第4話 潜在意識への尋問

 ネーゼ達は屋上の建屋から内部に侵入した。

 ネーゼがパチンと指を鳴らすとドアは自動で閉じ、そして再び施錠された。


「これで良し。誰もドアには触っていないし、鍵穴を調べても開錠した形跡は残らないわ」

「お見事です」


 バリスタの誉め言葉に破顔するネーゼであった。


「では……目的の部屋は何処かしら?」

「ここの下、四階の北西の部屋となります」

「誰かいるのかしら?」

「現在の時刻は……平時ですとバーバリア・クリエスだけですね。三階以下には家族や使用人が数名いると思われます」


 バリスタの言葉に頷くネーゼ。

 そして、両掌を合わせて息を吹きかけてからそっと開く。


 両掌の中から光る紫色の蝶が現れてひらひらと舞う。


「お願い。彼の部屋まで案内して」


 その光る蝶はネーゼの言葉に応えたかのように数度その場で羽ばたいた後、光る鱗粉を撒きながら階段を下りていく。それに続くネーゼ。バリスタとドレッドがその後に続く。


 通路の奥にある部屋の前で蝶が円を描いて飛んでいる。


「ここなのね。どうもありがと♡」


 ネーゼの言葉に数度その場で羽ばたいた後、その光る蝶は彼女の掌へと止まった。そして淡く光りながらネーゼの掌へと吸い込まれていく。


 そしてネーゼは右手をドアノブにかざして両眼を閉じる。

 彼女の右手は淡く輝き、その輝きはドアノブへと伝播した。


 カチャリ。


 僅かな音を立ててドアの鍵が開き、そして静かにドアが開いていく。


 集合住宅とはいえ、貴族の住まう部屋。

 ドアの造りから豪奢であった。


 エントランスからリビングへと繋がっている室内は広々としており、絵画や陶磁器などの美術品が飾られていた。そして台の上には憲兵隊の正装であろう甲冑も並べられていた。


「従者はいないのですか?」

「ええ。主人が寝ている間は粗相があってはならぬと部屋を追い出されているのです」

「あらあら。今はお買い物でしょうか?」

「恐らく。戻るのは……約三時間後でしょう」

「うふ。時間はたっぷりあるわね。じゃあ早速尋問しましょうか」


 怪しく微笑むネーゼだった。


 寝室へと進む三人。

 大型の寝台には髭面の大男がいびきをかきながら眠っていた。


「彼がバーバリア・クリエス」

「はい」


 ネーゼの問いに頷くバリスタだった。


 ネーゼは右手をバーバリアの顔にかざしてから両目を閉じる。

 しばらくしてから目を開いた。


「彼の潜在意識とコンタクトが取れました。今から質問に答えてくれます」


 突然バーバリアのいびきが収まり、静かな呼吸へと変化した。そして眠ったままのバーバリアは頷いた。


「あなたの名前は?」

「バーバリア。バーバリア・クリエスだ」

「職業は?」

「憲兵だ。警察の仕事をしている」

「所属と役職を教えてください」

「帝都第一憲兵隊所属。大尉だ。深夜帯の責任者をしている」

「ありがとう。貴方の上司は?」

「第一憲兵隊の隊長だ。名はブリダリア・ドルト中佐」

「彼とは仲がいいの?」

「良いわけがないだろう。私の仕事に何かとケチをつけてくるのだ。その為のまいないが馬鹿にならない」

「何かやましい事でもしているのかしら」

「夜間の治安を守る為だ。多少の違法行為は見逃さねばならない」

「大きな犯罪を取り締まるために小さな犯罪は見逃しているの?」

「そういう解釈で合っている」

「そう。例えば、何か金品を受け取る事で犯罪行為を見逃すことはある?」

「時と場合による」

「違法薬物は?」

「シマを荒らさず大人しくやっている分には袖の下で大目に見ている。しかし、組織的な抗争や暴れる乱用者は連行する」

「人身売買とか?」

「それを見逃す事は無い。しかし、外国人であれば保護の対象外だ」

「そういう組織があるの?」

「ある。しかし、帝国民には手を出させない。それが俺の矜持きょうじだ」

「でも外国人は保護の対象外なのよね」

「そうだ」

「異世界の人間も」

「そうだ」

「つまり、保護の対象外である人間ならば貴方は無視するのね」

「違法ではないからだ」

「そう。見返りがあるの?」

「ああ。それが一番儲かる」

「その組織の活動にあなたが協力しているのね」

「ああそうだ」

「でも、隊長の中佐はそれに気づいた」

「いや、まだ気づいてはいない。それに奴は金で何とかなる」

「何とかならない人がいるのね」

「勿論だ。副隊長のワイゼ・ヘールマン少佐だ。奴は堅物だから人身売買などあってはならぬと息巻いているのだ」

「本部の方はどうかしら」

「不味い。この情報が漏洩すれば俺だけでなく中佐も職を追われるだろう。服役か、もしくは処刑されるかもしれない」

「それはどうして?」

「俺のバックにいる……いや、これだけは言えぬ」

「教えてよ」

「……ダメだ……それだけは言えない」

「つまり、政府の中にあなたの行為を容認している人がいる……皇族かしら?」

「……言えない」

「わかったわ。ありがとう。最後に一つだけ聞かせてもらえるかな?」

「何だ」

「人身売買組織とその首謀者の名前を教えて」

「い……異世界の魔物だ。アンデゼルデの者ではない」

「その名は?」

「ア……アール・ハリ・アルゴル。組織の名は毒蛇パイソンだ」

「次に彼と会うのはいつ?」

「今夜だ」

「ありがとう。お疲れ様でした。ゆっくりとおやすみなさい」


 ネーゼが手をかざすとバーバリアは再びいびきをかき始めた。


「長居は無用。帰りましょう」

「また空を飛ぶのでしょうか?」


 ドレッドの質問に首を振るネーゼ。

 

「帰りは瞬間移動テレポートしましょ。さあ私の手を握って」


 ドレッドとバリスタがネーゼの手を握る。

 三人は眩い光に包まれその場から消えた。

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