12.神罰の時(セドリック .1)

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※残酷描写が多くあります。





(ビビアン目線)



「あんたがセドリックねぇ......」


手足は拘束され、口には猿ぐつわをかまされている。

私を見て恐怖に体を震わせ必死に逃げようと もがいている姿はなんと滑稽なことか......



そのまま床に座られているといろいろやりづらいので、私はセドリックに手をかざす。

たったそれだけの動きでも、目の前の男は肩をビクリと跳ねさせ怯えた目で見てくるのだ......うざい。


魔法で体を浮かせ壁に張り付けるように拘束すれば、セドリックの顔がより良く見えるようになった。


それはセドリックも同じなようで私を見ると何かを必死で訴えてきた。


私は目を細める。


これは猿ぐつわを外したら うるさいだろうなぁ......

そうは思うけれど、このまま唸られてもうるさいのよね............

はぁっとため息をつきセドリックにゆっくりと歩み寄ると猿ぐつわに手を触れ少々乱暴に外す......


「俺はセレナーデをいじめてなんかいない!!

俺ほど素晴らしい人間はいないはずだ!!!

言いがかりはやめてくれ!!きっと俺の素晴らしさに嫉妬した奴が俺をはめたんだ!!そうだ!か、加護をくれ!!」


猿ぐつわを外したそばからこれだ。

早口に無罪をまくし立てられ あげくのはてに私達が言いがかりを言っていると言う始末。

私は目の前の男に侮蔑の視線を送る。


私達が言いがかりを言っているなんて、女神と精霊に対しての不敬にあたる...こんな馬鹿で無能な男が未来の国王“だった”なんて......

世も末ね?........


「あんた、あくまで私達が言いがかりを言っていると思っているのね?」


「あ......」


確認するように、私が先程の言葉を繰り返す。

セドリックはそれを聞くと顔を青くして、やっと自分の失言に気づいたようだ。


「私達が、言いがかりで人間界の次期王に危害を加え、干渉するような馬鹿ってこと?それって、失礼じゃない?そんな失礼な人間に加護を与えると思う?人を平気でいじめるような 対して素晴らしくもない人間に?」


私は吐き捨てるように、責めるようにたたみかける。

セドリックの顔色が青から白に変わっていくのを見ながら、侮蔑の視線を強めて言う。


「でも その行いが、態度が、心が、次期国王として認められなかった。だからここにいるんでしょう?違う??

自業自得じゃない。それを私達の言いがかりだなんて......ほんと、つくづく次期国王には向いてないわね?」


セドリックがセレナーデをいじめていたのは私達がちゃんと“見ていた”。

見ているだけで何も出来なかったのは、人間界に私達があまり干渉してはいけなかったからだ。

だから、“その時”が来るまで見ていることしか出来なかった。

それがどれだけ苦しかったと思う?


言い逃れはできないわよ?私、怒ってるんだから....


それに、楽しくもあるのよ。ウランを殺した恨み、セレナーデをいじめた恨み、この男で晴らしてやる............


「私、あんたみたいな人間は嫌いだわ。」


これ以上セドリックの側にいると怒りでおかしくなりそう。

私はセドリックにきびすを返し遠ざかる。


ふつふつと増していく怒りを落ち着かせようと、辺りを見渡す。

それにしても、この“リアルな拷問部屋”を私が作ったと思うと凄い。私ってセンスあるわ........


でも、地下牢が一つしかないのに、断罪部屋が二つあるって今まで気にしてなかったけれどおかしいわね?牢を一つ増やしましょう。


そんなことを考えながら私は左手を上にあげる。

鞭を転移させるためだ。

次に右手を上げる....

これは銃を転移させるため。


両手に鞭と銃を持ちセドリックの方を振り替える。

ヒィッ なんて声が聞こえたけれど気にしない。


ああ、剣を忘れていたわ。

自分の目の前に剣を転移させる。

両手が塞がっているから、転移させた剣は床に大きな金属音を立てて落ちてくる。


セドリックはその音にビクりと肩を跳ねさせ、私はたったこれだけのことで?!と それを嘲笑う。


だが、面白いのはこれからだ......


鞭を構え狙いを定め振り下ろす。

振り下ろした先はセドリックの腹部に思い切りあたる。

私は何度も何度も力を込めて鞭を振り下ろし続けた......

最初こそセドリックは いたい!! とか やめてくれ!!とか、そんな事を言っていた。

でも、だんだん声はかすれ小さくなっていく.........

今は、 言葉に出来ないほど痛いらしく 声にならない叫び声が部屋にこだまする。

それもそのはずだ......

私が夢中で振り下ろした鞭はいつの間にかセドリックの腹をえぐり、中身を露出させていたのだから。

赤黒い血が辺りに飛び散り、部屋全体に血独特の鉄の匂いが立ち込めていた。


セドリックは泣きながら何か伝えようとしている。

懺悔の言葉かしら?無罪の主張かしら?

