11.牢の中

薄暗い牢の中、次々と目を覚ます者達がいた。


ザックは目が牢の暗さに慣れてくると辺りを見渡し驚きと恐怖に体を震わせた。

彼の周りには、リリィメルト・シュターナをはじめとするシュターナ家当主ビンと奥様クエル。エリック・ダージリア、エレミア・ノワールがいたのだから。


こんな目立つ人間がこの薄暗く不衛生な牢にまとめているとは何事か......自分達は何故ここにいるのか.....一体自分は何をされるのか......

ザックはそう考えると震えが止まらなくなった。

自分で自分を抱きしめ必死に落ち着こうとするザックは、ふと牢の外の不気味な扉から音がするのに気づき耳を澄ませた。


そして、ザックはその声がなんなのか分かると思わず発狂しそうになってしまった......


声の主はセドリック。

セドリックとザックは幼なじみのようなもので、互いの声が分からないようなぬるい関係ではない。

だからこそ......セドリックの狂ったような、悲鳴のような、そんな助けを求めるような声がザックにはわかった。

ザックの心臓は大きく鳴り響き、そして速まっていく......

はぁっはぁっ......

息ができなくなり思考が遠のいていく。


その時、背後で何者かが動く気配を感じたザックは後ろに視線を動かす。

そこにはリリィメルト・シュターナと、シュターナ家当主ビン、クエルの姿があった。


リリィは顔色の悪いザックを見てビックリするが、

リリィもまた牢の外にある不気味な扉を凝視し、耳を澄ませる。


ーこの声は...セドリック様?


リリィの両サイドにいるビンとクエルはその声を聞いてザックと同じように顔を青くする。

ビンもクエルも公爵家の人間だ。

王族と会うことは多い............

リリィは声の主がセドリックであることが分かると周りを見渡して思った。


ーお姉様がいない......?


リリィはエリィがいない理由を考える。

自分の周りには、今“寝ている人間”と“起きている人間”がいること...

そして、自分達は何者かによって拐われたこと...

それらから考えるに、ここにいる者達は拐われて、この牢に入れられた。


そして、暴れないよう睡眠薬を使ったが......

セドリックとエリィはあまり薬が効かなかった。


そのことに自分達を拐った犯人が気付き、二人をあの部屋に連れ込んだならば............


だとしたら、二人は......もう助けられない。

現に、セドリックは“今”酷いことをされているようだから......


ーここは、セドリック様の絶叫がよく聞こえる.....


ここは恐ろしい場所なのだとよくわかる。

リリィは短時間で冷静にそこまで考えると、

ザックをちらりと見た。

ザックはガタガタと震えており、とてもその考えを言い出せる雰囲気ではなかった......


ーここにいてはダメだわ。


リリィはもう一度辺りを見渡すと脱出できそうな場所はないかと歩き回った......


その時、


「う゛わぁぁぁぁぁあぁぁ!!!!」


ザックの悲鳴が牢に響き渡った。

リリィはビックリしてそちらを見てーー

思わず ヒィッ と言ってしまった。

そこには、変わり果てた姿の......

エリィがいた。


エリィは身体中が痣だらけで赤く晴れ上がり、

所々切り傷があった。

顔は見るも無惨にボコボコになり変わり果てた姿であった。


ー酷い!!



リリィはエリィに近寄ると一体何があったのか聞こうと口を開き......すぐ閉じることとなる。


「フフ。“酷い”ねぇ?」


突然その場にそぐわない女性の明るい声が聞こえ、自分の思っていることを言い当てられビックリしつつも、リリィは恐る恐る上を見上げる。

そこには、檻ごしに実に楽しそうにニコニコと笑っている美しい女性がたっていた。


「おい!!娘を......娘に酷いことをしたのはお前か!!!」


ビンは勇気を振り絞り女性に怒鳴り声をあげる。

女性はビンをちらりと見て、けれど興味がないというようにすぐ目をそらした。


「ああ、リリィメルト・シュターナ。

あそこから聞こえてくる声の主はセドリックで間違いないわよ?それと、助けは来ないわ。

これは、アズーナの国王に許可をもらってのことだから。」


「ふざけるな!国王がこんなこと許可するわけないだろう!!」


女性が不気味な扉を指差しリリィに話しかけるが、

それにビンが反応する......


「あらぁ?わたくし、あなたに話しかけた覚えはないのだけれど?」


「質問に答えろ!」


ビンは顔を真っ赤にして怒りに震えている。

リリィもクエルも女性を睨み付けている。


それに女性はフッと笑う。

次の瞬間、女性の体はふわりと宙に浮き、目映いばかりの光をまとい、周囲には声を発することもためらわれるほどの威圧感が立ち込めていた。


「わたくしは女神エリザ。

セレナーデ・シュターナは、女神(わたくし)の愛し子............あなた達、ここまで言えば分かるでしょう?」


たったそれだけの情報で......

その場で起きていた全員が顔を青くした。

特に、ビンはさっきまでの真っ赤な顔が嘘のようであった......

目の前の美しい女性が女神であることには驚いたが、セレナーデが愛し子であったなんてもっと驚きなのだ。

そして、愛し子であるセレナーデをいじめた自分達の目の前に加護を“授けし”女神がいる。


この状況がまずいことは馬鹿でも分かる......



「し、知らなかったのよ!!セレナーデが愛し子なんて...........だいたい、魔女ウランなんかとそっくりなのよ?!そんな奴が愛し子なんて!!!ウランは女神様に嫌われているんでしょぅ?!!!」


リリィは声荒げてエリザに訴える。


彼らの無罪の主張であった。


だが、それはエリザの逆鱗に触れてしまったのだ......


「わたくしが!!いつ!!ウランを嫌ったのですか!!!

ウランは心優しい子だったわ!!でも、人間に裏切られた!!!だからアズーナ王国を混乱に陥れたのよ!!!

それなのにあなた達人間は、“裏切った側”なのに、まるでウランが人間を裏切ったみたいに......!!」


エリザはまるで唸るようにして話し始める。


周囲の威圧感がより強まり、息もできないほどだ....


「それに、セレナーデの容姿は先祖がえりよ...

ウランの生まれ変わりではないわ!」


エリザのあまりの気迫にリリィは恐怖で瞬きすらできない。

クエルに抱きしめられているエリィはガタガタと震えている。

シュターナ家の者達は、これから自分達に平和は訪れないであろうと悟ったのだった......


そして、ザックはエリザが話し終わった辺りで気絶した。


未だ眠ったままの者達は、これから自分の身に降りかかる厄災に気づくことはなく静かに眠っているのだった......





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