10.神罰の時(セドリック、エリィ 2)
「エリーベル・シュターナ......いいえ、馬鹿女。」
「ば...?!馬鹿?!」
「え?そうよ?他に誰がいるというの?」
何を言っているのかしら?
しかもこの状況でよくわたくしに噛みついてきたわね。やっぱり馬鹿だわ......
今、わたくしは断罪部屋にいる。
精霊城の断罪部屋は拷問部屋のよう。
だって、至るところに血がついてるもの!!
まぁ、これはフェイクだから本物の血ではないけれど......
それにしても、わたくしも気味が悪くなってきたわ...
ビビアンに、断罪部屋を “拷問部屋のような仕様にして” と頼んだのはわたくしなのだけれど......
リアルすぎよ......ビビアン......
だから、“こんな”部屋で“拘束”されているのに目の前の女は まだわたくしに噛みつくことが出来るなんて......
馬鹿なのか 空気が読めないのか....
「ちょっと...私に...な......何をする気...?」
「ん?ああ、そ~ねぇ?セレナーデにしたことと同じことをしてみようかしら??」
「セレナーデ?何それ?同じことって何よ......」
「いいこと?馬鹿女.....
“セレナーデにしたことと同じこと”をするっていうのは...
つまり、“何もしていなければ何もしない”ということよ...?
あなたが“何かしてきたなら別”だけれどねぇ?」
わたくしは馬鹿女でも分かるように説明する。
説明がないと不安でしょ?
わたくし 偉いでしょう?
「こっち むぅ~いてぇ?」
わたくしにひざまずくような形で座る馬鹿女を
わたくしは見下ろし幼児をあやすような甘ったるい声で言う。
嫌いな人間を馬鹿にするって楽しい♪
馬鹿女はそんなわたくしに文句を言おうとするけれど......
「なにy...『パァァァァン』.........っ!?」
「あっらぁ?どうしたの?」
文句を言い始めた馬鹿女の頬を平手打ちすればビックリしたように固まる。
うん。静かになったわね♪
「いっ....たぁ..いっ......」
「はぁ?」
黙ったと思ったら 、ひっくひっくと泣き出した馬鹿女。
わたくし、思わず はぁ? って言っちゃったじゃない!!ビックリさせないでよ!口悪くなるじゃない...
それにしても、一度頬を叩かれたくらいで泣くなんてねぇ?
セレナーデにはさんざん 頬を叩いたり、蹴ったり、髪を引っ張ったり、悪口を言ったり、階段から突き落としたり していたのに......
私達は屈しない!!!とか叫んでどや顔してたのが嘘みたい。
「他人は傷つけても良いのに、 自分が傷つけられるのは 嫌だなんて、本当に最低ね?」
わたくし、そんなあなたが大っ嫌い。
そんな思いを込めて今度は馬鹿女の腹を躊躇なく蹴る。
「ぐぅ゛っ!!!」
そして、うめき声をあげうずくまる馬鹿女の髪を鷲掴み上に引き上げる。
「い゛っだい゛ぃ...」
「フフ...」
馬鹿女の顔をのぞきこめば、酷い顔になっている。
持ち上げていた髪をパッと離せば崩れ落ちるように床にへたりこんだ......
「ね~ぇ?」
「..................」
「つまらないわね。何もしゃべらなくなっちゃった......ん?そっちの方が良いのか...?」
「..................」
わたくしの言葉にも反応しなくなった馬鹿女。
静かなのは嬉しいけれど......
たったこれだけのことで黙るなんて、情けない。
そこに コツ コツ 誰かが歩いてくる音がする......
