第6話 一気飲みは控えましょう。
「一気! 一気!」
異様な熱気に包まれている店内。
銀色の髪の女性と飲み比べをしている大男が一人。
この大男は剣闘士だという。
日に焼けた肌と異様に盛り上がった筋肉を持ち、そして全身無数の切り傷が刻まれている歴戦の勇士といった風体だった。
「ベネリ。女に負けるな」
「お嬢ちゃんに全財産突っ込んだぜ! もっと行け!」
周囲の客も熱狂している。
どちらが勝つか、金銭を賭けているようだ。
二人がジョッキに並々と注がれたウイスキーを飲み干した。水割りであるが、ウイスキーをジョッキで一気飲みする酔狂な人物はそうそういないだろう。
「マスター! 次だ!」
威勢の良い声でお替りを注文するベネリ。ネーゼも両手を振って催促している。
剥げた店主がお替りのジョッキを二つテーブルに置く。
「これで12杯目。負けた方が全額支払っていただきますよ」
「任せな」
「はい」
店主の言葉に頷く両名。
そして再び周囲の一気コールが始まる。
ネーゼは一気に水割りのジョッキを飲み干した。
剣闘士のベネリは半分を飲んだところで固まってしまう。
「う……嘘だろ。この俺様がこんなお嬢さんについていけねえなんてありえねえ」
周囲はベネリコール一色に染まる。
そのコールを受けて残り半分を一気に飲み干すベネリ。
ジョッキをドンとテーブルに置くが、しかし、彼の眼は焦点が合わなくなっておりその場に座り込んでしまった。
「まだ飲める……わけない……あああ……次を……」
泡を吹きながら床に倒れてしまった。
「やったー! お嬢ちゃん最高!」
「信じられねえ!」
「うおおおお。オッズは10倍だぜ! すっげぇ儲かった!」
「貴様おごれ」
「好きなだけ飲め! がはははは!」
突如始まった剣闘士と異国の令嬢による一気対決。
おかげでパブは異様な盛り上がりを見せ、そして行きかう金銭はまた皆の飲み代へとつぎ込まれていく。
店主はネーゼにウインクして一本の酒瓶を渡す。
「お嬢ちゃん、今日は儲かったよ。これはお礼だ」
「頂いていいの?」
「ああ。これはハドムスで作られるアイスワインだよ。珍しいから持って帰りな」
「ありがと」
ネーゼは店主の頬にキスをして店から出ていく。
それに寄り添うドレッドだった。
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