなかった。
残る復讐対象者は四人。
エリザは美しく笑う。
セレナーデをいじめた平民には何をしようかしら?
そんなエリザの明るい声が部屋に響き、消えていった..................
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