4・ 女神と精霊王(2)

精霊王ビビアンはセレナーデを今か今かと待っていた。

女神エリザはマイペースなのでセレナーデがあのテンションについていけず困っているのではないかと気が気でない。

やはり、自分が迎えに行けば良かったのではーー?

いいや、そんなこと言ったらエリザはきっと自分がセレナーデを迎えにいくのだと暴れるだろう。

そんなことを考えてはぁっとため息を漏らすビビアン。

彼女の周りにいる精霊たちは、ビビアンが何を思っているか想像付いたのだろう。

フフフ......と笑っている。

そこへ、


「セレナーデのと~じょ~よぉ~~~!!!」


と言う声がこだまする。

ビビアンはその声にはぁっと息をつき、


「そんなに大きな声を出さずともあなたと一緒にセレナーデが来ていることくらいわかります。」


ビビアンは頭が痛くなるのをおさえて言う。


「ひどいわね~ビビアン!!」


転移してきたエリザはむぅっと口を膨らませてビビアンを睨む。

ビビアンはやれやれと思いつつエリザの横に視線を移す。

そこには、セレナーデの姿があった。

水晶で出来た精霊城は光輝き人間界では絶対見ることの出来ない美しさであった。

セレナーデはそんな美しい城を楽しそうにキョロキョロと見渡している。どうやら、精霊王や精霊の存在に気づいていないようだ...


「セレナーデ、はじめまして。」


ビビアンはセレナーデに近づき微笑む。


「ふぇっ...?!」


突然話し掛けられたセレナーデはビックリして変な声をあげてしまう。


「ふふ...可愛いわね。」


ビビアンはクスリと笑いそう言うと、


「私は精霊王ビビアン。セレナーデ、これからよろしくね?」


とウインクする。

だが、ビビアンの自己紹介をセレナーデは聞いていないようであった。


セレナーデはビビアンを目を見開いたまま凝視している。


人間界にはカメラがあり、それはだいぶ昔からあったものなので、セレナーデは魔女ウランが写った写真を見たことがあった。


目の前にいるビビアンは金色の髪にピンクの瞳なのだが、その顔立ちは魔女ウランとそっくりであったからだ...


「ああ...私の容姿についてかしら?

人間は知らないようだけど、私はウランの双子の姉なのよ。」


ええ?!!と驚くセレナーデ。

そんなセレナーデに、ビビアンは怒ることなく説明する。


「ウランは、姉思いのとても良い子だったのよ。

でもウランが人間の世界に訪れた日、

精霊と契約したいという力を欲した輩が、ウランに詰め寄ったの。でも、ウランは丁寧に断っていたわ......けれど、自分と契約を結んでくれないことに腹をたてた人間たちは、ウランを“攻撃”した。

ウランは突然襲われたから上手く攻撃をかわすことが出来なかった。ウランは深い傷を負ったの...」


ぽつりぽつりとウランのことを説明するビビアンはとても悲しげであった。


「それで...人間界を混乱に陥れた。」


ビビアンは話し終えるとセレナーデをまっすぐ見つめる。


「あなたは本当にウランにそっくり.........でも、きっとあなたは先祖返りだから、ウランの生まれ変わりじゃない。それに、私があなたを好きな訳はセレナーデがとっても良い子で可愛いからだもの。ウランにそっくりだからじゃない。」


苦笑いをしながらそういうビビアンは昔ウランと遊んだ時の懐かしい記憶を思い出す。


「精霊王様...」


ビビアンが思い出に浸っていると、

セレナーデがしゃべりだした。


「ふふ。ビビアンって呼んで?何か聞きたいことがあるのね?」


「ええと ......ということは、エリザ様やビビアン様はウラン様のことを嫌っていらっしゃらないのですよね?」


「「ええ。」」


セレナーデの問いに、

エリザとビビアンは同時に頷く。

魔女ウランは悪者だと言われてきたセレナーデは、ウランへのイメージを一新する。


「そうですか...良かったです。...あ、ビビアン様、これからよろしくお願いします。」


ペコリと頭を下げる可愛いセレナーデに、ビビアンは答える。


「ええ。喜んであなたを受け入れるわ!私の愛しいセレナーデ。」


ここにも一人。自分を必要としてくれる人がいる。

セレナーデとビビアンは互いに笑顔を向け合った。







「んん!このクッキーおいしいですねぇ!」


精霊城の庭でベンチに座ってお菓子を食べるセレナーデ。

その隣には、水の最高位精霊 シルクの姿があった。


「あなたは本当においしそうに食べますね。

見ているこちらが幸せな気分になります。」


シルクは美味しそうにクッキーを頬張るセレナーデを見て穏やかな笑みを浮かべる。

シルクは知的な美青年である。


そこにヒュオオオと風の音がしたのでそちらに目を向けるとそこには風の最高位精霊 ウィンが立っていた。


「僕にも分けて下さい!」


ウィンは人懐っこくかわいらしい少年でセレナーデにとって弟のような存在である。


「ああ、ウィンも食べなよ。」


「はい、どうぞ。」


クッキーを一つ、ウィンに渡す。

ウィンはクッキーを受けとると嬉しそうに笑った。

このクッキーはシルクが作ったもので、ぜひ食べて下さいと言われたので一緒に庭で食べることにしたのだ。

シルクとウィンの三人でクッキーを食べお茶を飲む。

セレナーデは精霊界に住むようになって毎日が幸せで穏やかな時間を過ごしていた...







『心優しいセレナーデは、復讐など望まない。』

セレナーデがクッキーを頬張る姿を遠くで観察していたエリザは思う。

だったら、セレナーデには知られないようにすれば良い。


「ウランのこともセレナーデのことも、いじめに関わっていた人間はただじゃおかないわ...絶対に許すものですか。」


エリザはフフッ...と笑う。


「じゃあビビアン、行きましょうか。」


隣にいるビビアンに声をかければ無言で頷き返してくれる。



これから女神と精霊王による慈悲など全くない残酷な復讐が始まる。

勿論、人間界でそれを知る者はいない。

セレナーデさえも知らないのだから...







二人は同時に人間界へ転移したのだった。








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