悲鳴にも似た声は、耳にキンと響く。

イライラしてくるわね......


私は銃を構えセドリックの左腕めがけて躊躇なく打つ。

火薬の匂いが鼻をくすぐり、それと同時にセドリックの絶叫が聞こえてきた。

あまりの痛さに涙すら出てこないようで、張りつけにされた状態で体をビクビクと痙攣させている。


「あまり絶叫しないでくれる?うるさいのよね。」


私はやっと静かになったセドリックを睨み付け、部屋の出入口を見る。

この部屋は精霊城唯一の地下牢に一番近い断罪部屋だ。

地下牢の中でまだ眠っている罪人を起こされてはたまらない......しかも、もしセドリックの絶叫を聞かれでもしたら、ここが危ない場所だと知って脱走を試みたり、暴れたり 騒いだりされてしまうかもしれない......

それは困るわ......


私が牢の前を通った時、罪人達はまだ寝ていた。

確か、セドリックとエリィは睡眠薬が効かなかったのよね......普通はどのくらいで起きるものなのかしら?



「こ...ろし....て...く...れ......」


「ん......?」


忘れていたけれど、セドリックを放置してしまっていた。

突然話しかけられたものだからビックリしたわ......

それにしても、『死なせてくれ』なんて......そんなに苦しいの................??


息を吸うたびヒューヒュー音がなっているところを見ると、上手く呼吸が出来ないのね......


コツコツと音を立てセドリックに近づく。

顔を覗き込めば、さっきまでかえってきたはずの反応もなく、ただ『殺してくれ』と目で訴えていた。


私は、それが面白くて面白くて......

にっこりと微笑んだ。


セドリックは私の満面の笑顔を見て目を見開き震えだす。

器用ね?目を見開くのも痛いはずなのに......


セドリックに微笑みながら、左手に持っていた鞭を床に放り投げる。


そして、セドリックの唇を指でなぞり甘い声で囁く。


「口を開けて?」


と......


セドリックは言われた通り口を開けた。

私は フフ....と笑み右手に持った銃を構えた。

そのまま流れるような動作で銃口をセドリックの“口の中”に突き付ける。


銃口を口中に突き付けられたセドリックは、明らかに体が強ばり、嫌だというように首を横に振った。


「え?死にたいのでしょう?」


私は首をこてんとかしげ 心底不思議だというような口調でセドリックにきく。



ふるふると首を横に振り続けるセドリックを見ていたら......もっと なぶりたいと思ってしまった....


私はもう一度微笑み頷いて銃をセドリックの口から抜いた。

セドリックは安心したように脱力し......

また、戦慄することになる。



私は、銃を抜きセドリックの右腕に発砲したのだ。

耳をつんざく絶叫が再び部屋にこだまする......

ああ、こうでなくっちゃ♪

自分の口が歪んで笑っているのが良く分かる......


それより、銃は飽きるわね。

火薬臭いもの。最初は良い匂いだと思ったのよ?今は嫌だ。

気づけば銃を床に放り投げていた。


見れば、セドリックの両腕から血がどくどくと出てきて服を汚している。

私にもついてしまったじゃない......

まあ、この近距離で銃を発砲したら返り血を浴びるのは当たり前よね。


というか、セドリックはまだ絶叫してる。

元気ねぇ~?


私はその場から離れるために立ち上がる。

そして、数歩遠ざかり床に落ちた剣を手に取る......


「大丈夫。そろそろ“殺してあげる”わ......」


牢の罪人のことはすっかり忘れて、絶叫し続けるセドリックを見て楽しむ。

セドリックには聞こえていないでしょうけど、私、大声をあげて笑っている......こんなの初めて!!!


片手に剣を持ちゆっくりとセドリックに歩み寄る。

その気配に、セドリックは絶叫をやめ私を見上げ......一歩近づくごとに瞳を大きく見開いてゆく。




セドリックの目の前まで近づき 止まる。


私は剣の先をセドリックの頬にあてた。


すると、剣先をあてたところから、つぅ と血が出てくる............それに、どうしようもなく ぞくぞくするのだ。


笑いが込み上げてくる。

私はずっとこうしたかったのかもしれない......

ウランを殺された恨みを......どこにぶつければ良いのか分からなかった。

エリザに、迷惑をかけたくなかった......




私は、鞭の時と同じように剣を大きく振り下ろした。

何故か涙が溢れてきたけれど、止まることは出来ない............



次の瞬間、断末魔が部屋に響き渡ったのは言うまでもないだろう。









セドリックの首がビビアンの足元に転がっていく......

ビビアンは、それを一度も見ることはなく、その場に崩れ落ちた。

放心状態で、ただただ呆然と脱力し座り込む。



虚ろな目。




しかし、その目からは涙が止めどなく溢れていた............














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