荒野の決闘☆ハドムス帝国への侵入

暗黒星雲

第1話 呑気な侵入作戦

 ポオオオオオオ


 魔道機関車の汽笛が鳴る。

 列車は金属音を響かせて停車した。


 ハドムス帝国の帝都、ハディラへと到着したところだ。


「では参りましょう。ドレッド」

「はい。ネーゼ様」


 黒人の男性と銀髪の白人が連れ添っている。

 ドレッドと呼ばれた黒人男性は比較的長身で逞しい体つきをしていた。そして、ネーゼ様と呼ばれた女性はふくよかな体形をしていた。地味な旅人用のローブを羽織っているが、その豊かな胸元は隠しようがない。


 列車から降り立った二人は駅のホームからエントランスホールへと向かう。憲兵隊と思しき人員が忙しく動き回っていた。


 その憲兵の一人が躓いてネーゼとぶつかってしまう。


「失礼しました。お嬢さんお怪我はありませんか?」

「大丈夫ですよ。ところで何か事件でも起こったのでしょうか?」

「実は、帝都ハディラの郊外にて賊が暴れているのです。その対応に追われていた所なのですよ」

「それは恐ろしいわね。ここは大丈夫なのですか?」

「問題ありません。ここハディラの防衛は完璧です。城壁の外側、特に東方のバームラル川方面には出かけられないように。騒乱はそちらなのです」

「御丁寧にありがとうございました」

「いえいえ。どういたしまして」


 将校らしい人物だった。兜に赤い羽飾りがついていた。彼は笑顔で挨拶をし、駆け足で去っていく。


「ララちゃん達かしら。早速暴れてるみたいね」

「お気の毒ですね」

「うふふ。そうね、明日の新聞でどんな風に書かれるのか興味があるわ」

「黄金の悪魔と獅子の魔獣が暴れたなどと書かれるのでしょうか」

「あら。その比喩は素敵ですわ」

「お褒めにあずかり光栄にございます」

「では」

「はい」


 二人は馬車に乗り宿泊予定のホテルへと向かった。


 そこはハルトマン記念ホテル。

 帝国一の設備を擁する賓客を迎えるための豪奢な建造物。


「これは凄いわね」

「ええ。我が帝都の中央聖堂のような荘厳さがあります。しかも巨大だ」

「ええ」


 彼らの母国であるアルマ帝国にも存在しない巨大な建築物。

 基本的には石づくりであり、また金属をも多用した異質な構造であった。そしてそれは高層、即ち地上20階ほどの高さがあった。


 馬車を降りた二人は、エントランスに控えていた係員にホテル内へと案内される。そしてフロントカウンターでチェックインの手続きをする。


国籍:ペルシエル共和国

住所:メルナイ

職業:会社役員

業種:総合商社

氏名:バリウス・アルバート、テラ・アルバート

続縁:夫婦

滞在予定:7日


 ドレッドが書類に記載していく。ネーゼは旅券や入国許可証などの書類を係員に提示して見せる。


「ハディラへようこそ。新婚旅行ですか」

「ええ」


 ネーゼは少し俯き頬を赤く染める。その姿を見ながらドレッドは苦笑していた。


「夜間の外出は控えて下さいね。冷えますしチンピラがウロウロしてるのです。憲兵も夜間勤務者はゴロツキなんです。特に他国の人に対しては非常に横柄な態度を取りますので」

「御忠告に感謝します」

「いえいえ。こちらがルームキーです。係りの者がご案内します。お荷物はお部屋に届いております。ではごゆっくりお楽しみください」

「ありがとう」


 白髪の係員が手を振って見送ってくれる。

 案内役はまだ子供だった。ララと同年代であろうか、その女の子も笑顔で案内してくれた。エレベーターに乗り最上階まで上がる。彼らの部屋は見晴らしの良いスウィートルームだった。


「皆笑顔で応対してくれますね」

「そうね。国家としては敵対しているけど、民間レベルでは友好関係にある。いがみ合っても何の得もないでしょ」

「ごもっともです。ところでネーゼ様。このシチュエーションは如何なものかと思うのですが」

「いいじゃないの。新婚気分で楽しんじゃいましょ」


 そう言ってドレッドに抱きつくネーゼだが、ドレッドの方は恐れ多いとばかりに身をよじって逃げようとする。


 そこに部屋のドアをノックする音が聞こえた。

 扉を開けていないのに一人の男が立っていた。

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