第2話 諜報活動開始
「ネーゼ様。あまり羽目を外されませぬように」
「あら、バリスタさん。それはどういう意味かしら?」
「どうもこうも、周りの人が困っちゃうんですよ」
涼しい顔で笑っているバリスタ・クラッシスだった。
見た目は褐色の肌をしている中東系の美丈夫。しかし、彼は黒剣と呼ばれる皇帝直属の隠密である。
「そういう事です。お手柔らかにお願いします」
そう言ってネーゼから離れて一礼をしたのはドレッド・ノーザン。黒人で逞しい体つきの彼は帝都防衛騎士団の団長であり、SPとしても優秀な人物である。
「あらあら。みんな厳しいんだから」
「お戯れを。次期皇帝となられるべき方に粗相があってはなりませぬ」
「硬い事を言うのね。ドレッド」
「それが私の役目でございます」
再び恭しく礼をするドレッドだった。
「ところで、黒幕の目星はついているのかしら?」
バリスタに向かって単刀直入に質問するネーゼだった。バリスタは笑いながら首を振っている。
「残念ながら確証のある情報は掴めておりません。疑わしいのは第一憲兵隊……すなわち帝都担当組織No.3の彼。バーバリア・クリエスです」
「理由は?」
「彼が夜間勤務者の隊長であり責任者だからです。この帝都ハディラにおける憲兵隊の質の事はご存知でしょう。ネーゼ様」
「知っていますよ。規律が取れ紳士的な日中の部隊と、横柄で態度の悪い夜間の部隊があると。同じ組織とは思えない質の違いがありますね。バリスタ」
「その通りです。おかげで帝都ハディラは治安が良く安心して出歩ける都市なのですが夜間は危険です。薬物の売人や乱用者、娼婦やチンピラヤクザ、そして暗黒の魔術師連中が闊歩します」
「落差が激しい」
「その通り。そして憲兵隊がその闇の部分と繋がっているのです」
「その元締めがバーバリア・クリエスなのですね」
「そうであると思います」
「思います? つまり確証はない」
「そう。ですから確認いたしましょう」
「今からですか?」
「彼は夜間勤務者の隊長です。今はぐっすりと眠っていますよ」
「うふふ。腕が鳴りますわ」
やる気満々のネーゼだった。
しかし、ドレッドはそれに苦言を呈した。
「ネーゼ様。諜報活動は黒剣に任せ、貴方様はこの部屋で待機してください」
「つまらない提案は却下しますよ。ドレッド」
「しかし、そのような危険な場所へ赴かれては御身に危険が……」
「大丈夫です。私はこういう冒険がしたくてわざわざこの国へ参ったのですよ」
「しかし……」
「心配ならあなたも来てください。さあバリスタ。案内して」
「御意」
やれやれと言った表情で首を振るドレッド。バリスタは笑いながら彼の肩を叩いていた。
「バーバリアの寝所はこのホテルから西へ約5㎞程です。中流貴族ですが帝都では集合住宅住まいですね」
「集合住宅?」
ネーゼが首をかしげる。その疑問にバリスタが答える。
「貴族用のアパートです。単身者向けですが、従者も一緒に住めるよう広々とした造りとなっております。豪華ですよ」
「では馬車を用意しましょう」
「待って」
ネーゼはドアノブに手をかけ外へ出ようとするドレッドを制した。
「空を飛びましょ。あなた達もね」
「御意」
笑顔で頷いているバリスタと、額に手を当てて俯くドレッドだった。
三人は大窓を開けてベランダへと出ていく。
ネーゼはその場でふわりと浮き上がった。
飛翔の法術である。
「さあ、あなた達も」
そう言って両手を差し出すネーゼ。バリスタとドレッドは左右からネーゼの手を握る。
三人は一気に高い空へと舞い上がった。
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