9. 神罰の時 (セドリック、エリィ 1 )

(エリザ目線)


「あ...あんた...誰...」


「え?ああ...起きてたのねぇ~?」


薄暗い牢の中に光を灯す。

突然後ろから声をかけられてビックリしたのだが、声の主を見て笑いがこみ上げる。

声の主はエリーベル・シュターナ。

セレナーデを長きにわたり精神的にも物理的にもいじめてきた わたくしの大嫌いな人間......


「私の名はエリザ。」


「エリザ?聞いたことないわね!平民?私を誰だと思っているの?!エリーベル・シュターナよ!!なんでこの私がこんな汚いところに?!不敬でお父様に言いつけてやるわよ?!」


「フフ...あはははは...あっは♪人を平気でいじめるような穢らわしい女にはやっぱり牢屋はお似合いねぇ~?フフフ......」


「なんですってぇ?!」


こみ上げる笑い声を隠さず、わざと挑発するような言い方をすると、案の定わたくしに噛みついてきた目の前の女。

いつもの余裕がないのか演技(ねこを被るの)も忘れてなにやらわたくしに叫んでいる。

精霊城の地下牢は一つの部屋しかないから、同じ牢に目の前の女の他にも、エリック.セドリック.ザック.エレミア.リリィメルト.ビン.クエルがいるのだが、周囲でまだ『眠っている』。


シュターナ家の人間は有無を言わさず拐ってきた。


でも夜忍び込んだらばれてしまって、悲鳴をあげられた時は、間違えてその場で殺してしまいそうだったわ...

精霊城に転移させても暴れられたら困るもの。

だから、全員頑丈に拘束して強力な睡眠薬を飲ませたの!!


でも、目の前の女. エリィにはあまり効かなかったみたいね......

ほんと、ゴキブリ並みの生命力ね。

フフ...その生命力はいつまで保てるのかしら?

楽しみね♪

それにしてもセレナーデをいじめた人間を牢に入れて拘束し、それを檻ごしに見るわたくしからの眺めは本当に最高だわ!


「ね~ぇ?ギャーギャー騒がないでくれる?周りの人が起きちゃうじゃない。うるさい子ねぇ~?」


「はぁ?!私の話し聞きなさいよ!!!」


挑発に簡単に乗るこの女、

馬鹿すぎる(笑)

わたくし笑いのツボが浅いの!!!


「あっははははははははは!!」


「はぁ?!どっ!どういうこと?!」


わたくしがお腹を抱えて笑っていると、

馬鹿女(エリィ)が動揺した声をあげる。


「な...なんで皇太子殿下がここに?!」


やっと周りを見たのだろう。

といっても、自分の隣にいるセドリックしか見えていないようだが。

落ち着きがないわねぇ~

まぁ、馬鹿女がようやく静かになって良かっ「あんた、終わりね?」 ん......?


「あんた、今日が命日ね?!」


突然わたくしの思考を乱す嬉しそうな声が響き渡る。

そちらを見れば、ニタニタと淑女らしからぬ笑みを浮かべる馬鹿女と目が合う。

床も壁も天井も湿って不清潔な場所に座り、手足を拘束され、薄汚れた服を着させているのに、

何故かこちらを見て楽しそうにしている。

狂ったかしら?


「ん...?君は...」


そこに第三者の声。セドリックだ...


「セドリック様、この女、私達を拐って王国を破滅に導こうとしています!」


セドリックは起き上がると、周りをキョロキョロと見渡して、最後に自分に抱きついてきた馬鹿女を見て......っていうか、セドリックは起きたばかりで、目が暗いところに慣れていないから周りがあまり見えていないはずだわ。


「貴様、こんなこと許されないぞ!」


ああ、たぶんこの空間に自分と馬鹿女しかいないって思い込んでるわね。まぁいいけど。


「あらぁ?ダメだった?でも、私なら許されるわ。」


「何言ってるのよ!あんたの名前なんか知らないわ!平民が!!王国の至宝である殿下に危害を加えるだなんて....」


「エリーベル嬢。ありがとう...君は素敵だね。」


は...?何、キモチワルイ。

セドリックと馬鹿女がいちゃつき始めた...?

そうか、エリーベルはセドリックが好きだったのか!!おおお!!そうかそうか!!!!

どうでもいいけど。


「殿下が行方不明なんて、必ず王国は必死で殿下を探すわ!ここもすぐ見つかる!!陛下はお怒りよ!!!」


あ~!!そういうことね。

あんた、終わりね!(ドヤァ...)とか言うからなんのことかと!!

