女神と精霊王と愛しの白

アルパカ・パカ

1. セレナーデ

神と精霊を信仰するアズーナ王国。

この国には、『神の王たる女神が世界を創造し、女神の作ったものを精霊が管理している。精霊王は精霊をまとめる者であり、神は女神を支える存在である。』という言葉が言い伝えられてきた。


シュターナ公爵家は、この国の貴族である。

セレナーデ・シュターナは、シュターナ家の三女で、絹のような光輝く白い髪に、ルビーのように透き通った赤い瞳を持つ美しい少女だ。

セレナーデは両親のどちらにも似ておらず、大昔にアズーナ王国を混乱に陥れた魔女ウランの容姿にそっくりであった。

そのため、セレナーデは幼少の頃から国中の人々に忌み嫌われていた。

家でも、勿論家の外でもセレナーデの居場所などどこにもなく、毎日のようにいじめられていた。

だが、セレナーデは常に他人の幸せを祈っていた。

どれだけいじめられても、セレナーデが彼らの不幸を望むことはなかった...

そんな、人間には珍しい清い心を持ったセレナーデは、アズーナ王国の者なら誰もが羨む神の『愛し子』だったのだが、それに気づく者はいなかった。



シュターナ家当主 ビン・シュターナは、学園の長期休暇で久しぶりに家に帰ってきた長女 エリーベル と 次女 リリィメルト に話があると言われて仕事を早く切り上げていた。


父娘は庭園でお茶をしながら話すことになった。


「お父様...私、最近ストレスがたまっているようですの。そのせいか、体調が不安定で......」


エリーベルことエリィは、ため息をつき 疲れたわぁ...と言う。


「な、なんと!!我が愛しのエリィや......おまえは頑張りすぎなのだ。たまには休むことも大切だぞ...」


「はい。ですが、ただ休むだけではストレスは軽減されませんよね?」


「と、言うと?」


エリィは話しが進んでいくごとに笑みを深めていく。そんなエリィをビンは疑問に思いつつも次の言葉を促す。


「つまり、ストレスを発散出来るものが欲しいのですよ!」


普段クールなエリィがあまりに楽しそうにそう言うものだから、ビンは目を見開き驚いてしまう。

ニコニコと笑うエリィを呆然と見つめるビン。すると、今まで黙って二人を見ていたリリィメルトことリリィが口を開く。


「私たちは、学園でストレスを発散できるものを望んでいるのです。....お父様、“あの子”を学園に入学させてください。」


リリィの発言に、今度は驚愕に目を見開くビン。


「“あの子”は私たちシュターナ公爵家の家名に泥を塗るだけの役立たずです。ですが、学園に入学させれば私たちのストレス発散道具として役立つことができる......」


「今までどんなに優秀な暗殺者でも“あの子”を殺せなかった...“あの子”はウランの生まれ変わりやも知れません。きっと、強力な魔法を使って自分を守っているのです!!ですが、“殺すこと”ができないのなら...自殺に追い込めば確実に殺すことができる。」


エリィとリリィは悪女の微笑みを浮かべながらビンに詰め寄る。


「もし“あの子”がウランの生まれ変わりだとして自殺まで追い込めばおとなしくこの世界から消えてくれるでしょう...学園全体で“あの子”をいじめれば....ねぇ?良い案だと思いません?」


固まっているビンに、リリィが高らかに言い放つ。


「ああ...確かに良い案だ...さすが、我が自慢の娘たちだ。」


固まっていたが、内容を理解したビンは口元を吊り上げ悪人の笑みをみせる。


そうして、セレナーデは学園への入学が決まったのだった...




セレナーデは、公爵家の屋根裏部屋に暮らしている。

セレナーデの世話をすると神に嫌われる という 噂をエリィが流していたため、使用人たちは屋根裏部屋に近づくこともなく、侍女すらついていない。

この家でセレナーデは 『いない者』も同然なのだ。


鍵のかけられた薄暗い部屋に一人。

1日に2回冷たい食事が運ばれて来るだけ。

久しぶりに見たビン(父親)も、会いに来てくれたと思いきや、何の説明もなく一言。


「お前には、スターヘスナ学園に入学してもらう。」


と言われただけ。それで去って行ってしまった。

目もあわせてもらえず、悲しくなるセレナーデ。


「スターヘスナ学園...確か、お姉様たちが通っている学園だった気が...でも、神様から嫌われてる私が行って良いのかな...?」


そんなセレナーデの呟きに答えてくれる人はいない。考えるのをやめて、うずくまって目を瞑る。

いつの間にかセレナーデは眠ってしまっていた。








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