14.後悔と考え

(エリザ目線)


「ビビアン?」


ビビアンは断罪部屋に向かってしばらく経つが、今だ戻ってこない。

わたくしはエリィの始末を終えて 罪人達が余計なことを考えないよう警告していたけれど......

ビビアンの今まで聞いたこともないような狂気的な笑い声が聞こえてきたものだからビックリしてしまった。


そっとビビアンのいる部屋の扉に手をかける。


古びた扉はキイィという不快な音を立てた。


「エリィの始末終わったよ~♪」


軽い足取りで部屋に入る。

火が灯って明るかったはずの部屋は薄暗く、視界が悪い。


わたくしはすぐに火を灯らせ部屋を照らす。

ビビアンが魔法を中断したのかしら?


視界が開けてまず目に飛び込んできたのは頭のない死体......

死体の腹部は大きく えぐれて おり、両腕には銃で撃たれたような穴がある。

そして 頭は床に転がっており、悲壮な顔をしていた。

赤黒い血で床は覆われ、歩くたびにピチャピチャと音が鳴る.........


「セドリックがこぉんなふうになっちゃうとはね?ふふふ.....♪」


それがセドリックであることは分かったが、あまりにも見るも無惨な姿で......とても、あの傲慢な見栄っ張り男だったとは思えないが。

わたくしにはそれが面白くてたまらないのだ。



一人死体の前でうっとりと微笑む。



そんなわたくしは、ふと後ろに気配を感じた......

ビックリして思い切り振り返った先にいたのは、ビビアンであった。


ビビアンはスッキリしたような微笑みを称えていたが、その目は濁っており深い闇で覆われていた。


「素敵でしょう......?」


ビビアンは私は見ると視線を死体に移し先程より深く微笑んだのだ......


「ビ....ビアン?」


いつもと違う空気を纏うビビアンに、違和感を感じたわたくしは彼女の名前を口にする。


ビビアンはそれに反応するが、なぁに...?と言って小首を傾げるだけであった。



「セドリックを......殺したこと、後悔しているの?」


何となく、そんな気がして......

わたくしは確かめることにした。

だって、ビビアンがこんな悲しそうな顔をしているのは、ウランが亡くなった日以来だったもの............


ビビアンはわたくしの問いに目を大きく見開く。

濁った目に、少し光がさした。


「わ...たし......は...後...悔......」


言葉につまるビビアン。

わたくしはビビアンと目を合わせようとしたがすぐにそらされてしまった。


俯いてしまったビビアンは暫くの間黙っていたが、何かが吹っ切れたように勢い良く顔をあげるとわたくしに早口でたたみかけてきた。


「私、ウランを殺されて人間を恨んでいたわ!でも、人間がウランを殺したのは強い恨みが原因でしょう?!だったら、私は人間と同じように強い恨みを持ってセドリックを殺したことになる!!それって、人間のしたことと同じだわ!私、ウランに会わせる顔がない!私はウランを失望させてしまったに違いない!!セドリックを殺した私は人間と同類よ!!!」


悲鳴にも似た高い声は部屋に響き渡る。

わたくしは落ち着いてビビアンの話す内容を聞く。

ああ.....ビビアンが悲しそうだったのは、そういうことね。

自分がウランを殺した人間と同類だと思っているのね......

ウランに、失望されてしまったと怖くなったのね....


わたくしは、ビビアンの両肩を持つ。

体は大きく震えている....


「良い?ビビアン。

人間がわたくし達(神と精霊)に干渉してはいけない決まりは知ってるわよね?

その決まりを先に破ったのは人間でしょう?

そして、わたくし達を傷つけウランを殺した。

だから、ビビアンは人間を恨んだのでしょう?

それは、正しいことよ......だって、大切な人を傷つけられたのだから。

それに対して怒り恨むのは当然。

たかが人間一人殺したくらいで わたくし達に(人間は)文句を言えないわ!」


「でも......」


「ウランが失望する?それは、もしもの話しでしょう?ウランを思う気持ちが強かったから人間を恨んだのでしょう?だったらあなたが後悔することはないわ。この件は100%人間に否があるのだから......

気にしなくて良いのよ。」


「............」


これを人間が聞けば最低だと言うだろう。

だって『殺られたことを殺り返して、無実だと言っている』のだし、『人を殺しておいて』と思う者もいるだろう......


これは、世界を創造した女神であるわたくしの意見だ......

でも、人間と永遠の時を生きるわたくし達(神と精霊)の考えが違うのは仕方のないことだ。


一言で表すならば、『命の大切さを人間ほどわかっていない』のだ。



「エリザ......」


わたくしが話し終えると、ビビアンはいつも通りの落ち着いた表情でゆっくりと語りだした。


「私は、最初セドリックをなぶるのが楽しかった。ぞくぞくして、感じたことのないような感情が押し寄せてきた......でも、それが“楽しい”という感情ではないのに気づいたのは、セドリックの首を跳ねる瞬間だった。セドリックが死んだのが分かって、急に怖くなったの.........

ウランを失望させてしまったんだって。

あの人間達と同類なんだって..................

セドリックを殺した時、ウランが消えてしまった時と同じ絶望と後悔が押し寄せてきた。

その感情を認めたくなくて、死体を美しいと思ってしまうほどに、心が歪んでしまった............」


ぽつりぽつりと一言一言を噛み締めるように話し始めたビビアンは、わたくしをまっすぐ見つめて最後の言葉を発する。


「ごめんなさい。私の心はまだまだ未熟ね......」


「いいえ。ビビアンは立派よ!さぁ、復讐は終わっていないのだから、作戦を立てて準備をしましょう。愛し子に危害を加えた(干渉)したのだから、ただじゃおかないわ......」


わたくし、慈悲などとうの昔に捨てたのよ!


エリザを困らせてしまったことに、ビビアンは反省していた。

だがエリザは困ってなどいなく、逆に終始冷静であった。

まあ、ビビアンの笑い声や様子の違いにはビックリしていたが......


エリザは、すっかり落ち着いたビビアンを優しい眼差しで見つめていたのだった。








二人はその夜これからの復讐の計画を話し合った。

お互い、この先後悔することはないだろう。



念のため、牢の中の者(全員)には再度睡眠薬を使った。

脱走などされても困る。寝てくれた方が都合が良い......


セドリックはエリザの力で死体と血を綺麗に消された。

エリィは抵抗する気力もないのか、皆と同じ牢の中力なく横たわっていた......生ける屍のように。



結局、この日エリックとエレミアは起きることはなかった。

睡眠薬が効きやすいのだろう。

そんな二人を見て、起きた時 絶望を味わうようなそんな復讐をしようとエリザは楽しそうに話し準備していたのだった......









 

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