そうね...私がもし『平民』だったなら、王子を拐って牢に入れるなんて、死刑確定だもの。


はぁ、わたくしが“誰か”そろそろ教えてあげようかしら?


「私達は、屈しない!」


またどや顔.........

声高々に馬鹿女は言い放つ。

そぅ?それなら面白そうだからネタバレはあとにしましょうか...?


「そうだ!!それに、俺は素晴らしい人間だからな!きっと女神のご加護があるだろう!」


......女神のご加護?......プッ......

アタマダイジョウブデスカァ??????

神(わたくし)の愛し子(加護を受けし者)はセレナーデよ?そのセレナーデをいじめたのあんただからな?あんたに加護とか絶対無理。


「キャー!!素敵!さすがセドリック様!!」


いやいや、女神の前でやめてくれる?スッゴい不愉快。

たぶんわたくし、今凄く怪訝な顔してると思うわ..........

気を取り直しましょう。


「フフ...ねぇ、私が王国を破滅に導こうとしているなら......あなたを拐う意味ないじゃない...?」


セドリックを見てわたくしは言う。

だって、馬鹿女の言う通り本当にわたくしが王国を破滅に導こうと言うなら国の上層部を拐うけれど...


もう王族でないあなたを拐う意味ってなぁに?


そんな意味を込めてセドリックに笑いかける。


「はぁ!?あんた馬鹿なの?!」


「あなたに言われたくないわぁ?」


まさか馬鹿女に馬鹿と言われるなんて.....

今、ほんと、まじめに、殺しそうになった......

危ない危ない♪

まぁ、私がセドリックを王族の人間でないかのような扱いをしたから、 まだセドリックが王族であると思ってる馬鹿女は私を『馬鹿』って思うわよね。

今もわたくしを睨み付けてくるし。うざいわね......


その間、セドリックはわたくしに言われた言葉について考えているようだったから、暇だし馬鹿女としばらく睨み合っていた......




「あ」


そんな声が聞こえてそちらを向くと、セドリックが

急に目を見開いてわたくしを見上げてきた......と思ったら、すぐに下を向かれてしまった......

下を向いたセドリックの顔は青い。

ああ、思い出したみたいね♪


「俺は...俺は、王位継承権を...」


「......?」


セドリックが体を震わせ、馬鹿女はそれを不思議そうに見つめる。


「剥奪された......」


「...え...?」


セドリックの一言に固まる馬鹿女。


わたくし、今の馬鹿女の顔はだぁいすき♪

大嫌いな人間の、自信が絶望で覆いつくされる様。

なんて素敵...


「そして......王宮を......追い出された......」


「じゃあ.....捜索...は...?」


「............」


セドリックと馬鹿女の顔が青から白へ。

へぇ~♪顔面蒼白っていうけど、顔色ってこんな変わるもんなんだね。ぴったりな言葉じゃない!!


「お楽しみのところ悪いけれど、あなた達には睡眠薬があまり効かなかったようだから、他の人より早く起きてしまったのね?先に"始めましょう”か?」


目の前の二人には、さっきのイチャイチャはどうした?自信どこ行った?と言いたくなったが我慢我慢。

そして、“始めましょう”と言う言葉に、弾かれたように顔をあげる馬鹿女とセドリック......


「ついてきて?」


こちらを見る目は“恐怖”しか感じていないようだった。なかなかついてこないし、ガクガクと震え動けないようであったから、私はニコリと笑って声高々に言い放つ。


「わたくしの名前は“女神”エリザ。我が“愛し子”である“セレナーデを傷つけた者達”に“罰を下す”。

今こそ断罪の時!!“罪人”よ。早くこちらに来い!わたくしに手間をかけさせるな!」


ビクリと体を震わせる“罪人”をわたくしは冷たく見下ろす。

さっきの気持ち悪い笑みはどこに行ったのか......?

さっきの自信はどこへ行ったのか......?

聞きたいことはたくさんあったが、今はどうでもいい。

体を宙に浮かせて目映い輝きとオーラを出せば、

罪人はわたくしのことを女神だと信じざるを得ない。

女神が怒っている。国の助けはこない。

それを知った罪人は完全に足に力が入らないようだった......

これでは、断罪できないではないか..................

わたくしは罪人を魔法で浮かせて断罪部屋へと運んだ。



ーーー今こそ断罪の時......






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

次回は二人の断罪シーンを書きます。

(エリザ目線で)




















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