3. 女神と精霊王(1)

セレナーデは自分の部屋でベットに力なく横たわっていた。

他の生徒の部屋よりはるかに狭いが、ふかふかのベットがあるだけ屋根裏部屋よりは快適だった。

今日はセレナーデにとって大変な1日であった。

石を投げられ、セドリックに絡まれ、エリィに転ばされた。

それでもセレナーデは彼らを恨むことはなかった。


とにかく、今は疲れきっている。



突然、部屋にまばゆい光が満ちる。

セレナーデはビックリして小さく悲鳴を上げる。

光が収まりゆっくりと目を開けると、

セレナーデの目の前に光を全身に纏わせた美しい女性が立っていた。

女性は怯えるセレナーデの頬に細く長い指をそわせて包み込む。

銀色の髪と体は宙に浮かび、ふわふわとただよっている。

サファイアの瞳を細めてキレイに笑ってセレナーデの顔を覗きこむ。

セレナーデは身構えるが、その女性を見ていると

まさしく“絶世の美女”とはこの人のためにある言葉だと思ってしまう。


「そんなに怯えないで...私はあなたを傷つけたりしないわ...」


女性は悲しげに目を伏せると

キリッと顔を引き締めて言う。


「私は女神エリザ。セレナーデ・シュターナ......あなたには今日から精霊界で暮らしてもらいます。」


セレナーデは目を見開く。

目の前の美しく神々しい女性が女神だと言われても何ら不思議ではなかったが、自分が精霊界で暮らすとはどういうことか...


「あなたは、今まで“忌み子”と言われてきたのでしょう?」


「は、はい......私は神様に嫌われているって...」


「そう......私が女神っていうのは信じてくれる?」


「はい。」


セレナーデはこくりと頷く。

彼女が女神でないのなら何だというのか...


「私は、あなたを嫌ってなんかいないわ。

私は、セレナーデ...あなたが大好き。でもね、人間はあなたをいじめるから、私見ていられなくて。

それで、私はあなたを精霊界で暮らせるように精霊王ビビアンと一緒に準備したのよ。」


エリザは突然のことで驚くセレナーデに分かりやすいように説明した。


「それは...つまり...?」


セレナーデは戸惑いつつもエリザに質問する。


「あなたは私の(神)愛し子で、でも人間はあなたをいじめるから、だからあなたは精霊界で暮らす...その方がずっと幸せだわ。」


エリザは一つ一つ丁寧に説明する。

セレナーデは最初突然現れたエリザに身構えたがいつの間にか落ち着いていて、じっと話しを聞いていた。


「でも、私がいると精霊さんに迷惑じゃないですか...?」


「いいえ。それについては全く心配いらないわ。

だって皆あなたが大好きだもの...」


セレナーデは大きな瞳をさらに大きく見開き絶句する。

セレナーデは今まで“大好き”なんて言われたことはなかったからだ。


「私は大好きなあなたが傷つく姿をこれ以上見たくない。

だから...これからは精霊界で暮らしましょう?」


セレナーデはエリザの目をじっと見る。

真剣な目だ...


「はい...ありがとうございます。」


セレナーデは嬉しかった。

初めて『好きだ』と『必要とされた』と思うと

今まで寂しかった気持ちが少しずつなくなっていくようであった。


「やったぁ!嬉しいわ!(嬉しすぎて人間界を炎の海にしちゃいそう!)」


エリザの嬉しそうな声が部屋に響き渡る。

セレナーデはその姿を優しい瞳で見つめていた。




「そういえば、女神様は私をずっと見守ってくださっていたんですか?」


「ああ、エリザで良いわよ。

そうねぇ...あなたを見ていたわ...」


エリザは暗い声音で語る。


「私は...あなたを理不尽ないじめから助けてあげられなかった。本当にごめんなさい。」


セレナーデと目を合わせ謝罪の言葉を口にする。


「......っ?!い、いいえ!私エリザ様に見守っていただけていたこととても嬉しいです。」


「ありがとう...あなたを精霊界につれていくには基準の体に成長するまで待たなければならなかった。

けれど、私には大好きなあなたを助けられる機会がたくさんあったはずなのよ......」


見守ってくれていただけで十分だったのだが...

また大好きと言われてしまったセレナーデは、

エリザがあまりにも暗い顔をするものだから元気付けたくて、


「私も、エリザ様のこと、大好きです。」


と満面の笑顔で言う。

エリザはそれに固まってしまう。

そして次の瞬間...


「きゃぁ~~~!!!セレナーデ可愛いぃ~ほんと、もう、なぁんでそんな可愛いのよぉ~~!!!!」


エリザはセレナーデを抱きしめる。

今度はセレナーデが固まってしまった...


誰かに抱きしめられたのは初めてで、暖かくて...

今まで溜め込んでいた感情が溢れ出す。

気づけばセレナーデは泣いていた。


震えるセレナーデの体をエリザはしっかりと抱きしめて語りかける。


「ずっと...つらかったわね。怖くて...寂しかったのよね.....でも、これからは一人じゃないわ。」


エリザはセレナーデの頭を優しく撫でる。


「今まで良く頑張ったわ......」


そして、エリザは穏やかに微笑むと


「気のすむまで泣いてちょうだい......精霊界にはあなたを傷つける人はいないから安心して良いのよ...」


と言った。







しばらくたって、セレナーデが泣き止むとエリザは

楽しそうに、


「さあ、精霊界にはあなたを待っている人がいっぱいいるのよ!行きましょう。」


と言った。


エリザはセレナーデの手を取ると、精霊界へ転移したのだった...






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