「ああ、ビビアンじゃない!!」
「はぁ~、何故私が来る前に始めてるんです?」
「あっは♪だって馬鹿女もセドリックも睡眠薬効かなかったみたいだったから?」
「馬鹿女......。そうですか、まあ私はセドリックの方を“殺って”来ますね。そっちはお願いします。」
「フフ♪セドリックは“殺っちゃう”の?」
「ええ。」
ビビアンがいつもより楽しそうな明るい表情をしながら部屋に入ってくる。
このリアルすぎる拷問部屋のような仕様にもの申したいところだが.........今じゃなくても良いわ。
わたくし達の物騒な会話にさっきまで黙りこくっていた馬鹿女が顔をあげる。
「セドリック様を......殺る...?」
「ああ......」
その時ちょうど馬鹿女と目があったビビアンが嫌そうに顔を歪めて吐き捨てる。
「私、あんたみたいなクズと話したくなんかないけれど、良いことを教えてあげる。これはアズーナの国王にも言っていないわ。............セドリックは、セレナーデを何回も殺そうとした。それも、あんたの父親より暗殺者を送っていたのよ?」
「え......?」
「セドリックはいつまで持つかしら?」
話は終わったとばかりに馬鹿女の困惑した声には反応せずわたくしに話しかけるビビアン。
なんでかしら?わたくし、ビビアンがとても怖いわ??
「じゃ、私はもう行きますね。」
「楽しそう......ね?」
「......?...そうですか......??」
「ええ......」
ビビアンは昔からあまり笑わない。
というか、感情を表に出さないから......そりゃぁ、
わたくしが『世界』を“創造”した時。
『世界』が変わっていく時。
その中で“作った”『人間』という存在に ウラン を殺されてしまった時。
感情を出すことはあった......
怒ったり、楽しそうにしたり。
でも、今目の前にいるビビアンは今まで見てきた表情と違い、なんて言えば良いのか分からないが......
『人間に罰を下せるのがとても楽しみだ。』
と物語っている“楽しそうな”表情をしている。
あの心優しいウランが人間達に殺されてしまった時。
そして、ウランが人間に忌み嫌われていると知った時。
わたくしは怒った......いっそのこと『世界』を潰してしまおうかと何度思ったことか......
けれど、ビビアンは言った。
「私達がどれだけ人間を恨んでも、殺したいと願っても......それをウランは望まないでしょう。
ウランは最後に人間に警告したのよ。
『これ以上馬鹿な真似は許さない』と......だから、“王国を混乱に陥れた魔女ウラン”としてどれだけ忌み嫌われようが......人間に自分の思いが伝わってくれることを祈って亡くなった。
ウランは優しい子。そして、人間を愛してる。
私はあの子を殺した人間が憎いけれど............
もとはといえば、この世界を創造したのは私達なのだから、最後まで見守るのが “作ってしまった責任”というものでしょう?」
あの日の......ビビアンの顔はひどく悲しげだった。
ビビアンは人間が嫌いだ。
わたくしも人間が嫌い...
確かにわたくし達には“作ってしまった責任”
がある。
でも、やっぱり心優しい子が虐げられる世界をわたくし達は望まない。
だから、だから!!世界を潰してしまうのではなくて
罪深い者をわたくし達が一人一人罰して潰していけば.........
世界を潰してしまわないですむ。
それに、わたくし達が創造したこの世界で“女神と精霊は絶対的存在”。
わたくし(女神)が人間を裁く............
わたくし達が人間を裁くのは当然の権利だわ。
セレナーデをウランと重ねて大切にしていたビビアンが、セレナーデを何度も殺そうとしたセドリックを人間界に生きて帰すわけがないじゃない?
やっと廻ってきた復讐の時。
楽しくないわけがない!!!
なにを怖いだなんて思ってしまったのかしら?
「何でもないわ。よろしくね?」
「......?そっちもね??」
ビビアンの不思議そうな声を聞きながら、
わたくしはビビアンから視線を移し床にへたりこむ馬鹿女を見る。
馬鹿女はわたくしの視線に気がつくと ヒィッ と言って後ずさった......
今、わたくしはとても楽しい!!!
そんなわたくしの顔をガタガタと震え見上げる馬鹿女が、この後.........
顔と体を真っ赤に腫れ上がらせてボコボコにされ涙と鼻水で顔が悲惨なことになるまで時間はかからなかった。
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