2. スターヘスナ学園
スターヘスナ学園は王都にある11~18歳までの少年少女が通う学園だ。
この学園は平民も通っているが、実力至上主義なので身分関係なく頭の良い生徒は最高位クラスであるAクラスに属する。
そこから下にB.C.D.Eとクラス分けされる。
いわば実力のカースト制。
この国の王子セドリック・ノース・アズーナ と、
アズーナ王国宰相の息子ザック・ストーム は
共にAクラスで18歳である。
(この学園では学年の表記は11歳のBクラスなら
11ーBと表す。エリィは18ーB。リリィは17ーB。)
セレナーデは学園へ入学して一度も好意的に話し掛けられたことはない。
あまり部屋から外に出してもらえず、学園にも入学させてもらえていなかったセレナーデ。
世間の目から隠されるようにして生きてきた。
家でもひどい扱いだったが学園に来てからはよりひどくなった。
ヒュッと何かが飛んで来た。
次の瞬間、セレナーデの頭に激痛が走る...
「いたぃっ...」
授業を終えて外を歩いていると、石を投げられた....周りの生徒たちはセレナーデを見て笑う。
左頬を赤い線がつたう。
石を投げるのは平民の少女たちで、貴族の子息子女がこぞっていじめるセレナーデを自分たちも一緒になっていじめているのだ。
「おいおい、そんな騒いでどうしたんだぁ?」
そこに王家特有の黄金色の長い髪をなびかせて歩いて来たのは、セドリック王子。
セドリック王子は周りをぐるりと見渡してから血を流すセレナーデを見ると、
「ハハッ!!お前、こんな石も避けられないのかよ?とろいなぁ!」
と笑った。
そして、セドリックの隣に立っていたザックがおもむろに足下に落ちている石を拾い上げて、
「石を避けられるようになるまで投げてやるから、ちゃぁんと避けろよ?」
と言う。
セレナーデはさすがに命の危険を感じたので走って逃げる。後ろで 逃げるなーー!!というセドリックの声が聞こえたが一心不乱に走り続けた。
セドリック王子は、セレナーデを意味もなく土下座させたり無理やり虫を食べさせたりと、ザックと共にいきすぎたいじめをしている。
「大丈夫かい?」
走り疲れて人気のない所でうずくまっていたセレナーデに、エリックは優しく問いかける。
「大丈夫です。いつもありがとうございます...」
セレナーデはいつの間にかポタポタと溢れていた涙を拭ってよろよろと立つ。騎士団長の息子であるエリック・ダージリアはセドリック王子に奴隷のような扱いを受けるセレナーデを支え、助けている。
が、それは助けるふりであり...
陰では、セレナーデの根も葉もない噂を流したり、女生徒にセレナーデをいじめさせたりしている黒幕でもある。
いつも傷ついて泣くセレナーデを励ますふりをして騙して楽しんでいる。
エリックが噂を流し、いじめをさせているのは
シュターナ公爵家より身分の低い子女たちである。
この国の摂政であるノワール侯爵の娘エレミア・ノワールは、エリックから聞いた噂をたくさんの人に伝える役割を担っていた。
他にも、セレナーデの教科書を破いたり人気のないところに連れ込んで恥ずかしい写真を撮ったりとエリックに指示されたことの他にもいろいろないじめをしている...
エレミアはエリックに恋心を抱いている。
エリックはとても見目が美しく女性にモテるのだ。何より、彼の優しそうな雰囲気に弱い女は多い。
フラフラと歩いているセレナーデに足を引っ掻ける者がいた...
それは、エリィだ。
セレナーデは盛大に転ぶ。
「あら...ごめんなさい。足が引っ掛かってしまったわね...大丈夫?」
エリィは 演技が非常に上手く、セレナーデを転ばせたのだってただ“足が引っ掛かっただけ”と周りに見せることが出来たし、今だって転ばせたセレナーデを本気で心配しているかのように見せている。
エリィの周りにいる取り巻きたちは、
「まぁ、エリーベル様はお優しいわね。」
「ええ、本当に。忌み子にもお優しいなんて...」
と口々に褒め称える。
「だって、私の大切な大切な妹ですもの。」
「素敵!聖女様のようですわ!!」
エリィは褒められて満足したようで、セレナーデに微笑んでその場をあとにした。
セレナーデに向けて微笑みを浮かべるエリィの姿は悪魔のようであった。
それでも、心優しいセレナーデは自分をいじめた者たちの幸せも祈っているのだから本当に良い子だ...
精霊界よりセレナーデが小さな頃から見守ってきた精霊王ビビアンは思う。
女神エリザはいつ彼女を保護するつもりなのかーーと。
そんなことを思っていると、
「私、そろそろ見ていられないわ......今日の夜セレナーデを保護しましょう。」
と言って女神エリザが精霊界に転移してきた。
「私も愛しのセレナーデがこれ以上傷つくのは見ていられない。」
精霊王ビビアンも頷き返す。
女神エリザ、そして精霊王ビビアンの祝福を幼少より受けていたセレナーデ。
だが、人間は勝手にセレナーデを“忌み子”としていじめてきた。
エリザもビビアンも本当はもっと早く人間の世界からセレナーデを救いだして精霊界で保護しようと思っていたのだが、人間は体がある程度成長しないと精霊界に入った瞬間泡のように消えてしまうのだ。
だから、今までセレナーデが基準の体に成長するまで見守ってきた。
人間がセレナーデを殺せないと言っていたのは、神の“愛し子”であるからで決して強力な魔法を使っている訳ではない。
祝福の力である。
そして、魔女ウランの生まれ変わりと噂されているが、大昔のアズーナ王国には白い髪に赤い瞳を持つ女性がたくさんいた。
セレナーデの容姿は先祖返りだ。
「では、私はセレナーデを受け入れる準備をしますから、エリザはセレナーデを迎えに行ってくださいな。」
ビビアンが嬉しそうに微笑む。
「じゃあ、セレナーデを迎えに行ってくるわ。待っててちょうだい。」
エリザはビビアンの嬉しそうな笑顔を見てクスリと笑うと、転移してセレナーデの元に向かった。
セレナーデはつい先日基準の体に達したのだ。
今か今かと待ち望んでいたセレナーデを迎え入れる日が今日来る...
エリザは思う。
セレナーデを絶対幸せにしてみせる。と...
そして、
セレナーデを傷つけた者たちに復讐(天罰)を。と...
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